星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

再読… :ラーシュ・ケプレル著 ヨーナ・リンナ警部シリーズ『ウサギ狩り人』

2023-02-28 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)
昨日から、うるうるどきどきが止まりません。。

この2月に発売になったラーシュ・ケプレル最新作品 ヨーナ・リンナ・シリーズ第8作『鏡の男』を満を持して読み始めようと決断して、、 そのまえに第6作『ウサギ狩り人』と第7作『墓から蘇った男』を再読しようと 昨日から読み始めたところなのです。

前作『墓から蘇った男』の巻末あとがきに 「このシリーズも次の八作目で幕を閉じる」と書いてあって・・・ これを読んだとき (あれ? どこかでこのシリーズ、10作まで続くとか書いてなかったっけ…?)と頭をよぎったのですが、ウィキとか出版社とかいろいろ検索してみたけど情報がみつけられず、、 (あぁ次作で終わっちゃうのか…)と寂しく思っていました。。 (←後日談あり)

それにしても、、
『墓から~』(原題 LAZARUS) の内容があまりにも衝撃すぎて、、(『つけ狙う者』を読んだ時から先の展開は予想はしていましたし、このシリーズ 毎回けっこうな衝撃作なのはわかってますけど…) とりわけ公安警察の女性警部サーガへの仕打ちが残酷すぎて、、 哀し過ぎて、、 どうしてこんなにサーガをいじめるの? もう、身体的に傷つけるとかのレベルじゃない、、壊してる、、 サーガという人間を破壊しようとしてる、、 めちゃ辛かったです。。。

だから、 今月新作が出たと知っても、 こわくて読み始める決意がなかなかできなくて… (エンターテインメント小説ってわかってます わかってますけど、、) サーガはもう絶対に立ち直れないよ、、 可哀想すぎる、、と主人公ヨーナ・リンナ以上にサーガのことが心配で。。

それだから もう一度『ウサギ狩り人』から読み直して気持ちを準備してるところなのです(それほどのことか…)

 ***

あぁ でも『墓から~(ラザルス)』を読んだ後で 『ウサギ狩り人』に戻ってみると、、この頃は良かったなぁ、、となんかほのぼのした印象すら受けるから不思議。。 事件に関してはいつもながらかなり凄惨な連続殺人で、 いろんな意味でR指定の描写も多くって、、 だから初めてこのシリーズを読む人にはこの作品だけ、っていうのはオススメできないし、 やっぱり(最初から…) せめて第4作『砂男』からは読んでねって言いたいけど、、、、

主人公ヨーナ・リンナやサーガを中心とした《捜査》の部分では、 ふたりの良いところや名コンビぶりが発揮されてて、 例の最強シリアルキラー(『交霊』以降に登場)との対決にばかり焦点が行きがちなこのシリーズですが、アイツが出てくる以前の 刑事らしいヨーナ・リンナの雰囲気もここでは味わえて、、『ウサギ~』は振り返って読むとなかなかしみじみ楽しめます。

 ***

いつも以上に(人気が出たから読者サービス?) ラーシュ・ケプレル夫妻、 読者をくすぐる描写が巧いですね。

国家の危機を示すコードプラチナの発動に、 公安警部サーガは 素肌に革のライダースーツを纏ってバイクに飛び乗る。

今作ではヨーナ・リンナは服役中。。
周囲は怖そうな犯罪組織やギャングの囚人のなかでヨーナは 2年という年月をなんとかやっているみたい、、 と思いきや


 ヨーナは面会室のテーブルの上にコーヒーカップと受け皿を置き、前もってかけておいたテーブルクロスをきれいに伸ばしたあと、狭いキッチンにあるコーヒーメーカーのスイッチを入れた

、、え? テーブルクロス? キッチン?? (スウェーデンの刑務所ってこんな感じなのかな? さすが超福祉国家…) 、、そこへ女が入ってくる、、


 「ここであなたと会うだびに、変な感じがするわ」・・・
 「たいしたものは出せないんだ。クリームサンドビスケットとコーヒーだけ」
 ・・・ヨーナは微笑んで、頬にえくぼを作った。
 「あなた、とってもキュートよ」・・・



