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星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

バルコニーから 空見上げて…

2024-04-19 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
雲ひとつない青空。。 良いお天気です。

2月に、 エルザ・トリオレの小説『ルナ=パーク』については またの機会に… と書いてからそのままになってしまっています。。 今日も『ルナ=パーク』の読書記とは言えないのですが、、 少しだけ…




『ルナ=パーク』の内容をごく簡単に紹介すると、、 
映画監督ジュスタンは作品を撮り終えて 次回作までのあいだの休養のつもりで空き家になっている館を借りる。 以前そこに住んでいた人の生活のあとがそのまま残っている館。 ジュスタンはその家のもと主の読書室の本を開いたり、 書き物机のなかを覗いたりしているうちに、 もと主への関心が芽生えてくる。 そしてある日、 この館の主への沢山のラブレターを見つける。 ジュスタンは誘惑にさからえず 手紙を少しずつ紐解いていき、 ラブレターを盗み読むことによって この館の主だった女性ブランシュに次第に魅了されていく・・・

小説は べつべつの7人の男たちからのラブレターと、 ジュスタンがこの館の周辺で出会う奇妙な人物らの描写などで進んでいくのですが、 なかなかわかりにくい小説です。 エルザ・トリオレがこの小説によって何を書こうとしたのか、、 その辺りを考えていくととってもいろいろな読みが出来そうな、、 物語も謎めいていて、 ときにシュールで、、

なので そのへんのことは置いて、 ブランシュへのラブレターから判って来るのは(以下ネタバレになってしまいますが)、、 彼女は女性パイロットであり、 さらに宇宙飛行士も目指しているらしい、、 ということ。 

『ルナ=パーク』は1959年の作品。 ブランシュが宇宙飛行士として月を目指している、、 というのは ソ連の《スプートニク計画》が進められていたまさにその時代、、 米ソの有人月旅行計画が進められていくのは60年代に入ってからなので、 エルザ・トリオレが『ルナ=パーク』で月をめざす女性宇宙飛行士を登場させるというのは、 とっても先進的な視点だったのかもしれません。

そんな読書をしたのち、、 また? と言われてしまうかもしれないのですが、 前にもたびたび書きました片山廣子さんの随筆集『ともしい日の記念』が発売されたのが2月。。 それを読んでいてそのなかに、、

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 「飛行機がまゐりました。」
  茶の間から若い女中が教へに来てくれた。



これは 『ともしい日の記念』の四月の章、 「かなしみの後に」という随筆の後半に出てくる文章。。 「かなしみの後に」は青空文庫でも公開されていないので内容は控えますが、 1920年の3月から5月までの思い出がつづられています。

その片山さんの「かなしみの後に」、、 「飛行機がまゐりました。」

読んだとき、 いったい何のことだろう… と思いました。 若い女中さんのこの言葉はまるで 「タクシーがまいりました」と呼びに来ているみたいで、、 飛行機に乗るの…? どこから…? なんて、 一瞬考えてしまったのでした。 大正9年のことなのに、、

それは 続きを読むとわかるのですが、 片山さんは女中さんに呼ばれて、 庭へ降り立ち 東京上空を飛んでくる飛行機を見上げたのでした。。

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かなしみの後で見上げた飛行機。。 この随筆の印象があまりに鮮烈だったもので、 このとき片山さんの空を飛んでいた飛行機はどんなだったのだろう… と検索しました(本文の注釈も参考にして…)

それは 1920年5月末日、 ローマから東京へ飛んできたアルトゥーロ・フェラーリンの飛行機でした(>>wiki アルトゥーロ・フェラーリン)

wikipedia の記述からわかりますが、 きっと大々的に新聞に載ったりして、 その日 東京へ飛行機が飛んでくることは大きな話題になっていたのでしょうね。 それで若い女中さんは 今か今かと気にかけていて、 それでエンジン音がきっと聞こえてきて 「飛行機がまゐりました。」 とあわてて奥様を呼びに行ったのでしょうね。

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エルザ・トリオレの『ルナ=パーク』の女性飛行士ブランシュは、、(これもネタバレごめんなさい…) 長距離飛行に出たのち消息を絶ちます。 おそらく砂漠のどこかで…

上記の片山さんの随筆に出てくる長距離飛行のことなど検索しているうちに、 アメリア・イアハートという女性パイロットの記述に辿り着きました… この方のことは全然存じませんでした。。 女性として初の大西洋単独横断飛行をした人。 そして 赤道上世界一周飛行の挑戦中に消息を絶った人…

ウィキに載っていたポートレートにも魅了されました。 かっこいい美しい人(>>アメリア・イアハート

エルザ・トリオレが『ルナ=パーク』の女性飛行士ブランシュを創造した背景には  アメリア・イアハートの存在などもきっとあったのでしょう。 

アメリア・イアハートについては いろんな本も出ていて、 その謎の失踪についても日本軍に捕らえられただとかいろいろな憶測などもあったのだそうです。 『アメリア 永遠の翼』という映画にもなっていて、 出演がヒラリー・スワンクとリチャード・ギアですって。。 想像できそう、、 ヒラリ・スワンクはそっくりな気がします。

