日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

少年臓器移植 お涙頂戴美談?仕立てへの疑問

2011-04-24 18:15:52 | Weblog
私はもともと家族承諾による脳死臓器移植には反対なのである。その理由を臓器移植法改正が必要? 自分の身体は誰のものなのかで次のように述べた。これは臓器移植法の改正A案が衆議院を通過し、参議院で審議が始まっている時点で書いたもので、少々長いがお目通しを頂きたい。

現行法では本人が自分の臓器を移植術に使用されるために提供する意志を書面にて表示している場合がある。いわゆる「ドナーカード」であるが、元来自分のものである身体の一部をある条件下で移植に提供するとの意志を表明したもので、この流れは素直に理解できる。ところが「臓器移植法改正A案」では自分が「拒否カード」のようなもので、わざわざ臓器の提供に応じないとの意思表示をしない限り、家族の同意さえあれば臓器が持ち去られてしまうのである。「ドナーカード」であれば元来自分のものである身体の一部を、もしお役に立つのならお使いください、と自分の意志で提供を認めるもので、何か人の役に立ちたいと言うモーティベーションにも素直にかなうものである。それが「臓器移植法改正A案」では、わざわざ提供するなんて云って貰わなくても家族さえ説得できれば臓器は貰えるのだから、と、人の善意を不当に貶めることになってしまう。

自分の身体は自分のもの、たとえ家族といえども太古からの自然のことわりを侵す権利はないのである。われわれは自分の臓器が他人に取られることをわざわざ拒否しなければならないという発想自体が自然のことわりを犯していることを心に銘記すべきなのである。自分の身体は誰のものでもない、文字どおり自分のものである。その自然のことわりを破壊する権利が国会議員なんぞにあるはずがない。参議院での審議が始まったにせよ、「臓器移植法改正A案」が否決されることを、それこそ『良識の府参議院』に期待する。

あらためて繰り返すが、私は現行の臓器移植法は「自分の身体は自分のもの」という基本理念の上に立っている妥当なものだと思っているので、この法の理念の下に行われる臓器移植は容認するというのが私の立場である。

また繰り返しになるが臓器移植法改正問題 子供の臓器移植 「あきらめ」もでも次のように述べた。

「自分の身体は自分のもの」の自分には、A案にあるように年齢制限のあるはずがない。従って子供からの臓器提供が可能になるのは、年齢の線引きが問題になるにせよ、子供が自分の意志で認めた場合のみである。いかに親といえども、子供に代わり、死んだその子の臓器提供を申し出る権利はないのである。「子供の身体も子供のもの」なのであって、人間である限り「自分の身体は自分のもの」にいかなる例外もあり得ない。現行法はその精神に合致しており、従って変えるべきではないので、A案なんぞはもってのほかと言うことになる。

このように私は本人が臓器提供の意思を明示していないのに、家族が勝手に臓器提供を承諾することに反対しているのである。その立場で新聞報道などを見るものだから、隠されたもののいかがわしさが妙に引っかかって来るのである。

今日の朝日朝刊の見出し(左)と、朝日に掲載された3日前のさる週刊誌広告の一部(右)を並べてみる。


この少年の脳死臓器提供が次のように報じられたのは4月12日であった。

脳死の子どもから臓器提供へ10代前半 法改正後初

移植ネットによると、少年は事故で頭部に重いけがをし、治療を受けていた。主治医が8日、脳死とみられる状態になって回復が難しいこと、臓器提供の機会があることを家族に説明した。移植ネットが一連の手続きなどを改めて説明した。少年は臓器提供を拒む気持ちを過去に示したことはなく、提供の意思も書面に残していなかった。病院は少年が虐待を受けていなかったと判断した。

家族は11日、移植ネットに脳死判定と心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)、小腸の提供を承諾。12日午前7時37分に2回目の脳死判定が終わって死亡が確定した。臓器の摘出は13日朝の予定。心臓が大阪大病院で10歳代男性に移植されるほか、他の臓器も各地の病院で移植される予定。

両親は「臓器提供があれば命をつなぐことができる人たちのために彼の身体を役立てることが、いま彼の願いに沿うことだと考えました」とコメントした。
(asahi.com 2011年4月12日13時27分)

今日の朝日朝刊にはasahi.comで取り上げられていない次のような記事がある。

治療過程 なお不透明

 子供からの臓器提供の焦点は、虐待がなかったことの確認ののほか、脳死判定は適切に行われたか▽家族は自発的に提供を決めたか――などだ。(後略)