、、え? 誰? 誰なのこの女(ひと)!! 、、前回までには一度も登場してないよね、、 何の説明もなく、、 ヨーナと見つめ合って、、

もう~~、こういう描写がラーシュ・ケプレル夫妻はめちゃ上手い、そしてズルい。。 読んでいてヨーナ推しはもう、 嫉妬、しっと、、 ヤキモチの嵐です(笑


詳細は省きますが、、 このあと国家の危機に対処すべく 超法規的措置で捜査に加わることになったヨーナ・リンナ。。 スナイパーら精鋭部隊との現場突入とか、、 久しぶりに敏腕刑事らしい活躍場面がみられます。(前作ではホームレスに堕ちてましたものね ヨーナ…)

というわけで 『ウサギ狩り人』の(事件以外の)読みどころは、、
 やっと自信たっぷりのヨーナが見られる。 
 ヨーナの青春時代のエピソードが知れる。
 サーガも元気。ブチ切れて公安トップの机をちゃぶ台返し、とか。。
 ヨーナの元上司カルロスや元アシスタント、アーニャ(アンヤ)とのコントも復活。
  (このコントみたいなお約束ネタを楽しむにはシリーズの最初のほうから読んでおきましょう~)


 「誰が正しかったですか?」ヨーナがきいた。

 「それで、誰が間違っていましたか?」


これを国家警察長官に迫って答えさせるヨーナもそうとう性格悪いよね・・・ いままで散々迷惑かけておいて、、。。 でも長官カルロスのキャラ最高。。 一度でいいから自分の上司にもこのセリフ言ってみたいと思う人多いかもしれません、、笑

あぁ でも、、
『墓から~(ラザルス)』を読んだ後ではもうこんなコントみたいな場面、これから先想像できない。。 ヨーナはしょうがないよ、 自分が背負った宿命だから。。 サーガは? サーガが何をしたと言うの? サーガの絶望は… あぁ、過ぎた日々はもう二度と戻らない・・・

 ***

ほんとうに、、 ラザルスの次が最終作だなんて、、 サーガどうなっちゃうの? どんな結末になるの?? あのシリアルキラーの弟子というか崇拝者というか、 あんな狂人が最終決戦の相手とは思えないんだけど…

と、、 この一年、 かなり悶々とした疑問を抱きつづけていたのですが、、 なんと今朝! それが解決しました。。 ヨーナ・リンナ・シリーズは 第8作が最終作じゃないんですって。。 やっぱり10作まであるんですって。 海外では今年9作目が発売なんですって。。 良かった~~! (←苦しみがさらに続くとも言えるんですけど…)
 ラーシュ・ケプレルのシリーズ第8弾『鏡の男』到着!(扶桑社ブログ)



もうひとつ情報が。
『墓から蘇った男』(原題 LAZARUS)の海外ドラマ化にトム・ハーディが出るとか、、。 あのシリアルキラーをやるにはトム・ハーディしかおらんでしょうね… 笑
詳しく読んでないのでよくわかりませんが ヨーナ・リンナは誰なんだろう… サーガ・バウエルは? 誰ならできる??
、、きっと失望しそうだから、あんまり見たくないかも、、(でもちょっと見たいかも) 
 トム・ハーディ&ザジー・ビーツ、アップルTVの新シリーズ「Lazarus」に主演(映画.com)


というわけで、、
このあと 『墓から~』の苦しい闘いを読み返したら とうとう『鏡の男』を読むつもりです。 とりあえずは最終作ではないとわかって すこしほっとしました。。 サーガには時間が必要。。 もっとサーガに愛を… サーガには幸せになって欲しい… (泣)