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片山廣子さんのかなしみの空を飛んだ飛行機…

第二次大戦前夜の南太平洋に消えたアメリア・イヤーハート…

そして、 月を夢見つつ、 現実世界の《戦争》という渦中に消えていった『ルナ=パーク』のブランシュ…


現代、、
ふたたび人類は月をめざすのだそうですね。。 2026年には 日本人初の月面着陸も計画されているのだとか… 夢のような、、 その一方で、 月の資源獲得競争みたいな覇権争いも見え隠れしますが。。


GWにかけてのいくつかのイベントを無事に乗り切ったら(これも私にとってはおおきな冒険のようなもの)、、 アメリア・イヤーハートに関する本をいくつか読んでみたいと思っています。 先日、 エスクァイアのサイトにこんな記事も載っていたようです⤵
  アメリア・イアハート失踪の謎、ついに終止符か|無人潜水機の画像が話題に>>.esquire.com


失踪の謎にも興味はないわけではないけれど、、 彼女がどんなことを考えて、 感じて、 空を飛んでいたのかを読んでみたいです。




青空 見上げて…



きょうも あしたも




元気でありますように…

若葉のころ

2024-04-15 | 文学にまつわるあれこれ(林檎の小道)
週末、 先週行った桜の下を歩いてみましたら 薄紅の花びらたちは すっかり若葉に変わっていました。

街は色とりどりのツツジやサツキの季節になりつつあります。 きょうはいずこも夏日になるとか… 

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みずみずしい新緑と木洩れ日のもとを歩いていたら、、 遠い日のことを想い出しました。 …というか、 このところ たびたび思い出していた、、 あなたのこと。。

新緑のもとを歩いていて 脳裡にきこえてきたのは 「若葉のころ」という歌。 ビージーズが歌って 映画『小さな恋のメロディ』の挿入歌になった歌ですね。 原題が 「First of May」というのだと それはさっき検索して知りました… 笑

この歌を思い出すとき、、 でも思い浮かべるのは『小さな恋のメロディ』ではなくて、 フランコ・ゼフィレッリ監督の映画『ロミオとジュリエット』なのです、、 1968年の映画。 「小さな恋~」のほうは1971年のようですね。

小学生のとき、 田舎の映画館でこのふたつの映画が一緒にリバイバル上映されることになって、 たしか高校生以上の付き添いがあれば観に行って良い、という学校の許可があって、、 それで親友のお姉さんが連れていってくれることに…

記憶がとても鮮明なのは、 その日の、、 まさにその日の写真が残っているから。。 映画に出かける時の バス停で親友と並んで撮った写真。 高校生のお姉さんが撮影してくれた写真。

明るい陽射しの下で 彼女は淡いピンク色の木綿のワンピース、 私はレモンイエローのワンピースに 同じ色のつば広の帽子をかぶって。 、、彼女はちょっとむつかしい顔をしてカメラを見つめている。 私はお姉さんに撮ってもらうので精いっぱいのすまし顔。

彼女は私なぞよりとびきり賢くて 文学少女で たくさんの本を読んでいて、、 お姉さまも学校で有名なくらい優秀で そのうえ美しかった…(撮影してくれたお姉さんの写真が無いのが残念)

映画のことを教えてくれたのも彼女。 観に行く前から『ロミオとジュリエット』の悲恋の物語を話してくれて、 ふたりが仮面舞踏会で出会うことや 眠り薬をつかって恋を成就させようとはかること。。 小学生の自分には彼女のすべてが大人びていて、 彼女が目を輝かせて話してくれるこの映画のすべてが未知の、 初めて知る世界だった…

夢を語り、 夢のような世界を思い描く楽しさを語り、、 小学校の中庭に寝転がっては青空を見上げた。 四つ葉のクローバーを探し、 花冠をつくり、、 スミレの押し花をノートに挟んでくれた…

 ***

小学校卒業と同時に転校して行ってしまった彼女とは 大人になるまでずっと文通をつづけて。。 彼女はとてもとても堅実に、 地元の大学を出て 国家公務員になって、、
いっぽうの私が バンドだのパンクロックだの、、 と(なにを手紙に書いたのか覚えてはいないけど…) そういう私を心配して、、 「お願いだから、 なにかの活動家とかにはならないでね…」なんて手紙で言われたこともあったっけ…

『ロミオとジュリエット』に憧れて、 たくさんの外国文学のファンタジーをじぶんの言葉で私に語ってくれていた彼女が そんな風に生真面目な大人に成長したことを、 すれっからしの私のほうは ほんの少しだけ残念に思ったこともあったけれど、、 それから何十年、、 そして ほとんど半世紀が経つ今、、 


あなたのすべてに感謝しています…




今朝、、 「若葉のころ」を聴きながら、 歌詞をずっと読んでいました。 子供のころに耳で聞いたきり、 ちゃんと歌詞を読んだ事もなかったから。。

歌詞の一行一行 ぜんぶがあの頃の私たちにあてはまる。。



あなたが逝って もう十何度目かの春がきて…




The apple tree that grew for you and me…



あの日 バス停で撮った写真



ふたりの後ろには ちいさな姫りんごの樹があったよね…




きっと今頃は  若葉のころ…





わたしはもう少しここにいるね…