星のひとかけ

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深まる秋に…:『深い森の灯台』『夜を希う』マイクル・コリータ

2018-09-14 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)
長かった夏も終わったようです…

この夏はミステリーだけを読んでいました。。 現実から逃避するためと、 世界中を旅するためと、、。。 
前に、 ある土地で起こる犯罪についても、 その土地の歴史や文化や人が生きて来た土地の記憶と無縁ではない、、ということを書いた気がしますが、、 エンターテイメントの犯罪小説の奥に見える その国その土地ならではの自然の営みや暮らしぶりや 人々のものの考え方を味わうのが好き。。 たとえ 拳銃の弾がとびかっていても、、 それはお話の中だけだとわかっているから。。。 その悲劇が現実化している場所が確かにあることを 読み終えて我に返って思い出し、、 やりきれない思いに沈むこともしばしばだけれど、、

でも、、 ミステリー好きの友と、 (ヴァランダーの女への迫り方ってほんとダメよね…)とか、 (ウールのセーターにフラノ地のスラックスで海岸散歩するダルグリッシュには 草の種=バカ とかいっぱいくっついちゃってるのよ、きっと) なんて妙なところで話が盛り上がったりして、、 (意地のわるい楽しみ方デスね…)

 ***

今回は 北米の 深い森と湖のミステリーをふたつ。



『深い森の灯台』マイクル・コリータ 原題 The Ridge
『夜を希う』    同上      原題 Envy The Night
 (青木悦子訳・創元推理文庫)

二冊載せましたが べつにシリーズものではありません。全く別のお話。

先に読んだ方が 『深い森の灯台』で、書かれたのはこちらのほうが新しく、 2011年 コリータ29歳での作品。 
『夜を希う』は2008年 26歳での作品。。 早熟のミステリー作家なんです。

『深い森の灯台』はケンタッキー州ソーヤー郡の 山深い森に独り住み、 森の中に灯台を築いて周囲に煌々と夜の光を投げかけ続ける奇妙な男、、 その死から始まるサスペンス。

この地でかつて起こった事件に関わった保安官代理、 このソーヤー郡の百年余りにわたる歴史を伝え続けてきた地元新聞の記者、 この地に自然動物保護施設をつくった女性、、 などなど次々に登場し、 森の灯台の周囲に謎と恐怖が満ちていく…

森の灯台、、という設定も興味深いように、 この作家さん 冒頭の話のつかみがとっても巧い。 状況の描写、 自然描写もうまいし、 登場人物の会話も おもわせぶりな台詞を小出しにしながら 何が起こっているのか明かさず引っ張る、、 

8歳くらいからミステリー作家にお手紙を出し、 スティーヴン・キングを大変尊敬していたという早熟の少年だったらしく、 どんどん読ませる文章力も。。 それで巧いなぁ… と思って、 ただ『深い森の灯台』は スーパーナチュラルな要素が強い、 ホラーに近いミステリーなので、、 私としては超自然的要素の無い事件のほうを読みたく、、 『夜を希う』を手に取りました。

 ***

『夜を希う』は、 ウィスコンシン州のウィローフローウィッジ(Willow Flowage)という湖をめぐるたいへん美しい場所が舞台の、 ハードボイルドサスペンス。

主人公が作家さんの当時の年齢とほぼ同じ、 25歳くらいで若々しくてかっこいい。。 でもその出生と育ちには重い重い血の継承が…。 あとFBIやら、 プロの殺し屋たちやら、、 最初はいったい何が起こっているのか、 この青年にまつわる過去に何があったのか、、 ぜんぜんわからないまま次々に人物が絡んでいくのは 『深い森の灯台』同様、、 話のつかみは最高なんだけど… 
ただ、 こちらの方が若書きというか こなれていないせいか、、 話の順序が混乱しやすく、本当はずっしりと重いものを抱えた人物たちなのだが、 その理由が明かされない
がゆえに苦悩の深さが今一つ読み手に伝わりにくい。。

読み終えて、、 もう一度振り返って やっと積年の苦悩の謎が解けるのですが…

でも、 美しい自然描写も良かったし、 心になにか抱えて生きてきたこの青年の、 この年代らしいほのかなラブストーリーもあって、、 血なまぐさいわりには瑞々しい読後感でした。

 ***

『深い森の灯台』の舞台でもある ケンタッキー州の自然動物保護区のサイト。
小説にも出てくる、 Mountain Lions 、、ほんとうにいるのですね⤵
https://fw.ky.gov/Wildlife/Pages/Mountain-Lions.aspx

この小説 The Ridge を検索していたら、 作者さんのインタビューが npr で見つかりました。 いつも音楽紹介で聴いているインディペンデントラジオ局でこういう若手作家さんの紹介もしていたのですね
Sanctuary Of Suspense: A Lighthouse On 'The Ridge' 

『夜を希う』のほうは、 ウィスコンシン州の The Willow という湖と森の美しい場所
https://dnr.wi.gov/topic/lands/willowflow/
↑こちらの picture gallery で美しい湖やフィッシングの写真が見られます。 小説の舞台はまさにこういう場所でした。


、、 自分も 生まれ育ちがわりと自然児なので、 全面結氷した湖まで徒歩で山を登ってスケートをしたり、 キャンプをしたり、、 針葉樹の森や湖の朝靄や 夜の嵐や、、 いろいろ体感としての記憶があります。 そのことが 何十年も経って大人からもう老境に近く(?)なりつつある今、 その記憶があることがすごく嬉しい。。


山はもう すっかり秋、だろうな…

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