ヨーナ・リンナが好きでたまらない私ですが、 サーガには決して嫉妬しません… 


いつかまた妖精みたいなサーガに戻ってくれるのを祈って…









ヨーナ・リンナ警部シリーズについて 過去の日記>>

カーディガン…

2023-02-24 | …まつわる日もいろいろ
きょうは通院日でした。

もしかしたら雨になるかも… という予報だったので、 春用のトレンチコートにしようかと用意していたのだけれど、 ベランダに出たら思いのほか肌寒くて、 結局 冬のままのコートを着て行きました。

、、せっかく新しいカーディガンも着たのに コートに隠れてぜんぜん見えません。。

 ***

病院では 検査や診察のたびに本人確認のために 名前と生年月日を何度も言うことになるのですが、 今日はセンセイに 「(先日)お誕生日だったんですね」とお祝い言ってもらえました。 ついでに 「若くみえますね」とも・・・ にっこり。。

お世辞でもうれしかったです… 笑

そんなふうに言ってもらえても じつはコートが重くて帰ったら肩がバリバリ… いえ、とくべつ重いコートなわけではなくって、 通勤をしなくなってコートや重ね着やカバンを身体にまとって歩くことが少なくなって、、 ウォーキングのトレーニングは続けていても そのときは荷物もたないので… ひさびさにコートと鞄で歩くと重い~~。。 今度は錘つきでトレーニングしないと… (汗

はやくコート脱ぎたいです。。

ワンピースにカーディガン、というのが 一番好きな服装かも。。 (ラクだし) 、、永遠に 花模様のワンピースにカーディガンを着ていたいなと思う、、 60代 70代のおばあちゃんになっても…

エマ・トンプソンみたいな人だったら たぶん幾つになっても似合いそうね。。 イングリッシュガーデンとワンピースとカーディガン…


あ、 今日 おいしそうな珈琲屋さんをみつけたのだけど、、 満席だったので今度にしようと、、 シュークリーム買って帰っておウチで珈琲淹れました。。 来週も病院行くので 今度は入ってみようかな…


通院日だけスイーツ食べてよいルール …



週末 ゆっくり出来ますように。。

あの物語のハンカチの謎…

2023-02-20 | …まつわる日もいろいろ
14日に書いた読書のこと…

その後 お友だちに話したらさっそく読んでくれて、 「じつに面白かった」と教えてくれた。。 わたしも読んだ後もずっとこの本のことがまだ頭にあって…

(ネタばれになるので書名は書かずにおきますが)
あの本のなかで 解けない謎がひとつあって…  、、女性のトランクの中に、 どうやらお兄さんのものと思われる「洗っていないハンカチ」をフィリップは見つけますね。 それが死んだお兄さんのものなのか、 どうしてそれを彼女が持っているのか、、 その後のストーリーのなかで最後まで何も書かれないのです。

どうしてなんだろ… とずっと思っていて、、

読み終えたお友だちにも訊いてみたんだけど、、 ハンカチのこと 忘れていたみたいで (どうしてかわかんない…)と。。

 ***

お兄さんの死までの経緯は その後の物語のなかで解き明かされていきますが、 彼女とお兄さんが出会ってから死までは たったの2日間。 物語のなかで彼女がフィリップに話すのは 二日目の出来事だけ。。 でも一日目、 彼女は〈例の男〉とお兄さんと3人で「初日はかなりの時間を一緒に過ごして」いたとあります。 ハンカチが彼女の手に渡るとしたら、その日のことだと思う、、 

でもその日のことは明かされない、、 フィリップもハンカチのことも彼女に質問しないし。。 あんなに必死で謎を追っているのに、、 変でしょう? 

