星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

スタッフ5人のパタフィジック映画

2003-06-12 | 映画にまつわるあれこれ
 次から次へとやることはあるのだけど、本を読んだりレポート書いたりしなければいけないのと違って、「ながら仕事」が出来る分、いつもよりも映像作品をたくさん見られたりしています。お友達が送ってくれた音楽ビデオや、録画したままの映画や。
 映画大好きなBFの奨めで、以前『イギリスから来た男』という映画を見たのだけれど、ハードボイルドタッチのアクション物というのは大概、見終わったらすぐに忘れてしまうことが多いのに、不思議と色々な場面が時が経つにつれて、余計に印象が深まっていく映画だった。・・で、これが今や有名な監督、ソダーバーグだったと教えられ、想い起こせば観てる、見てる・・『セックスと嘘とビデオテープ』という初監督作品から次の『KAFKA』も、、、監督名など余り意識しない私はぜんぜんソダーバーグという名前を覚えていなかった。ああ、でも、時間が経過しても不思議な感覚が残っていて、また観ずにはいられなくなる、という点では共通していたのかも、と気づいた。

『セックスと嘘と・・』でカンヌのパルムドールをさらって以降、あまり日の目を見なくて、そんな時にスタッフ5人でみんな手弁当で撮ったという突拍子も無いモンティ・パイソン風映画『スキゾポリス』では、自ら主演もしていた。これが巧い!馬鹿げているけれどこの人、演技も脚本も編集も、きっと困るくらい才能が有り過ぎる人なのかもしれない。お顔もなんとなくボリス・ヴィアンに似ているけれど『スキゾポリス』はパタフィジュックな映画です。

 ところで話を戻して、『イギリスから来た男』(原題The Limeyは英国人の蔑称)の主演、テレンス・スタンプのなんと格好イイこと!(テーマ音楽がThe Whoで、それももの凄くカッコいい) テレンス・スタンプが偏屈である意味繊細な英国人を見事に演じて、一方、成金のアメリカ人をピーター・フォンダが演じている。ピーター・フォンダという人(もちろんイージー・ライダーの格好良さは知っていますが)後に『だいじょうぶマイフレンド』とか(なんでまたこんな映画に・・)と思うようなしょうもない役をなさったりもして、でも不思議な魅力のある人です。アメリカ版『テンペスト』では魔術狂いのプロスペロー役をやったりもして、くだらないようでいて、なぜかそこが似合ってしまう。

 あ、また話が逸れた、、、『イギリスから来た男』では、あの『ジュテーム・モア・ノン・プリュ』の美青年ジョー・ダレッサンドロの最新の姿も見ることができます(見るだけ、、という位、台詞が少ないのだけど)

 最近はソダーバーグ監督、有名になって、ジョージ・クルーニー、アル・パチーノなどの大物スター出演の映画を撮っていますが、70歳近いテレンス・スタンプやピーター・フォンダや、かつてのジェームス・スペイダーをあんなに個性的に撮った手腕をまた見せて欲しいような気がする。教えてくれた彼に感謝。

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 昨夜、レッド・ツェッペリンのLIVE DVDが届いて、全編5時間もあるものの、さわりだけ見た。70年のロバート・プラントは、まるで19世紀の貴族かと思う位、美しかった。美しいばかりでなくて、天が特別の才能を与えたヴォーカリスト。ZEPPの演奏を聴くと、ロックはあれ以上完成のしようが無いと思う。

作品への愛、愛する世界への正直な愛、を感じることができれば・・

2003-06-10 | 映画にまつわるあれこれ
 ベランダのあおむし君の姿が見えないと思ったらいつのまにか蛹になって枝に細い糸で結ばれていた。あんなにか細い糸でからだを支えて、丸まった枯葉のような中から美しい蝶の姿になって出てくるなんて本当に生命は不思議。結局、棄てられなくて、蜜柑の鉢も持っていくことに決めた。でも行く前に蝶になっておくれね。。。引越し準備、仕事の合い間にぼちぼち身体と相談しつつやってます。ダイジョウブデス。どうも有難う!
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 一時期とても好きだった映画監督レオス・カラックスの『ポーラX』を今頃になってやっと観た。『ポンヌフの恋人』以来、映画を撮らなくなって9年ぶりの今作では周囲の期待がもの凄かった反動か、とにかく酷評されて私の周りでも「もうカラックスは終わったな」という失望の声が聞かれた。そんなこともあって見たいような見たくないようなそんな感じで時が経ってしまった。カラックスがかつて描いた余りに痛々しい若さも、私にはもうその時代は過ぎたよ、と思ってしまったし・・・でも『ポーラX』、私には良かったです。作品として欠点はあっても、カラックスが描きたいものが私には伝わってきたし。

 嘘っぱちな世界を嘘っぱちと感じたままやり過ごすことが出来ずに、かといって諦める事も、確たる自分の枠組みで揺らがずに生きることも出来ない。やっぱりカラックスの世界は痛ましくて愛しい。

 名優ジェラール・ドパルデューの息子ギョームが、育ちの良い気品漂う表情から、やがて追い詰められたジョニー・ロットンのような目になって、終いにはカート・コバーンそのままの悲しい顔へ変わっていくのを演じていた。彼も評判は良くなかったようだけど、、、時に分かり易いくらいに象徴的な表現になったりするのも、そんなやり過ぎの演出をしてしまうカラックスが私は好きなのかもしれない。

 あと、勉強かねてデレク・ジャーマンの『テンペスト』を観た。私はデレク・ジャーマンという人は大分誤解していたみたいです。映像も大変美しかったし、シェイクスピアの台詞の美しさが忠実に生かされていて感動的でした。醜悪な未開人を体現したキャリバンも、プロスペロー伯爵の意のままに幻を作り出すエアリアルも、シェイクスピアの世界の道化や妖精たちは(魔物でさえも)やはりいとおしい存在。デレク・ジャーマンはそんな人間界からはじかれた哀しい存在を、(表面的にではなく精神的に愛をこめて)とても美しく撮ってくれたように思う。