ライブの事を書こうと思うのだけれど、どちらから書こう・・・と迷って・・・ボウイの事からにします。
たぶん、「hours...」の事を教えてもらわなかったら、再びボウイを聴く様にはならなかったかもしれないし、、、それだけすっかり90年代以後のボウイからは遠ざかってしまっていた私です。
同時代で聴き始めたのは「ヤング・アメリカン」からかな。あの美しいジャケット。スタイリッシュなボウイ。
兄の持っていたZiggy時代のボウイのアルバムは、家で流れていたのを耳にして憶えたようなもの。若き日のボウイは、その時すでに若き日の、、、というイメージで、一番好きだったのは大人になったボウイの「LOW」。もうこれはTelevisionや、クリムゾンや、ピンク・フロイドと一緒に、部屋の灯りも点けずにヘッドホンでヴォリューム上げて何度も何度も聴きました。JAPANを好きだったのもこの頃。PUNKの熱が去って、ニュー・ウェーヴの時代がやって来てもボウイはまだまだ聴いていたけど、あの頃のロック好きの子供がみんなどこかひねくれていたように、私も完全に斜に構えた批評眼でボウイをずっと見ていて(生意気にも)。。。ああ、今度はブラック路線か、今度はファンク路線か、、、という感じで。
多くの人と同様に、80年でロックは一度完全に死んじゃったんです、私の中でも。だからボウイも、ロックの終わった後の時代にどんな音楽を創っていくのか、常に時代の音を取り入れるのが巧くて(巧すぎるがゆえに時代よりもちょっとばかり早すぎて評価が付いていけない、理解できない、という感じだったボウイ)。Televisionの曲をカヴァーしていた「スケアリー・モンスターズ」を興味深く聴いた後は「レッツ・ダンス」までで、私の同時代ボウイ体験は終り。
ボウイはもういいや、、、って。。。
「hours...」を教えてもらって聴いて・・・そしたら、なんだか忘れていたものを一気に思い出したような、自分で「へ~~え、ボウイの音こんなに好きだったのか」と不思議でした。。。(たぶんライナー文を書いていた吉井さんの言葉の効果もあるのでしょうけれど)ボウイ自身がミックと一緒だった頃の、ギターがぎゅんぎゅん響いていたり、あるいはすごくセンチメンタルだったり、そんな音を50代になって全然肩肘張らずにやっていたのがこの「hours...」だったのでしょう。
さて、今回のLIVE。。。こんな斜に構えた聴き手だったので、かなり冷静に(というか前日のストロボがんがんのSpiritualizedの眩暈が残ったまま)、九段下に降り立ったのですが・・・
去年のBECKの時より凄い人の多さ!(BECKだって素晴らしいLIVEだったのに)やっぱりさすがはボウイだわ。。と関心しながら人波に続いて。前日見に行った友から「泣くなよ!」とメールが朝、入っていたけれど、「なんで?泣くわけ無いじゃん」と思ってました。武道館の入り口には今度来日するエアロスミスのビデオが流れていて、ひとりの恥ずかしさも何処へやら、一番前に寄って行ってジョー・ペリーが映るたび顔がニヤけそうになるのをこらえつつドキドキして。。。
前座にBOOWYのベーシストだった松井さんのLIVEがあるとアナウンスがあって、とても楽しみに松井さんを見ました。15年ぶりくらいに見るMr.ダウンピッキングの松井さん。あの奏法に適ったシンセ2台とのノイジーなサウンド。でも3曲だけでお終いでそれからはまた灯りが燈ってセッティングをするスタッフの姿。。。前日の頭痛がとれずに寒気もして、コートもストールも脱げない。。。待っている時間が長い、ちょっとツラい。
そんな感じでボウイのステージは始まりました。
ステージの後方を囲むように高い橋がつくられていてそこを通って、バンドのメンバーたちがひとりずつ登場する。スクリーンに'シンプソンズ’に似たようなアニメーションでメンバーが演奏している姿が映る。可愛い! そのアニメのVoの顔がボウイに変わる。そしてあのイントロ。「REBEL REBEL」。歌いだすボウイ。