きっとね…  作者さんはこの部分をわざと曖昧にしているんだと思うのです。。 お兄さんが初対面の彼女に自分のハンカチを貸す、、 濡らしてしまったのか 彼女はそのハンカチを返さずに(たぶん洗ってから返そうと) 自分のホテルに持ち帰る… そんな感じだった筈… たぶん。。

その部分は全く書かれないのに、 なにかを暗示するように、 その後にフィリップが彼女と初めて出会った時に、、 思わせぶりのようにハンカチが登場してる。。 バスのなかで彼女の素足に海で濡れた自分のジュート靴のしずくをわざとらしく垂らして、 それで謝りながらハンカチで彼女の脚を拭くのだもの…

その後の場面でも、 フィリップが眼に煙草の灰が舞って入ったのをハンカチでぬぐって、、 取れないでいると 「わたしが取ってあげられるかも」と彼女がそのハンカチを手にする。。

ね? 象徴的でしょう…? お兄さんと彼女とのあいだに何があったのかは書かれていないけど、 でも何か似たような出来事があったのは確かでしょう? そしてお兄さんもおそらく、 フィリップと同じような想いで彼女を見つめていたはず、、


ほんとうに 読み終えたあとあとまで余韻を残す、 素敵な物語でした。。 映画にしたいくらい…

 ***

 彼女は自分のゴールドのライターを差しだし、 僕は上着の前を開け、それを風よけとして火をつけた。 彼女は輝くブロンドをふたたび近づけ、煙草に火をつけた。


 、、 読んでいるあいだも 映画にするならどの女優さんが似合うか、 ずっと想像しながら読んでいました。。 1950年代の小説だけれど 当時の映画のようなメイクや髪型がこってりした女優さんじゃないほうがいい、、

それで思い描いたのが、、 アンドレア・ライズボローさん。 英国のとても美しい女優さん。 きっと似合うと思う、、 シリアスな演技も、 青の洞窟のなかで泳ぐのも、、 

アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている『To Leslie(原題)』も見てみたいな。。

フィリップとお兄さんの兄弟は誰がいいかしら… と考えて、、 『汚れたダイヤモンド』のニール・シュナイダーとアウグスト・ディールのコンビなどは…? なんて思ったのだけど、、 どう見ても英国人には見えませんね、、 ふたりとも(笑

でも 『汚れたダイヤモンド』の予告編、、 すごーくカッコいんです 二人とも。。 なのにDVDも見当たらないしレンタルもないみたい。。 見てみたいんだけど…

 ***

今日のブログだけ読むとなんの話かわららないうえに 話がどんどん逸れてゴメンなさい。

14日の読書の その後の妄想のあれこれ、、 でした。







午後の珈琲と…

2023-02-17 | …まつわる日もいろいろ
9日に書いた 辻邦生さんと水村美苗さんの往復書簡集『手紙、栞を添えて』を読み返していました。

今読むと、 辻さんが長い長い文学人生を振り返りつつ ゆったりと広い心で水村さんのお手紙を楽しみながら お返事を綴られているのに対して、 水村さんは鮮やかに いくぶん気負って話題を切り返す様子が どこか初々しくも感じられてしまう、、

かつて読んだときには 文面にあらわれるこのような年齢差のことなど思わなかったのに… 




お手紙の中で辻さんが、 幸田文の随筆から ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』へと 意外な方向へ話を展開させ、  マオ・ドルジェル夫人とフランソワ青年のふたりのことを 「つつましい恋」 と表現されている。。 本から本へ 連想の飛翔にも感心させられ、 その感想のつつましやかな事に 更に嘆息してしまいました。。

辻さんがフランソワ同様の真っ直ぐな青年のこころをお持ちでなければ、 そのような感想は生まれてこないだろうと思うのです…

 ***

古い新潮文庫の『ドルジェル伯の舞踏会』 、、表紙の色も変わってしまっています…

恥ずかしながら全部読み通した記憶がありません… 見れば、 ところどころ頁を折り返してあるのだから 読むには読んだのでしょう。。 でも、 記憶のどこにも 「つつましい恋」の物語を読んだという記憶がありません… 

、、 あまりに遠い世界の 煌びやかな社交の集いに馴染めなかったかつての私も、 少しは広い心持ちで今なら読めそうな気がしてきました。。 ずいぶんとおとなになりましたし… (遅すぎますが…)

