日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

幻のテナー 米澤傑さんのコンサート

2009-07-05 16:38:23 | 音楽・美術
米澤傑(すぐる)さんの名前を耳にして久しい。誰かに教えられて、そしてCDが出ているとのことなのでCD店に走ったが見つからなかった。さきほど亡くなった音楽評論家の黒田恭一さんが、これぞ本物のテノールの声と絶賛されているとのことで、黒田さんべったりの私にはそれだけで興味が掻きたてられたが、なんと米澤さんの本職?が鹿児島大学医学部の先生だというので、素人芸とはおよそかけ離れた芸術性の高い本格的なテナーの生の歌声への思いがますます高まった、しかしこれまでそのチャンスがなかった。その米澤さんのリサイタルが7月4日に大阪市中央公会堂であることを歌好きの友人に教えられたので、飛び立つ思いで聴きに出かけた。この中央公会堂はソプラノ佐藤康子さんの歌を聴いた時以来である。主催は「朝の光クラシック実行委員会」で第46回公演、文字どおり午前10時半につぎのプログラムで始まった。


伴奏は今岡淑子さんで、プログラムにもあるようにオペラの「ピアノソロによる間奏曲」を弾いている間に米澤さんが一息継ぐという構成で、全体が休憩で途切れることなくスムーズに流れた。歌はトスティの歌曲で始まった。ついついメロディーを口ずさみたくなるがそれはじっと我慢の子、いや、確かに美しい歌声である。でも米澤さんの声の特徴を掴みかねているうちに、「初恋」と「出船」が続けて歌われた。米澤さんがとくに意識されているのか、日本語が随所で日本人離れの発音になるし、それと同時に少し変わった節回しが入るのでカンツォーネのようにも感じ取れる。そう思ってみると「初恋」も「出船」もカンツォーネのタイトルにぴったりである。その意味でこの「米澤節」は面白くて楽しかった。

圧巻は伸びのあるHi-Cをたっぷり味わえるオペラのアリア編、真っ正面からHi-Cにぶつかっていく気力と迫力、そしてその力強さに女性ならずともうっとりとする。並大抵の精進ではないような気がした。米澤教授の午後の講義に学生として出席してうつらうつらし始めている時に、教授に「誰も寝てはならぬ」で目を覚まささせて貰ったら、もうたまらないだろうなとつい思った。最後のカンツォーネの部ではますますのりがよくなって、思うがままに声を操って聴衆までものせてしまう。いつのまにか熱狂した女性の歓声が大きくなっていた。今回の演奏から総じて米澤さんの歌唱の本領は「力攻め」にあるように感じたが、たとえば「耳に残る君の歌声」ならどう歌われるのか、機会があれば聴いてみたいものである。

実はこのリサイタルの入場料は1000円なのである。ただただ有難い。それなのに?米澤さんはアンコールにカンツォーネを三曲も歌った。締めくくりは「サンタ・ルチア」で、1時間あまりの息を継ぐ間もないほど緊張感の溢れたリサイタルが終わりを迎えた。それにしても米澤さんは羨ましいお方である。学生に医学教育をほどこす一方、声楽では音楽の醍醐味を自ら味わい、さらに多くの人に幸福感を与える。人間としての冥利に尽きるというものだ。

一つ残念なことがあった。ブラボー屋の心なき振る舞いである。とくに歌曲の部、ピアニッシモの余韻がまだ続いている最中に「ブラボー」の一声でぶちこわす。近くにおれば席を立ってでもいちょもんつけに行くところだった。ブラボー屋のべらぼうめ!である。また空席を挟んだ右隣の見かけは上品なご婦人が、演奏が始まるとごそごそと扇を取り出し、パタパタと始めたのには驚いて、米澤さんが舞台裏に一時引っ込んだ折りに「恐れ入りますが、演奏中の・・・」とお願いし、扇子の使用を止めていただいた。うるさすぎだったかな?

演奏会のあと会場ホールでCDを購入して米澤さんにサインして頂いた。ミーハーついでに、ちょうどお昼時だったので、中央公会堂のレストランで美味しい「オムライス」を頂く。土曜の半日、とにかく楽しかった!




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