goo blog サービス終了のお知らせ 

星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

美しいポートレートと共に読む…:『雨に打たれて』 アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ作品集

2023-07-19 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)

『雨に打たれて』 アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ作品集  酒寄進一・訳 2022年  ‎ 書肆侃侃房


とても想像をかきたてられる本に出会いました。


もともとは、 ドイツ語のミステリ小説などを数多く翻訳している 酒寄進一先生の本を検索していて見つけたのです。 ミステリ小説ではなさそうな…

表紙の写真に一気に引き寄せられてしまいました。 いわばジャケ買いです。。 美しい人… アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ作品集とあります、、 誰なんだろう… 

本の紹介、 著者のことについては 出版者のページにリンクしておきます>> 書肆侃侃房『雨に打たれて』


第二次大戦前の1930年代、 中近東を旅したアンネマリー・シュヴァルツェンバッハの短篇集。 小説、ということになっていますが おそらく彼女が旅で出会った出来事や人物、事物にもとづいた旅のスケッチのようでもあり、 旅で出会った異色の人々を素材にした短篇など。。 

アラビアへの船旅での船長との一夜や、 トルコ~シリアの列車内で出会ったパスポートを持たない少年や、 砂漠の遺跡を調査する旅で、死にかけている若いフランス軍少尉を救出する話や、、 短いながらもドラマチックな旅の一場面が切り取られます。 その背景に見えてくる当時のヨーロッパの様子やナチスの影、、 文章も簡潔で、フォトグラファーらしい場面の切り取り方も鮮やか、 鋭い観察眼を感じさせます。

私がまず最初に表紙に魅せられたように、 アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ(Annemarie Schwarzenbach)で検索して見られる彼女のポートレートにはおそらく誰もが惹きつけられてしまうでしょう。 男性的な衣装に身を包んだ凛々しい美貌には男性も女性も魅せられたようです。 同性愛者だったそうですが、 フランス人外交官の(彼自身も同性愛者の)男性と結婚していたのは 自由に各国間を行き来できる外交官パスポートのためだったと。。(夫クロードとは良い友人関係であった、と)

アンネマリーのwiki を読むと、 若き日にベルリンでトーマス・マンの子姉弟と出会い作家を志すようになったことや、 奔放な生活と薬物中毒、 ナチスの台頭によってベルリンを去り、 ナチスの信奉者だった両親との断絶、 さまざまな女性たちとの関係やうつ病、 など 激しい生き様が読みとれるのですが、 『雨に打たれて』の文章からはそのような激情や混乱は見出せません。 むしろこの世界(とヨーロッパ)がいまどういう方向へ動いているか、 そのなかで人々(と自分)がどう生きようとしているか、を見極めている冷静さがうかがえます。

この時代のアラブやアフリカの砂漠を旅した人には、 『イギリス人の患者』のモデルになったハンガリーのアルマシー伯爵や、 『アラビアのロレンス』なども想い出されます。 やはり両者とも考古学者として砂漠を旅していました。 その近い時代に、 アンネマリーも考古学の調査隊に混じってベドウィン族の砂漠などをめぐっていて、 こんな凛々しく博士号も持つかたとは言え、この時代に女性が砂漠を軍人らと旅するのはどんなかと…) そんな歴史上のいろいろも想像されます。 

時代は違いますが、 やはり旅の文学をのこしたブルース・チャトウィン、、 彼も誰の目からも魅力的な人で 出会った人からとっておきの話を引き出してしまう才があったと言われていますね。 アンネマリーもチャトウィンのように、自身の魅力をよくわかっていたのでは? 船旅で船長からの誘いをうまくあしらう様子などを自分自身で描いてしまうところなどは(小説という形ではあるけれども) 作家・フォトグラファーとして彼女自身の魅力をうまく武器にしていたのではないかなと… もちろんそれが出来てしまう才能を持っていたのでしょう。

34歳で事故死してしまったアンネマリーですが、 夫となったクロードは外交官として生きつつのちに作家としても小説も出しているようですし、 共に旅もした女性エラ・マイヤールはスイスの思想家・冒険写真家として晩年まで数多くの著書があるそうです。 アンネマリーもその後の人生を生きていたらどのような著作や写真をのこしただろう… と早世が悔やまれます。 

『雨に打たれて』 一篇、一篇が 遠い時代、遠い世界と、 今のヨーロッパ、中東、ロシア、、 時代をつないで想いを馳せる余韻を残してくれますし、 アンネマリーの現在残っている写真作品や他の小説にもとても興味がわきました。 日本で出版されると良いな… 