 ***


きょう二度目の珈琲をいただいて幸せ・・・


けれども気を付けないと 午後の珈琲はくらくらと効きます(笑) 、、 いいえ、 効いているのは ふたりのつつましやかな、 それでいてあまりに無防備な恋の病いにあてられたからなのかもしれません…


 フランソワは気持のいい火にもっと温まろうと自分の椅子をそばに近よせ、コーヒー茶碗をドルジェル夫人のかけている腰掛の上へおいていた



暖炉の火が恋しいです。





どうぞ 良い週末を…

罪と理想と「こころ」…: 『罪の壁』 ウィンストン・グレアム著

2023-02-14 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『罪の壁』 ウィンストン・グレアム著 三角和代・訳 新潮文庫 2023年(原著は1955年刊)



とても面白い読書でした。

今年新刊の ミステリー要素の強い小説なので、謎解きにふれる感想は避けたいと思いますが、 この小説は犯人を追い詰めるというサスペンスのほかに、 いろいろと考え、楽しめる、奥深い読み方ができる小説でした。

感想を書くために必要な人物のあらましだけ書きますと…

主人公フィリップのもとに兄死亡の報せがとどく。 原子力の科学者から考古学者に転身した知性も人格も優れた兄のことを、フィリップはずっと尊敬して生きてきた。 その兄の死… 

兄は考古学の調査のためインドネシアに赴いていた。 その地で、海難事故で船を失い一文無しになった男に出会う。 学者ではないが広範な知識と知性をもつその男と意気投合した兄は、彼を助手として雇い発掘調査をつづける。 そして二人で帰国の途上、オランダの運河で兄は死体となって発見された。 同行したはずの男は行方しれず。 警察は兄の死因は自殺だと言う。 そして、兄のポケットには女からと思われる手紙が入っていた…

フィリップは兄が自殺したという説明を納得できなかった。 常に最善と理想を追求した兄。。 たとえどんな災難、どんな困難に巻き込まれようとも、兄は自分で命を絶つようなことはしないはず…

自殺か、他殺か、事故か。。


こうしてフィリップによる真相解明の旅がはじまるのですが…
最初に「いろいろと考え、楽しめる」と書いた理由は、、 兄の死の謎をさぐるミステリー小説のスリルとともに、 恋愛小説の揺れ動く心理描写があり、 それから小説の舞台がオランダからイタリアへ、風光明媚なカプリ島やアマルフィ、青の洞窟といった視覚面でも想像力を刺激され、、 さらにはその地でフィリップが出会う有閑知識人たちのあいだで繰り広げられる哲学的会話に頭をひねったり、 考え込んだり。。 

やがて物語の核心は、 善と悪、、 罪を犯すことと罪を自覚することのモラルの問題、、 友情と裏切り、、 そういった人間のこころの問題に至ります。。


 ***

読み進むうちに、、 そして読み終わって、、(内容はぜんぜん違いますが…) 夏目漱石の『こころ』を思い出してしまいました。 

(これから書くことは『罪の壁』とは関係がないけれども、 まったく関係がないわけでもないと思うのでご了承を…)

『こころ』ではふたつの〈死〉があります。 ひとつは学生時代のKの死。 もうひとつはこれから死ぬと予告される先生の死。

先生は、過去にKを裏切った罪をずっと感じていて、そのことを〈私〉に告白して自死を予告するわけですが、、 もちろん友を裏切った先生は罪深いです。。 では裏切られたKはなぜ死んだのだろう、、 友を想って身を引いた? それとも弱さ? 絶望? あるいは 復讐…?

Kはなぜ襖一枚へだてた先生の隣の部屋で死んだのか。。 それだけ切羽詰まっていたという事かもしれないけれども、 Kは自分の死を先生にかならず知って欲しかったはず、 その意図は? その意味は?

