星のひとかけ

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画家とコレクターと美術批評家のアーティフィシャルな関係:チャールズ・ウィルフォード著『炎に消えた名画(アート)』

2020-02-07 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『炎に消えた名画(アート)』 The Burnt Orange Heresy チャールズ・ウィルフォード著 浜野アキオ訳 扶桑社ミステリー 2004年


ミック・ジャガー出演で昨年映画化。 その原作小説とのことで どんな内容かしらと興味を持ちました。。 小説の内容紹介を見てみたら、 謎の画家に会いに行く若手美術批評家の話だと… てっきりその〈幻の画家〉がミック・ジャガーだろうと思って、、 生きていたらデヴィッド・ボウイあたりに話がいったのかしら… ミックはあんまり画家っぽくないけど、、 どんな画家を演じるのだろ? バルテュスみたいな 豪華なガウンとか纏った貴族みたいな画家なのかな…?

などと勝手な想像をしつつ、 読み始めたら文章のテンポも良く 美術界のペダンティックな話も面白く、 あっという間に読んでしまいました。。 

 ***

この小説が出版されたのは 1971年。。 なぜ今になって映画化されたんだろう…

ストーリーの冒頭は、、
新進の美術批評家の青年が、 ある美術コレクターのパーティーに呼ばれ、 そこで〈幻のフランス人画家〉ジャック・ドゥビエリューに面会する仕事を提案される。 

ドゥビエリューとは、 ダダイズムとシュールレアリズムの間の時代に現れ、 美術界の話題をさらった後 とつぜん隠遁生活に入り、 これまでに彼の作品を目にした批評家はたった四人、 どこの美術館もコレクターも誰ひとりドゥビエリューの作品を所有している者はいない、という幻の画家… 
その幻の画家に会い、 彼のインタビューと彼の新作を入手せよ、という依頼に 若手批評家は舞い上がる… 

とても興味深い物語の導入部です、が、、 展覧会もせず 美術館に作品もなく、 それでいて美術史に燦然と名を残す伝説の画家、、 そんな画家って いるの…? と無知な私は思って読んでいましたが、 美術に詳しい人ならすぐにピンとくる有名な人がいるのですね。。(名前は書きませんが) そっかぁ、余りにも有名すぎて その方がそんな隠遁生活をしていたなんて知りませんでした…

実在のアーティストかと思わせるようなジャック・ドゥビエリューの設定も面白いですし、 新進気鋭の美術批評家の青年が 金持ちコレクターと交わす美術談義もすごくリアリティがあって、 この若者の目利きとしての力量をコレクターが試すように会話しながら、 信頼を勝ち取っていくあたり、、 60年代~70年頃のNYなどの(この小説の舞台はフロリダですが)アートシーンに実在したかのような まるでノンフィクションを読んでいるようでとても楽しめました。

美術市場で取引されるアートの価値は、 決して自然に生まれるものではなく、 批評家や学者が作品を発掘し、 その価値を測り 鍛え上げ、 コレクターやバイヤーたちが さらに価値を吊り上げ(ある意味 捏造し)、 そういう力関係のなかでアートが創り出されて(拵えられて)いくもの、、 なんて書くのは穿った見方ですが、 それだからこそミステリーも生まれるわけですし。。

ずっと頭に浮かんでいたのが、、
ブルース・チャトウィンが美術鑑定士のキャリアのなかで、 晩年のジョルジュ・ブラックから 作品の真贋について、 「きみが贋作と言うならきっとそうだろう」と言うまで認められていた、、という話。(『パタゴニア』の解説に書かれています) 

チャトウィンのような知性と目利きの能力、 それから人を魅了する会話の技量、品性、美貌、、 もしこの小説の主人公の若手批評家がチャトウィンに並ぶ男だったら、 きっと幻の画家の心中にもさっと入り込み、 作品の謎も語らせることができるのではないかしら… などとちょっと想像しながら読んでいきました。

 ***

ただし そこはアート・ノワールと銘打った小説。 事がすんなり進むはずはありません、、 事件も起こります。。 あとは読んでのお楽しみ。
(この原作を映画化するとして、、 あともうひとひねり、 映画には必要な気がしましたが、、 映画の結末はどうなっているのでしょうね…)

それと、、 主人公(批評家)の恋人が…。。 う~~む、 71年のパルプフィクションと思えばそうかもね、、とも 思うけれども、、 新進気鋭の美術批評家の審美眼からしたら 女の趣味悪すぎないか? (スミマセン、私見です)


、、 ちなみに、 読後に今度の映画の予告編を見ましたら、 ミック・ジャガーは画家ではなくて 仕事を依頼する金持ちコレクターのほうでした。。 小説を読む限りでは この役はどうしてもミックでなくても良いような…

どちらかというと、 ひとを煙に巻いたような老画家のほうをやって欲しかったな。。 (こちらを演じるのは ドナルド・サザーランド (適役!!)

The Burnt Orange Heresy (2019) IMDb 

 ***

ブルース・チャトウィンと美術界のかかわりのことを不意に思い出してしまったので、 今度は チャトウィンがマイセン磁器の蒐集家について書いた小説『ウッツ男爵: ある蒐集家の物語』を読んでみなくてはなりません、、


余談ですが、、
さっき、 ちょっと検索していたら面白いものが…
この ウィリアム・ボイドの"Nat Tate: An American Artist 1928–1960" という本、 邦訳出ないかしら… ナット・テイトという画家の伝記、、 なのだけれど 全くの架空の人物で

だけど デヴィッド・ボウイらが協力して まるで実在の画家であるかのように仕立て上げ… という嘘みたいな実際の裏話つきの本、、⤵
デヴィッド・ボウイ、「架空の画家」のために打ち上げパーティーを開催!? rockinon.com

やっぱり アートシーンにボウイは似合いますね。。



体調にお気をつけて、、  よい週末を。

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