星のひとかけ

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マーチ家の父 もうひとつの若草物語

2011-02-24 | 文学にまつわるあれこれ(林檎の小道)
2006年 ピューリッツァー賞フィクション部門受賞作品。 すばらしい作品! 、、だけどとても読むのに時間がかかってしまいました…

『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』 (ジェラルディン ブルックス著、高山 真由美 翻訳/武田ランダムハウスジャパン 2010年)


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『若草物語』のことについては、 このブログにも何度か書きましたね。 (若草物語に関する過去ログをいちおう挙げておきましょう>>

あの四姉妹の〈お父さま〉の物語。。 『若草物語』では、 従軍牧師として戦地に赴いていて、 物語の冒頭から一度も登場せず、 最後の最後になって お父さまが戻って 一家の暖かい図が完成するシーンで幕を閉じますね。 その〈不在の〉お父さま側を ひとつの小説にしてしまおうとするなんて、、 うまいことを考えたなぁ、、、 なんて、 『若草物語』の「外伝」を読むようなつもりで 興味津々で手に取りました。

〈お父さま〉が19歳ごろの若き日の思い出などから始まって、(或る女性との出会いや)、、 〈お母さま〉との出会いなども語られていくので、 この辺はけっこうどきどきしながら読むことができます。 牧師さま、、という高潔なお父さまのイメージではなく、 理想と野心に満ちた青年像というのも新鮮で、、、

そして コンコード(オルコットが暮らしたマサチューセッツ州の町)での エマソンやソローといった実在の知識人たちとの交流が描かれ、、、 このことは、 上記の過去ログに載せた 『ルイザ 若草物語を生きたひと』という伝記や、 『ルイーザ・メイとソローさんのフルート』という絵本で書かれていたことを思い出して・・・

こうなると、 『若草物語』のお父さまのことを読んでいるのか、 作者オルコットの父ブロンソンのことを読んでいるのか 頭の中がごちゃごちゃになってきて、、 でも、 1850~60年代のコンコードの町に、 本当に 若草物語の家族が住んでいて、 そこでお父さまとお母さまが出会って恋をして、、、と、 実在した人の話を読んでいるようにしか思えなくなるリアルさ。。。

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でも、

『若草物語』の時代背景には 南北戦争というものがあったのですよね。 それは、 奴隷制廃止をめぐるアメリカ北軍と南軍との 血で血を洗う内戦。

若草物語を読んだ子供のころには そんな戦争の実態などまるでわかっていないし、、 従軍牧師というなら、 たぶん、 戦地の病院かどこかでお医者さまと一緒に 負傷兵を慰めたり、 祈りを捧げたり、、 そんな程度のことをしてるのだろう、、くらいの想像しか できませんよね。 、、、そういえば、、 物語の後半で、 戦地のお父さまが危篤! という知らせが届いて、 お母さまはお隣の家のローリーの家庭教師をしていたブルックさんに付き添われてお父さまの元へ出かけて行くのでした。。。 そうそう、、 その時、 費用の足しにと ジョーは長い髪をばっさり切ってお金をつくり、、 そして 悲しいことに、 お父さまもお母さまもいない間に、 ベスは猩紅熱にかかって死の淵をさまようことになり、、、 もうだめなのかも、、、と絶望的になるけれど、 最後にベスも危機を脱して、 そして戦地のお父さまも還ってくる。。。 あぁ そうだったそうだった、、、 と思い出すのですが・・・

お父さまが 戦地でどのような日々を過ごし、 どうして危篤になったのか、、、 考えたことも無かった。


ここが 本書の本質なのでした。

だから、、 『若草物語』のお父さまの物語でありながら、 語られるのは、 南北戦争というアメリカ史。 奴隷制におかれた南部の黒人労働者たちの 南北戦争当時の実情。。。 奴隷制廃止を支持するお父さまの 南部戦線での苦闘。。。 それは ずっしりと重い 苦しい 悲しい 物語なのでした。 とても とても 読むのがつらかった。

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あとがきに 著者ブルックスが参考にした南北戦争や奴隷制についての文献なども載っていましたが、 本当に緻密で徹底した取材の下敷きがあって、 それを『若草物語』というフィクションの中に じつにリアルに嵌め込んでいった すばらしい力作だと思いました。 ピューリッツァー賞、 当然!

ただし 読む人はほんとうに限られてしまうでしょうね。 まず『若草物語』の内容がわかっていることが前提。 次に、 できればエマソンやソローという人たちのことをちょっとでも知っているとわかりやすくなります。 私は南北戦争の知識も、 奴隷制の知識もぜんぜんないので、 ところどころ人名とか解らない部分もありました。 けど、、

もしも『若草物語』の時代背景や、 作者オルコットの生きたアメリカの時代背景に関心がある方なら、 本書は是非に、 とお薦めします。。 若草物語の読後印象とは まったく違うものですけどね、、 


、、そうそう、、

本書を読んで、 まったく知らなかったことがありました。 それはこの1850年代当時、 南部の奴隷の逃亡を助ける、〈地下鉄道〉と呼ばれる秘密の活動があった、ということ。 奴隷解放を支持する一般の人が 自分の自宅にかくまったり、 移動手段を提供したりしながら、 自由の身になるカナダへと 逃亡を助けたのだそうです。 (『アンクルトムの小屋』の中にもカナダへ逃亡する物語があったらしいけれど、 憶えていませんでした。。。) 

この〈地下鉄道〉という活動のことも 若草物語のマーチ家と結びつくと、、、 ジョーがときどきよじ登って林檎を齧りながら本を読みふけっていたあの屋根裏部屋が、 まったく違った風景として 見えてきたりもします。


素晴らしい作品でした。 、、、後半は 涙でティッシュ箱半分ちかく使ったけど・・・(笑)