一方の先生もまた、〈私〉に遺書を残す。 罪の意識に苛まれ、 罪ほろぼしの死ならば、なぜもっと前に独りで死ななかったのか。 〈私〉と出会っていなければ先生は死ねなかった? 先生を慕い尊敬する〈私〉へ、死という永久の刻印をのこすというそのことは、新たな裏切り、新たな罪ではないの…?


誰かの命を奪うという明らかな罪、 

みずから生命を絶つという これもまた罪、

贖罪という死で誰かのこころに永遠の傷痕を刻みつけるという それも罪か?


おそらく、 読む人によってさまざまな読み取り方をするだろうと思います。 その読み取り方にも その人のこころの有り様、 善悪の捉え方や 理想や価値観の違い、、 そういったものが反映されるはず…

、、 漱石の『こころ』を思い浮かべたのは、 (ストーリーは全く違うけれども)その読後感とおなじようにいろいろな読み取り方がウィンストン・グレアムの『罪の壁』にも出来ると思ったからです。 


罪とはなにか…


友に対して 真に善であるということはどういうことか…


 ***

少し堅苦しい書き方になってしまいましたが、 映画のように面白い小説です。 「太陽がいっぱい」みたいに きらきらした海と美しい人々のようすも楽しめますし。。 50年代有閑知識人の、ハイレベルだけど腹の探り合いみたいな会話も読みどころ…



大型犬をはべらせていた 老マダムが魅力的だったなぁ…


 

往復書簡という時間…

2023-02-09 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
立春も過ぎ、 新年のあわただしさはもはや遠く 春のおとずれと花の季節を感じはじめる今日このごろ…  

二月逃げる と言いますが、 時のたつのは速い!ですね… 脱兎のごとく…(笑

TVなどでもさかんに 時短、時短と言っていて、 まるで工場の生産管理のように1分1秒を節約しながら生活する日常。。 みんな忙しいんです、、 たしかに。。

そんなデジタルの時間とともに、 私のなかには もうひとつのアナログな時間の流れもあるようで…

 ***

新年の挨拶状のあとには 30年来、、 いえ そろそろ40年近くになろうかという長年の知人に想いを馳せることが多くなります。 もう 70代、80代になる大先輩でもあり、 当然のこと SNSなどの日々のやりとりは存在しません。。

それでも、、 こんな永遠の未熟者の私のことも忘れずに 書状やメールをくださる。。 私などとは脳味噌の構造が数段階も高度な方々ゆえ、 まずは頂いたメールの内容を咀嚼するのに半日は要し、、 それを自分の頭で理解できるまでにさらに1日くらいはかかり、、 それからその話題に対して自分ならどんなお返事が書けるだろうかと思いあぐねること、、

、、 すぐお返事が書けることもあれば、 悩み考え 本をひろげ いろいろ検索したり、、 ようやくお返事が書けるまでに数週間かかることも… (ちゃんとしたお返事が書けない時は しばし時間を… とお報せして 半年先になることも…)


それでも 文学のこと、、 先人の知のこと、、 文章にして語る往復書簡の時間があることは 私にとってこの上なく貴重な、、 年をとればとるほど更に貴重なものに思えます。

 ***

昨日 そんなお返事メールを一日がかりで送信して、、 ふっと 「往復書簡」というのは、 もしかしたらこれから先の世代では消え去ってしまうものなのかもしれないな… と 考えていました。

かつて読んだ、 辻邦生さんと水村美苗さんの往復書簡集『手紙、栞を添えて』(ちくま文庫) のことを思い出し、 新聞に連載されていたのを読んだ頃にも あぁ、こんなお手紙が書けるようになりたいな… と思ったものでしたが、 年を重ねてもまだまだ全然 あのような書物や文学に対するきめ細やかな洞察と愛情を湛えたお手紙は書けそうもないです… (悲)

それでも「往復書簡」のもつ、 相手への親しみや愛情をこめて書く文章や、 相手へ伝えたいという想いを込めて或るテーマについて語る文章の良さというものを あらためて思い出して、、 それで 「往復書簡」の本を検索してみたら 沢山、、 読んでみたい往復書簡集がいくつもありました。。