Annemarie Schwarzenbach 英文wiki>>

Achille-Claude Clarac(夫クロード・クララック)>>

エラ・マイヤールの本 『いとしのエラ―エラ・マイヤールに捧げる挽歌』>>Amazon

ミラン・クンデラさん 

2023-07-13 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
猛暑がつづいていますね。。 

きょうは32度という予報が (ちょっと涼しい…) というおかしな感覚に陥っています。 大雨も心配、、 竜巻みたいな突風も心配、、 もうかつての日本の気候じゃないみたいな毎日。 冷房に頼りたくはないけれど 使わないわけにはいかないし… 体温コントロールがおかしくなりそうなので 無理せず体調ケアのストレッチだけは欠かさず。。

 ***

つい先月 コーマック・マッカーシーが亡くなった時に 同時代の作家(>>)、ということで話題にしたミラン・クンデラさん、 どうしているだろう… と書いた矢先、 94歳でご逝去されました。 

明らかに偉大な作家でありながらノーベル文学賞を取らなかった作家は何人もいますが、 クンデラもたしかにそのひとりと思います。



『集英社ギャラリー 世界の文学 (12) ドイツ3 中欧・東欧・イタリア』 1989年
『不滅』菅野昭正訳 集英社 1992年

世界の文学の帯に 映画「存在の耐えられない軽さ」の写真が使われてますが 日本では映画が先で88年の公開、 千野栄一訳の本邦初訳がこの『世界の文学』 に収載されて、 「存在の耐えられない軽さ」は当初この本でしか読むことはできませんでした。

OLのお給料で一人暮らしをしていた私にはこの本を買うのはなかなか難しくって、 山本容子さんの美しい表紙にあこがれつつ、、 ちょっと経ってから古本屋さんの店頭でみつけて(それでも高かった)やっと手に入れたのでした。 でも、 重くて寝転がって読めるような本ではないし、 『存在の…』も映画のように2時間ほどで読みこなせるような作品ではなく、 哲学的思索や時代の考察を積み重ねながらトマーシュとテレーザの愛の物語がすすんでいく、、 なんども中断を繰り返しながら クンデラの読書はまさに「永劫回帰」なのでした。

『不滅』Immortality は88年に書かれたけれども 本国チェコでは出版されず 90年にフランス語訳のものがフランスで出版されたのが最初なのですね。 この菅野昭正訳もフランス語版からの翻訳です。 だとすると92年邦訳出版というのはとても早かったのがわかります。 クンデラが当時いかに重要な作家さんだったかがわかります。 この『不滅』でノーベル文学賞を取っても良かったのかも… 

『不滅』も何度もなんども挫折をくりかえしながら読んだ本です。 日常の出来事を描いていながら その背後の世界と歴史を同時に読み込んでいく。。 素晴らしい作品、とわかっているのにじっくりと考えつつ読まなければ解らないのでとにかく時間がかかって それで他の本に手を出してしまう。。 クンデラの読書にはのめり込める時間が必要。。

ほかにもいくつか読みました。 『笑いと忘却の書』『微笑を誘う愛の物語』、、 いまは文庫になって読めるのは良いことです。 亡命後の20年後を書いた『無知』がもっとも最近、というか最後に読んだ小説なのかな、、 『無知』の読後感はなんだか悲しかったです。 国を追われる、 国を捨てざるを得ない、という決断をしてまで守ろうとしたものが 世界の流れのなかでいかに脆く儚いか、、

クンデラのこれらの著作から30年、40年、、 ヨーロッパの地図が変わり、 西欧・東欧の境界も変わり、、 『世界の文学』では中欧・東欧に分類されていたこれらの国々の文学、、 いま、 ヨーロッパからロシアに至る世界がこのようになっている今、 あらためてゆっくりとクンデラが築いてきた文学を読んだら 昔よりももっとよく理解することができるように思います。

クンデラをじっくり読む時間を また持ちたいと思っています。


 ***

そういえば…
ポーランドも、、 かつて東側といわれた国でした。。 そのポーランドのウルバンスキさん指揮 PMFのオープニングコンサートは無事に終わったようです。 北海道、、 いいなぁ、、
本気で北海道まで行こうかと 飛行機代やホテル代やら計算しかけてやっぱりムリと諦めました… 笑

今度の三連休にもPMFのコンサートあるのですよね、、 すばらしい夏になりますように。。


わたしの三連休も音楽の夏のひとときを…  



猛暑に負けませんように…