とある。治療過程の詳細が明らかでないと指摘しているのであるが、それならわざわざ家族にインタビューした際に、そういう疑問点は取材できなかったのだろうか。さらに事故の状況なども詳細が一切明らかにされていないから、週刊誌の広告見出しにもあるような憶測まがいが飛び出るのであろう。この朝刊記事でも事実の詳細が報じられないまま、見出しのみが目に飛び込んでくる。

私がとっさに連想したのは戦争中の軍国の母だった。白木の箱で帰ってきた戦死した息子を迎えても、心の悲痛を押し隠し人前では毅然とした態度を取らなければならなかった。そのように新聞、ラジオなどを通して世間が仕向けていたからである。たとえば島田磐也作詞、古賀政男作曲の「軍国の母」(昭和12年)を美ち奴が唄っているが、4番まである歌詞を3番まで挙げてみる。

1 こころ置きなく 祖国(くに)のため
  名誉の戦死 頼むぞと
  泪も見せず 励まして
  我が子を送る 朝の駅


2 散れよ若木の さくら花
  男と生まれ 戦場に
  銃剣執るのも 大君(きみ)ため
  日本男子の 本懐ぞ


3 生きて還ると 思うなよ
  白木の柩(はこ)が 届いたら
  出かした我が子 あっぱれと
  お前を母は 褒めてやる


朝日朝刊の見出しがこの赤字の部分と重なって私の目に映ったのである。戦時中と同じだなと思った。遺族は新聞に書かれたようなことを言わざるをえなかったし、また無理にでもそのように思うことで悲しみ、苦しみを乗り越えようとしているのではないかと想像した。というのも私には家族が無理に承諾させられたように思えるからである。

今回の臓器移植には主治医を始めとする医療関係者の職業的使命感に加えて、間違いなく脳死下少年臓器移植にわが国で先鞭をつけるという功名心も働いていたのではと思う。両親を始めとする家族は主治医の「熱意」に押し切られて臓器提供を承諾するようになったのであろう。少年の事故がどのようなものでその経緯の欠片すら伝わってこないが、家族にとっては青天の霹靂であっただろう。臓器提供を決断するに至った家族の心の動きとなるのだろうか、朝刊はこのように伝えている。

 両親にはこのまま火葬したくないという思いが強くあった。祖父は「あの子は世の中の役に立つ大きな仕事がしたいと言っていた」と発言。最終的に、みんなで臓器提供を決めた。

新聞記事をそのまま信じるわけではないが、私に言わせるととってつけたような状況説明である。杞憂であって欲しいが、もし祖父の言葉と伝えられる言葉のみが一人歩きして世間に喧伝されるようになると、学校でいじめに遭った児童達が「私の臓器をどうか役立てて下さい」と遺書を残して自殺するような流れが出てこないとも限らない。朝日といわず新聞の得意とした戦時中の「戦意昂揚記事」の浅薄さが目についた。

ところでわが国では家族の承諾のみによる脳死下臓器提供が国民からどのように受け取られているのだろうか。私は脳死下臓器提供を承諾した家族は100例中1例?で改正臓器移植法が始まってから50日間に、家族が承諾すれば脳死者になったであろう「脳死者」が500人発生したと考えられるのに対して、家族が承諾したのが6例であることを述べた。少年の家族が臓器提供した4月13日までの270日間に推定「脳死者」が2700人であるのに対して、家族が脳死判定と臓器提供を承諾したのは34例であるから、100例に対して1.26例で、当初50日間の1.2例と大きく変わらない。端的に言えば国会を通過した改正臓器移植法が国民からはほとんど支持されていないことになる。臓器提供の選択肢のあることを家族に告げる告げないは主治医の判断にかかっている。この現況に鑑み、本人の提供意思が明示されていないことさえ確認出来たら、家族のその承諾を求めることは控えるべきであろう。医師の人間としての良識を期待したいものである。

追記(5月3日)

asahi.com(2011年5月3日12時14分)によると5月3日現在、脳死臓器移植、家族承諾のみ43例目とのことである。改正法施行後290日目で「法に規定する脳死判定を行ったとしたらば脳死とされうる状態」が毎日10例と従来通りに考えると、家族承諾のみによる脳死下臓器提供は「脳死」100例中1.48例となり、当初50日間の1.2例より1.2倍増加したことになる。上記本文で270日間に34例と記したのは38例を間違って転記したようであるのでその旨をここに留めておく。