この瞬間、寒がっていた私は立ち上がって手拍子してました。この曲の途中でコートも脱ぎました。あとはラストまで立ちっ放し、踊りっぱなしです(笑)。席は2階席でしたけど、ステージがよく見下ろせる場所。オペラグラスを目に当てればボウイの表情もよく見えます。ボウイは胸に文字の書かれたシンプルなグレーのTシャツに黒のジーンズ。(1曲目だけ長めのコート風ジャケットを羽織ってましたがすぐ脱いでTシャツに)こんなあっさりとした服装の中、首にちょっと西部劇風に臙脂色のチーフを細く垂らしているのが粋で。。「REBEL REBEL」が大好きなお友達のことを思い出して、「喜ぶだろうなあ」と自分まで嬉しくなって・・でもまだまだ余裕の私(笑)。
上着を脱ぎ捨てたボウイの余りに白い腕にちょっと驚いて(でもスリムなスタイルは見事~)、次の瞬間・・・とつぜん私はわけがわからなくなりました(笑)。ジャッ、ジャッ、ジャラララジャララジャラララ…、、、「HANG ONTO YOURSELF」!! ギターの音、大きいです。あのガチャガチャした(すみません…)ボウイのVo.を「え? 何?何?こんな曲を!?」とうろたえつつ聴いている間にギターソロ。心の準備ができていない。。ギタリストがギターのボディを客席に向けて持ち上げて見せたりして・・・今までに見たこの曲のこの場面のいろんな姿といろんな映像が3種類くらい目の前に幻影みたいに重なり合って、すっごい嬉しいのと、すっごい切ないのと、すっごい悔しいのが入り混じる。悔しい、というのはやっぱりミック・ロンソンの姿がこの曲では強烈すぎたんですね、記憶の中で。
Ziggy時代の曲を、Tシャツとジーンズで57歳の今のボウイはこんなに嬉しそうに歌えるんだわ、、、というのが衝撃でした。その後、スケアリーモンスターズから「Fashion」と会場を沸かせつつ「ピ、ピ♪」と歌って、そして「古い歌を…」といった感じで話し始めた時には、もう心の中では「うゎこの上に、やめて、やめてくれ…」と膝が崩れそうでしたがもう遅いです、「All The Young Dudes」のイントロが流れ始めてしまいました。ステージの中央の四角い張り出しの最先端へ行って、そこのお客さんに手を伸ばすようにして膝を折って床に座り込むボウイ。この曲が日本のお客さんへ与える印象、この曲でお客さんたちが思い出す記憶、古い古いロックバンドの記憶、、、それをよくよく解ってなおかつ祈るような、何かを偲ぶような仕草で跪いて歌われると、泣き出したくて、逃げ出したくて、でもやっぱり嬉しくて泣き笑い状態です。
抱いていたボウイのステージの印象は、ダンサブルでスタイリッシュな構成で、ボウイの服装も(あのフレディ追悼コンサートの時の目の醒めるような)鮮やかなスーツ姿とかで、政界、財界、芸能界のセレブたちを前にあまりにもカッコ良くステージ演出をしてみせる、、、(決して悪い意味ではなく)そのようなファッショナブルに演出された大人のステージを想像して来たのです。それはこんな具合でびっくりするような良い方向で裏切られました。
古い曲に対する自分の反応というか、感情が、自分でもヘンでした。懐かしくて喜んでいる、というのではたぶん無いと思うのです。ずっと貯蔵室で眠っていたシャンパンを思い切り振って栓が弾けとんでしまったみたいな気分。自分の頭の中で、曲の先を歌ってて、ボウイのアクションとか次に来るバンドのリフとかを先走って思い浮かべて、それをボウイが再現して見せてくれるのがすごく不思議というか、むしろ信じられないようなのに、ステージのボウイは記憶よりもずっとずっと自然体の紳士になって、レコードよりもずっとずっと逞しく張りのある声で、まさに高らかと歌ってる。あの歌声は本当に見事でした。
大好きだった「LOW」からの曲「Be My Wife」や「A New Career In A New Town」を続けてやってくれた時も、とっても嬉しかった。素晴らしい楽曲。それから「Ashes To Ashes」・・・「Heroes」!! 今まで何度かこの曲のLIVEはTVで見たりしてきたけれど、こんなにカッコいいギターを弾いてくれた今回の演奏にはもう大満足。この曲の時、さらにさらにバンドの音量がUPしたように思えました。
