『灰色の季節をこえて』 (ジェラルディン・ブルックス著 高山真由美 翻訳)
たいへん面白かったです。。
幾度も涙してしまう悲痛な出来事ばかりの この物語にたいして、 「おもしろい」とは何事、、 とも思えるのですが、 みごとに読ませる物語でした。
以前に書いた 『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』(
>>)の著者の、 小説家第一作目の作品が、 この17世紀英国のペスト禍の村を描いた今作で、、 もともとブルックスはジャーナリストだったそうで、 さすがに緻密な取材と、 それを「眼に見えるように」鮮やかに言葉にする描写力と、 そしてジャーナリストらしく「人の関心を離さない」ストーリーテリングの力があると思いました。
内容は、 Amazonとかに載っている内容紹介を見ていただくのがよいかと、、(
>>)
ペスト、、 と言えば、 アルベール・カミュの『ペスト』を思い出しますね。 好きな作品でした。。 好き、、というか 感動しました。 もう長いこと読み返していないから細部ははっきりしないけど、、
カミュの舞台はアルジェリアで、、 時代は? 新聞記者も出てきていたから、 19世紀以降の話・・・かな?
ブルックスの描いた時代は1665年~66年のイングランド中部の小村。 カミュに比べたら何の医療知識も、 情報も無い、 中世さながらの暮らしをしている農民たちの村。 、、実際、 この年、 ロンドンでペストの大流行が起こったそうで、 ダニエル・デフォーの著作に 『ペスト』という本があるそうだ。。 (Amazon
>>)
デフォーはロンドン生まれ。 ペスト大流行の年には5歳? ということはその渦中を生き延びて、 そして実際にその時代を体験した者の話からこの本を書いたんだろう、、 こちらは未読なのでいつか読んでみよう。。 、、でもデフォーだからな、、 心して読まないと。。
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日に日に死者が増えていく。。 その絶望の中で 人々は決断しなければならなくなる。 どこかへ行くのか。 どうやって家族を守るのか。
、、どうしてこのように悲しい物語を読もうとするのだろう、、
と自分を振り返って考える時もある。。 でも自分で答えはわかっている。 自分自身の問題、、、 それから、 9・11以後、3・11以後の世界を生きている自分たちの問題、、、 その時代の「物語る」という意味についての問題。。。 ブルックスがこの本でデビューしたのが2001年、というのも不思議な気がする、、 たぶん9・11前の執筆なんだろう、、、 何を想って書き、 そしてあの困難な時期をどう想って過ごしたんだろう。。
カミュの『ペスト』は男たちの物語だったと思う。 さながら戦地で要塞を死守する兵士たちのような、、。 不思議なほど 女たちのことは思い出せない、、 確か、 主人公の医師の妻は 遠くの街にいたんだっけ。。
『灰色の季節をこえて』は、 女たちの物語、、と言っても良い。 もちろん、 重要な人物の牧師や、 いろんな家庭の男たちも、 それぞれ見事に描き出されているけれども、 何と言っても 命を産み、 毎日の糧を与え、 愛する者たちの身の回りを整え、、 そうやって休むことなく働いているのは女たち。 、、生身の血と、病いに弱い現代の男性諸氏には 重荷な情景もあるかもしれない。 そんなグロテスクな場面が描けるのも 女性、だから?
たった18歳で寡婦になった主人公アンナの変化もよく描かれている。 最初、 どうしてこんな悲しい物語を、、と 思ったけれど、 読み終えるとまったく気持ちが変わっている。 まさに、 「再生」の物語。
『マーチ家の父』でもそうでしたが、 ちゃんと関心をとらえて離さない「ロマンス」の部分もあって、 ほんとうに巧いと思う。 出来過ぎ、、というか、 第一作だからそれなりの演出を、、という感じがなくもなく・・・ あれだけペストが猛威を奮っている中でなぜに主人公は病気にならないのだろう、、と ちょっと思ったりもしたけど、 最後まで読んで、 あとがきも読んで、 ペストの事が少しわかると、 そのことも納得できるように書かれている。。 なるほど丁寧な取材のもとに書かれているわけだ。
、、そしてそして、、
エピローグを読むと、 ニヤッとするからくりも隠されているのですね。 そうか、、 だからこの場所、、 なんだ。 と、それに気づいてなおさら 気持ちが「再生」する。 著者は 何かを「つないで」いきたいと願ったのかもしれない、、
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いずれ、 デフォー作も読んでみよう。。 で、、 またカミュも読み返してみようか。。
、、これを書いていて思い出したことがある。。
このペスト流行の時代を描いたデフォー作『疫病流行記』が原作の ショートアニメーション映画を昔見た。 パペットアニメーションで 悲しい物語だった。 このビデオに入っています↓
short6(1999~2001) (allcinema)