『田辺元・野上弥生子往復書簡』(岩波現代文庫)
 晩年の野上弥生子さんのお便りなどは ぜひ読んでみたいです…

『旅の仲間 澁澤龍彦・堀内誠一往復書簡』(晶文社)
 鎌倉の澁澤さんとパリのイラストレーターとの書簡、、 見てみたい。。

『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡』(岩波書店)
 これは知らなかった ポール・オースターとJ.M.クッツェーとの書簡。しかも2008年から2011年というわりと最近のものというのが興味深いです…


先日載せた クララ・シューマンとヨハネス・ブラームスの本も往復書簡集でしたね。。 19世紀の演奏旅行先からのお手紙、、 他に連絡手段のない時代だからというのもありますが、 昔のひとびとは本当にたくさんの手紙をお書きになっていたことに驚きます…

 ***

往復書簡、、 


こんな時短の短いメッセージばかりの時代でも、 往復書簡 やってみると本当に良いものだと思います。 近況報告とかではなくて、 ある思索、 ある想いを、 相手に伝え(あるいは時に伝わらず) 、、 投げかけられる言葉を難問を解くように何度も反芻する…



そして お便りをいただく度に

あぁ もっと学ばないとぉ… と思うのです。




明日は 雪になるのかな…




お元気で  よい週末になりますよう…



年齢差…(ひとりごと)

2023-02-02 | MUSICにまつわるあれこれ
信じられる…?

スティーヴ・ウィンウッドさんとトム・ヴァーレインは1歳半しか年が違わないのよ。。 ていうか、、 ウィンウッドさんよりパティやレニーのほうが年上だって。。

、、その音感覚の差よりも、、 クラプトンさんとパティやレニーが1歳半しか違わない、という音感覚の差って…  凄い。。 


そんなことは まぁいいですが…

2月になりました。  昨日は、 マイク・キャンベルさんのお誕生日です♡ 73歳になられました。 Happy Birthday !!  …トム・ヴァーレインとは同学年生です(←もういいって)ハートブレイカーズとテレヴィジョンはデビューが同時期だからそんなに違和感ないですね。


なんてことを想ったのは 今、 Steve Winwood さんと Tom Petty (and Heartbreakers)との Can't Find My Way Home の映像を見ていたからです。。 ハートブレイカーズとウィンウッドさんが一緒にツアーをされたのは 確か 2014年だったのは覚えています。 その時の映像もたしか見た気がする、、

ウィンウッドさんも素晴らしいギタリストですが、 Mike Campbell さんも本当に最高級のギタリストです。 その歌う人、 その楽曲に最もふさわしい音を瞬時に弾いてくださる、、 そう、その音!と頷かせてくれる、 Can't Find My Way Homeの映像でもスティーヴィーと絶妙なやりとりをしてる…

と思ったら、、 2008年の共演映像もあって、こちらは知らなかった。。 マイクが58歳で、 スティヴィーが60歳。 ふたりとも若々しい。。 

またこんな風に共演して欲しいなぁ… ふたりのソロの掛け合い、、 聴きたい。
ウィンウッドさんは昔から(子供のときから)天才だけれど、、 マイクは今でもまだまだ進化しているような気がする。。

あ、、 そういえば
イアン・ハンターさんの新アルバムに、 マイク・キャンベルさんが参加しています。。 ドラムスがリンゴで、 マイクがギター(よいスライドが聴けます)
Ian Hunter | "Bed of Roses" Official Video

ハンターさん 83歳。 ハンターさんのところのギタリスト&プロデューサーの アンディ・ヨークさんもとっても素敵なギタリストですよ~(昔、書きましたね)



最高のギタリストはまだまだいる! 


・・・ なんてことを書いていたらこんな時間


夕飯つくります ♪



(こんなひとりごとの日記はいずれ消します・笑)