アンコールは、ジャージーなピアノの演奏が素敵だった「Reality」からの「Bring me the disco king」と「Fall Dog Bombs The Moon」、そして、「FIVE YEARS」「SUFFRAGETTE CITY」「ZIGGY STARDUST」。
***
でも、今回のLIVEで、私が一番いちばん感動したのは、Ziggy時代の曲も勿論だけれど、一番は「Heathen」からの「Slip Away」でした。曲の前にボウイはアメリカのTVショーのパペット劇を後ろのスクリーンに映し出して、Uncle Floyd Showに出てくる(らしい)キャラクターを紹介してくれました。そのUncle Floydを歌った歌。そして、歌詞にも登場するNYっ子らの大好きな遊園地「コニーアイランド」の風景がスクリーンいっぱいに映し出されました。コニーアイランドへ行ったことも無いのに、コニーアイランドへ妙なノスタルジーを抱いている私は、古臭い大観覧車や、くるくる廻る乗り物の映像を、胸一杯になりながら眺めていました。ルー・リードも歌ったコニー・アイランド。そして昨年秋、劇「ヴォイツェク」の中で、トム・ウェイツによって愛の最高の時の象徴として歌われた「コニー・アイランド・ベイビー」。。こういうものが全部一色になって、ボウイが言わんとしていることがやっと理解できたのです。そして、スクリーンには歌とともに下の歌詞が字幕になって浮かんで来ました。
Don't forget to keep your head warm
Twinkle twinkle Uncle Floyd
Watching all the world and war torn
How I wonder where you are
現代の世界の姿と、かつての人々の平穏な日々の象徴みたいだったコニー・アイランド。9・11よりも前に、この曲を書いてしまったボウイはやっぱり辛かったのでしょう。自分が感じ取ってしまったこと、その不安が現実になって、予見を超えて最悪な状況をすら見なければならなかったこと。
9・11の2日後くらいにボウイネットに掲載された言葉が忘れられません。「あの日、逃げていく大勢の人たちを見て『みんなどこへ行くんだ?』と言っていたホームレスの男は、今は『おおい、みんな何処へ行ったんだ?』と言っている。今、街はひどく静かだ。しかし、これがやがて憎しみに変わるのだろう…」たしかそんな文章でした。でも、フロイドおじさんの思い出と共に、コニー・アイランドの幻想的で幸せそうな風景をボウイは見せてくれました。上に挙げた痛ましい歌詞を一緒に歌いながら、でも、コニー・アイランドを見せてくれてありがとう、ボウイ。。と感動しつつ・・・
ボウイは決して「振り返る」「懐かしむ」という姿を、アーティストとして見せなかった人だったと思っていました。どんなに自分がしんどくても先へ進んだ音楽をリスナーに届ける、それがボウイの使命、みたいに80年代頃は思っていました。今回は「hours...」からの曲はなかったけれど、「hours...」を通過して、「hours...」よりももっとストレートな形で、ボウイは「振り返る」「懐かしむ」という自分の姿も表現できるようになったのかもしれないなあ、と(できるようになった、なんて言い方は失礼なのは解っていますけど…)それが、最近の歌詞にも表れているようにも思うし、それが私たちに愛しい気持ちを抱かせてくれるし、自分の人生で出会ってきた人、たいせつな人、そんな人たちを思い出す暖かい感情を見せてくれているようだし、こうやって生の音を聴いて見ると、バンドの音にもそれが表れているような気がしました。ストレートで、ロック感に溢れてて。。。
9日には聴く事が出来なかった、「Life On Mars?」…これが私がボウイの中で一番好きな歌。ミッキーマウスとあのリコーダーが聴こえて来ると、それだけで泣けてしまう曲。これを聴いてみたい楽しみがまた残りました。
