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日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

宮城谷昌光著「風は山河より」を読みつつ大掃除

2009-12-29 11:52:20 | 読書
これまで大晦日にやっていたキッチン周りの大掃除を今年は早めにすることにした。それだと時間を余り気にせずに念入りに仕事ができるし、綺麗になったキッチンでお正月支度をやって貰えるし、と発想転換したのである。愛用のスチームクリーナー(ケルヒャー1501)が相変わらず大活躍をしてくれた。一回の給水が1リットル、それを何回も繰り返したの10リットル近くは使った。それくらい念入りにしたのである。クリーナー用の真鍮ブラシを行きつけのホームセンターでたまたま見つけたので、今年はそれを使ったところ、ガスコンロのグリルが驚くほどあっけなく鋳鉄の地肌を取り戻した。やはり道具は使いようである。

それはよいのだが、結局二日がかりの大掃除となった。丁寧に仕事をしたのもその理由の一つであるが、それよりも仕事の合間に本を読むつもりが、本を読む合間に仕事をするような羽目になってしまったからである。その本とは暮れに第五巻、第六巻が出て完結となった宮城谷昌光著「風は山河より」(新潮文庫)である。スチームクリーナーの水がなくなると新に水を補給する。それが沸いて蒸気を出せるようになるまでしばらく待ち時間がある。その時間つぶしにこの本を読み始めたのであるが、そこが宮城谷さんの小説のこわいところで読み始めたら最後、物語に引き込まれて湯が沸いたのも忘れてしまうのである。気がついて清掃作業に戻っても、早く本を読みたいものだからせっせと仕事に励む。読書と仕事をともに楽しむことができるなんて思いがけない相乗効果ではあったが、それだけ仕事が終わるまでに時間だけは確実に伸びたのである。


この本が単行本で出た時は全部揃ったら買おうと思ったが、全五巻で完結した時はそのうちに文庫本で出るだろう気が変わり気長に待っているうちに、全六巻に再編集されて出てきたのである。2年待つだけで済んだ。

徳川家康が幼少の頃今川家に人質にやられたが、それは父広忠が家臣により殺されたことに由来することぐらいは知っていた。しかし祖父松平清康の事績についてはほとんど知らなかったので、物語がその辺りのことから始まるので、欠けていた知識がうめられるように思ったが、話が展開して行くにつれて、これは家康の物語ではなく、戦国時代における三河の物語だと感じるようになった。そして主人公も東三河を本貫とする野田菅沼家の三代、定則・定村(さだすえ)・定盈(さだみつ)で、やがて焦点は定盈に絞られる。この本を読むまでは菅沼定盈の名前は私の意識にはなかったが、武田信玄の3万の軍勢を相手に400余の城兵で立ち向かい、一ヶ月の籠城を耐え抜いた武将である話になって、そのよう話が確かあったな、と思い出したのである。最後は水を断たれ、城兵の命の代わりに城主の命を差し出すこととして開城のやむなきに至るが、かれの武勇を称揚する武田信玄の決断で人質交換に使われ、無事徳川陣営に戻ってくる。そして著者はこのように筆を進める。

 菅沼新八郎定盈の驍名が天下に知られるようになったのは、織田信長の熱い褒詞があったためである。
 天正三年、武田勢に重囲された長篠城の奥平貞昌を救援すべく岐阜を発った信長は、五月十七日に野田に着陣した。ここで信長は、すでに野田城主に復帰していた新八郎を召してこういった。
 「かくのごとく不堅固なる小塁に、しかも微勢にて立て籠もり、大軍猛将の信玄を禦ぎける段、往古の楠(正成)にも劣らざる英雄なり」

野田菅沼家も元々は今川家に属していて、定盈は義元亡き後となって今川氏真の武将に人質として妻と妹を差し出すが、今川家に叛き松平元康(徳川家康)に誼を通じことを踏ん切った際に人質救出作戦が齟齬をきたし、妻が磔される悲運をも味わう。戦国乱世の世にあって弱い立場にあるものがどのようにして活路を切り開いていくのか。的確な情勢判断をするためには情報収集と分析が肝要で、それに失敗すると家は取りつぶされ人質は殺される、まさに一瞬の決断を躊躇することが運命を大きく分けるのである。今の不況の世の中に、形は変わってもこのような厳しさに立ち向かっている大勢の方につい思いが移る。

宮城谷さんは出身が三河ということで、戦国期の三河を書きたいとの思いを長年温めておられたとのことである。構想から資料集めなどの準備期間を含めて出来上がるまで二十五、六年はかかったとのことで、随所に資料の読み解きのあとが出てくる。時には一度しか登場しない人物であっても、他の登場人物とどのような血縁にあるのか、くどくどしくも感じられる丹念さなのでそれに浸る余裕があれば、自分まで史書をひもといているような悠然とした気分になる。この独自のスタイルがこの物語と言わず宮城谷さんの小説の大きな魅力なのである。そしてこれも私の大好きな時代小説作家諸田玲子さんとの対話で、菅沼という人を選ばれたのはどういう考えかと聞かれて、次のように答えている。

ちょっと引いたところにいる人間ですね。大体私は前に出る人間は嫌いなんです。自分自身もひっそりと生きてきた人間ですからね、引いて引いていく方が、生き方として、自分の性にあっています。企業人でもそうですが、前に出過ぎるとどこかで落とされる。ナンバー2がやっぱりいちばん優れた生き方をしているんですね。

最近話題になった「事業仕分け」で、なぜ次世代スーパーコンピュータが世界一でないといけないのか、なんてことが取り沙汰されたが、機械でない人間だからこそナンバー2を目指す自由のあることがなんだか嬉しく感じる言葉である。あらためて意識することにする。


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