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5 コメント

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Unknown (nurserygoverness)
2011-04-25 20:51:16
「あの子は世の中の役に立つ大きな仕事がしたいと言っていた」がなぜ臓器提供となるのか、理解出来ません。これをまんま受け止める人たちもいるのかと思うと、ぞっとします。
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>医師の人間としての良識を (ドクターK)
2011-04-27 01:00:55
助かる可能性のある、命を助ける事に対してベストを尽くす事だと現場をみて実感しています。あなたのお孫さんが拡張型心筋症で余命半年を宣言された時、あなたのご家族の中でも意見は割れると思います。ベストに近い選択肢の広がりに異論を唱える事が美徳とは思わない人が少なくない事もご理解いただきたいものです。
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>ベストに近い選択肢の広がり (lazybones)
2011-04-27 15:23:13
>ベストに近い選択肢の広がり
が具体的にどのことを指すのか私には理解出来ておりませんので、直接お答えすることは差し控えますが、「自分の身体はじぶんのもの」という基本理念に立脚した改正前の臓器移植法による脳死下臓器提供は容認しているのが私の立場であることをまず申し上げたいと思います。改正後でも臓器提供者の意思が明確な場合は同じ立場です。従いまして
>助かる可能性のある、命を助ける事に対してベストを尽くす事
にはまったく同感いたします。私が問題にしているのはただ一点、臓器提供者の意思が明確でない場合に、遺族の承諾のみにて臓器摘出を行うことには反対であるということに尽きます。ただ
>医師の人間としての良識を
は舌足らずでありましたので、もうすこし説明を付け加えたいと思います。

臓器移植法が施行される以前からも脳死判定を行っていた医療機関では、無意味な延命治療を避ける意味でも患者の家族に症状や今後の見通しを説明して、家族に治療中止などの選択を委ねたりしていたと私は理解しております。ある医療機関では当初は80%超える家族が治療中止の判断をしていたのに、1980年から20年も経過すると治療中止判断の割合が60%ぐらいまで低下したそうです。その原因の一つに97年の臓器移植法の施行で社会の関心が高まったことが挙げられています。

臓器移植法が施行されてからも、主治医の第一選択肢は脳死判定後の治療継続について、状況を説明した上で家族の判断を求めることではないでしょうか。かりに脳死下臓器提供が患者の意思として明確な場合でも、その同意を家族に求めるのはそれからのことだと思います。ましてや患者が脳死下臓器提供の意思を明示していなかった場合には、その承諾を家族に求めるかどうかの判断自体が主治医に委ねられていることになります。本人の意思が明確でない場合にはその家族に脳死下臓器提供の承諾を求めないことを方針としている医療機関もあるやに聞き及びます。とくにその対象者がどのようにして自分の意思を表明したらよいのかをどのように教えられているのか、その状況が社会的に周知の事実となっていない現状で、15歳未満の未成年者に『臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)一部改正』にあるような次の指針の有効性そのものに疑問を持つ主治医が出てくることを私は期待して「医師の人間としての良識」と述べた次第です。ご理解いただければと思います。

 「臓器を提供する意思がないこと又は法に基づく脳死判定に従う意思がないことの表示については、法の解釈上、書面によらないものであっても有効であること。また、これらの意思が表示されていた場合には、年齢にかかわらず、臓器を提供する意思がないことを表示した者からの臓器摘出及び脳死判定に従う意思がないことを表示した者に対する法に基づく脳死判定は行わないこと。」(指針一部改正新旧対照表から)
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患者の人間としての選択 (nurserygoverness)
2011-04-27 21:27:07
私の子供は出生後に心臓病で手術をしています。「慢性心疾患」と共にこれからを生きていくのです。当初、移植が必要かもと言われた時のショックは未だに引きずり続けています。また小児医療にも携わっていたため余計です。子供の主治医がコメントした部分を引用させて頂きます。
「僕は、個人が移植を肯定するか否定するか、特に自分がドナーになるかならないか、という問題は、医療側が決める問題では無いと思っています。そして医療サイドの義務としては、移植そのものそして移植医療とはどのようなものなのか、どういう欠点および利点があるのか、を広く説明し理解してもらうことだと思っています。そして、個人個人が移植を考える機会を持ち、それぞれの人生観、倫理観に基づいて移植医療を受け入れるか受け入れないか、ドナーになるかならないかを公平な立場で判断してもらえるようにいていかなくてはと思っています。そうした基盤がしっかり出来て、はじめて移植医療が根づき、広がっていくのではないでしょうか。日本の中で、今はもうひとりひとりが、他人事としてではなく移植を考える時なのです。」非常に難しい問題です。
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患者の人間としての選択② (nurserygoverness)
2011-05-27 22:21:46
臓器移植は永遠に闇の中にあり、答えなど存在しない問題に思えてきてしまいます。

http://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm
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