たぶん、「hours...」の事を教えてもらわなかったら、再びボウイを聴く様にはならなかったかもしれないし、、、それだけすっかり90年代以後のボウイからは遠ざかってしまっていた私です。
同時代で聴き始めたのは「ヤング・アメリカン」からかな。あの美しいジャケット。スタイリッシュなボウイ。
兄の持っていたZiggy時代のボウイのアルバムは、家で流れていたのを耳にして憶えたようなもの。若き日のボウイは、その時すでに若き日の、、、というイメージで、一番好きだったのは大人になったボウイの「LOW」。もうこれはTelevisionや、クリムゾンや、ピンク・フロイドと一緒に、部屋の灯りも点けずにヘッドホンでヴォリューム上げて何度も何度も聴きました。JAPANを好きだったのもこの頃。PUNKの熱が去って、ニュー・ウェーヴの時代がやって来てもボウイはまだまだ聴いていたけど、あの頃のロック好きの子供がみんなどこかひねくれていたように、私も完全に斜に構えた批評眼でボウイをずっと見ていて(生意気にも)。。。ああ、今度はブラック路線か、今度はファンク路線か、、、という感じで。
多くの人と同様に、80年でロックは一度完全に死んじゃったんです、私の中でも。だからボウイも、ロックの終わった後の時代にどんな音楽を創っていくのか、常に時代の音を取り入れるのが巧くて(巧すぎるがゆえに時代よりもちょっとばかり早すぎて評価が付いていけない、理解できない、という感じだったボウイ)。Televisionの曲をカヴァーしていた「スケアリー・モンスターズ」を興味深く聴いた後は「レッツ・ダンス」までで、私の同時代ボウイ体験は終り。
ボウイはもういいや、、、って。。。
「hours...」を教えてもらって聴いて・・・そしたら、なんだか忘れていたものを一気に思い出したような、自分で「へ~~え、ボウイの音こんなに好きだったのか」と不思議でした。。。(たぶんライナー文を書いていた吉井さんの言葉の効果もあるのでしょうけれど)ボウイ自身がミックと一緒だった頃の、ギターがぎゅんぎゅん響いていたり、あるいはすごくセンチメンタルだったり、そんな音を50代になって全然肩肘張らずにやっていたのがこの「hours...」だったのでしょう。
さて、今回のLIVE。。。こんな斜に構えた聴き手だったので、かなり冷静に(というか前日のストロボがんがんのSpiritualizedの眩暈が残ったまま)、九段下に降り立ったのですが・・・
去年のBECKの時より凄い人の多さ!(BECKだって素晴らしいLIVEだったのに)やっぱりさすがはボウイだわ。。と関心しながら人波に続いて。前日見に行った友から「泣くなよ!」とメールが朝、入っていたけれど、「なんで?泣くわけ無いじゃん」と思ってました。武道館の入り口には今度来日するエアロスミスのビデオが流れていて、ひとりの恥ずかしさも何処へやら、一番前に寄って行ってジョー・ペリーが映るたび顔がニヤけそうになるのをこらえつつドキドキして。。。
前座にBOOWYのベーシストだった松井さんのLIVEがあるとアナウンスがあって、とても楽しみに松井さんを見ました。15年ぶりくらいに見るMr.ダウンピッキングの松井さん。あの奏法に適ったシンセ2台とのノイジーなサウンド。でも3曲だけでお終いでそれからはまた灯りが燈ってセッティングをするスタッフの姿。。。前日の頭痛がとれずに寒気もして、コートもストールも脱げない。。。待っている時間が長い、ちょっとツラい。
そんな感じでボウイのステージは始まりました。
ステージの後方を囲むように高い橋がつくられていてそこを通って、バンドのメンバーたちがひとりずつ登場する。スクリーンに'シンプソンズ’に似たようなアニメーションでメンバーが演奏している姿が映る。可愛い! そのアニメのVoの顔がボウイに変わる。そしてあのイントロ。「REBEL REBEL」。歌いだすボウイ。
この瞬間、寒がっていた私は立ち上がって手拍子してました。この曲の途中でコートも脱ぎました。あとはラストまで立ちっ放し、踊りっぱなしです(笑)。席は2階席でしたけど、ステージがよく見下ろせる場所。オペラグラスを目に当てればボウイの表情もよく見えます。ボウイは胸に文字の書かれたシンプルなグレーのTシャツに黒のジーンズ。(1曲目だけ長めのコート風ジャケットを羽織ってましたがすぐ脱いでTシャツに)こんなあっさりとした服装の中、首にちょっと西部劇風に臙脂色のチーフを細く垂らしているのが粋で。。「REBEL REBEL」が大好きなお友達のことを思い出して、「喜ぶだろうなあ」と自分まで嬉しくなって・・でもまだまだ余裕の私(笑)。
上着を脱ぎ捨てたボウイの余りに白い腕にちょっと驚いて(でもスリムなスタイルは見事~)、次の瞬間・・・とつぜん私はわけがわからなくなりました(笑)。ジャッ、ジャッ、ジャラララジャララジャラララ…、、、「HANG ONTO YOURSELF」!! ギターの音、大きいです。あのガチャガチャした(すみません…)ボウイのVo.を「え? 何?何?こんな曲を!?」とうろたえつつ聴いている間にギターソロ。心の準備ができていない。。ギタリストがギターのボディを客席に向けて持ち上げて見せたりして・・・今までに見たこの曲のこの場面のいろんな姿といろんな映像が3種類くらい目の前に幻影みたいに重なり合って、すっごい嬉しいのと、すっごい切ないのと、すっごい悔しいのが入り混じる。悔しい、というのはやっぱりミック・ロンソンの姿がこの曲では強烈すぎたんですね、記憶の中で。
Ziggy時代の曲を、Tシャツとジーンズで57歳の今のボウイはこんなに嬉しそうに歌えるんだわ、、、というのが衝撃でした。その後、スケアリーモンスターズから「Fashion」と会場を沸かせつつ「ピ、ピ♪」と歌って、そして「古い歌を…」といった感じで話し始めた時には、もう心の中では「うゎこの上に、やめて、やめてくれ…」と膝が崩れそうでしたがもう遅いです、「All The Young Dudes」のイントロが流れ始めてしまいました。ステージの中央の四角い張り出しの最先端へ行って、そこのお客さんに手を伸ばすようにして膝を折って床に座り込むボウイ。この曲が日本のお客さんへ与える印象、この曲でお客さんたちが思い出す記憶、古い古いロックバンドの記憶、、、それをよくよく解ってなおかつ祈るような、何かを偲ぶような仕草で跪いて歌われると、泣き出したくて、逃げ出したくて、でもやっぱり嬉しくて泣き笑い状態です。
抱いていたボウイのステージの印象は、ダンサブルでスタイリッシュな構成で、ボウイの服装も(あのフレディ追悼コンサートの時の目の醒めるような)鮮やかなスーツ姿とかで、政界、財界、芸能界のセレブたちを前にあまりにもカッコ良くステージ演出をしてみせる、、、(決して悪い意味ではなく)そのようなファッショナブルに演出された大人のステージを想像して来たのです。それはこんな具合でびっくりするような良い方向で裏切られました。
古い曲に対する自分の反応というか、感情が、自分でもヘンでした。懐かしくて喜んでいる、というのではたぶん無いと思うのです。ずっと貯蔵室で眠っていたシャンパンを思い切り振って栓が弾けとんでしまったみたいな気分。自分の頭の中で、曲の先を歌ってて、ボウイのアクションとか次に来るバンドのリフとかを先走って思い浮かべて、それをボウイが再現して見せてくれるのがすごく不思議というか、むしろ信じられないようなのに、ステージのボウイは記憶よりもずっとずっと自然体の紳士になって、レコードよりもずっとずっと逞しく張りのある声で、まさに高らかと歌ってる。あの歌声は本当に見事でした。
大好きだった「LOW」からの曲「Be My Wife」や「A New Career In A New Town」を続けてやってくれた時も、とっても嬉しかった。素晴らしい楽曲。それから「Ashes To Ashes」・・・「Heroes」!! 今まで何度かこの曲のLIVEはTVで見たりしてきたけれど、こんなにカッコいいギターを弾いてくれた今回の演奏にはもう大満足。この曲の時、さらにさらにバンドの音量がUPしたように思えました。
アンコールは、ジャージーなピアノの演奏が素敵だった「Reality」からの「Bring me the disco king」と「Fall Dog Bombs The Moon」、そして、「FIVE YEARS」「SUFFRAGETTE CITY」「ZIGGY STARDUST」。
***
でも、今回のLIVEで、私が一番いちばん感動したのは、Ziggy時代の曲も勿論だけれど、一番は「Heathen」からの「Slip Away」でした。曲の前にボウイはアメリカのTVショーのパペット劇を後ろのスクリーンに映し出して、Uncle Floyd Showに出てくる(らしい)キャラクターを紹介してくれました。そのUncle Floydを歌った歌。そして、歌詞にも登場するNYっ子らの大好きな遊園地「コニーアイランド」の風景がスクリーンいっぱいに映し出されました。コニーアイランドへ行ったことも無いのに、コニーアイランドへ妙なノスタルジーを抱いている私は、古臭い大観覧車や、くるくる廻る乗り物の映像を、胸一杯になりながら眺めていました。ルー・リードも歌ったコニー・アイランド。そして昨年秋、劇「ヴォイツェク」の中で、トム・ウェイツによって愛の最高の時の象徴として歌われた「コニー・アイランド・ベイビー」。。こういうものが全部一色になって、ボウイが言わんとしていることがやっと理解できたのです。そして、スクリーンには歌とともに下の歌詞が字幕になって浮かんで来ました。
Don't forget to keep your head warm
Twinkle twinkle Uncle Floyd
Watching all the world and war torn
How I wonder where you are
現代の世界の姿と、かつての人々の平穏な日々の象徴みたいだったコニー・アイランド。9・11よりも前に、この曲を書いてしまったボウイはやっぱり辛かったのでしょう。自分が感じ取ってしまったこと、その不安が現実になって、予見を超えて最悪な状況をすら見なければならなかったこと。
9・11の2日後くらいにボウイネットに掲載された言葉が忘れられません。「あの日、逃げていく大勢の人たちを見て『みんなどこへ行くんだ?』と言っていたホームレスの男は、今は『おおい、みんな何処へ行ったんだ?』と言っている。今、街はひどく静かだ。しかし、これがやがて憎しみに変わるのだろう…」たしかそんな文章でした。でも、フロイドおじさんの思い出と共に、コニー・アイランドの幻想的で幸せそうな風景をボウイは見せてくれました。上に挙げた痛ましい歌詞を一緒に歌いながら、でも、コニー・アイランドを見せてくれてありがとう、ボウイ。。と感動しつつ・・・
ボウイは決して「振り返る」「懐かしむ」という姿を、アーティストとして見せなかった人だったと思っていました。どんなに自分がしんどくても先へ進んだ音楽をリスナーに届ける、それがボウイの使命、みたいに80年代頃は思っていました。今回は「hours...」からの曲はなかったけれど、「hours...」を通過して、「hours...」よりももっとストレートな形で、ボウイは「振り返る」「懐かしむ」という自分の姿も表現できるようになったのかもしれないなあ、と(できるようになった、なんて言い方は失礼なのは解っていますけど…)それが、最近の歌詞にも表れているようにも思うし、それが私たちに愛しい気持ちを抱かせてくれるし、自分の人生で出会ってきた人、たいせつな人、そんな人たちを思い出す暖かい感情を見せてくれているようだし、こうやって生の音を聴いて見ると、バンドの音にもそれが表れているような気がしました。ストレートで、ロック感に溢れてて。。。
9日には聴く事が出来なかった、「Life On Mars?」…これが私がボウイの中で一番好きな歌。ミッキーマウスとあのリコーダーが聴こえて来ると、それだけで泣けてしまう曲。これを聴いてみたい楽しみがまた残りました。