星のひとかけ

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戦争はすべてを奪う…愛以外は…:『最後の巡礼者』ガード・スヴェン著

2020-12-14 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)
ミステリ読書、、 今年のベストです。



最後の巡礼者 上・下巻 ガード・スヴェン著 田口俊樹・訳 竹書房文庫 2020年

今年も新旧いろいろなミステリ小説を読みましたが、、 ガツンと手応えのあるものが読みたいな、、と思って、、 訳者さんがポーランドのミステリの傑作、検察官シャッキのシリーズ(>>)のかただったことと、 ノルウェーのミステリは読んだ事が無かったこと、、 どうやら第二次大戦下の話がからんでくる物語らしいこと、、 という点で選びました。(ちなみに2019年のミステリベストはシャッキシリーズ)

、、 あまりミステリ小説で馴染みの無かった出版社さんだったので(…スミマセン…出版社によって判断すること多いんです・汗) ちょっと躊躇しましたが、、 読み応え抜群、 内容も深くて、 謎解きも最後の最後までわからず…… 大満足の読書でした。

 ***

舞台は2003年のノルウェーの首都オスロ。 政界・財界の権力者で今は引退した大物老人の邸宅。 彼が自宅で惨殺死体となって発見されるところから物語ははじまります。 

…が、 場面は一転して 第二次大戦下のノルウェーへ。。 60年前の戦時下と、 殺人事件を追う現代との場面がめまぐるしく行きつ戻りつして 物語は進んでいきます。

現代の主人公は 殺人事件を追う刑事。 洞察力も行動力もあるけれども、 自分の非から恋人に去られた傷をひきずっている男。
一方、、 60年前の第二次大戦下のノルウェーは…… 

この時代のノルウェーのことは全く無知だったので、 最初は状況を把握するのに苦労しました。。 ナチスドイツが侵攻し、 どうやらその支配下にあるらしいこと。 レジスタンス(ミーロルグ)の闘士たちが水面下で諜報活動などしてナチの勢力に対する抵抗活動をしているらしいこと。。 そのレジスタンスの活動を、 陰で連合軍のイギリスが支援しているらしいこと。。

さらに、、 現代に話を戻すと、 オスロ郊外の森で古い白骨死体が発見され、 第二次大戦中に失踪した女性二人と少女であることが判明する。

、、 この大戦中に殺され埋められた3人の白骨死体と、 現代の大物老人の殺人とがどうかかわってくるのか。。 その両方をつなぐのが、 大戦下のイギリスでスパイとして養成され、 ノルウェーに送り込まれたアグネスという美しい女性。。 

、、 このあとの展開は書きませんけれど、、 自らの美貌を唯一の武器に、 親ナチの実力者たちに近づいていくアグネスの怯えや心の揺れがとてもよく描かれていますし、 なんと言っても、 若きレジスタンスの活動家たちや ドイツ軍側のエリートたちが皆、謎めいていて しかも妙にカッコ良い!! 
もしも映像化できるものなら ぜひして欲しいと思うほどです。 アグネス含め、 クラシカルな美男・美女揃いになることでしょう…

 ***

ミステリ小説としては 誰が3人を殺し埋めたのか、 誰が老人を惨殺したのか、、 という謎解きが主題で それは下巻の最後の最後のほうまで興味を引っ張っていってくれるのは勿論なのですが、、 この小説のほんとうの味わいは謎解きではないように 私は思います。。

それは 《愛》の物語であること。
くわしくは書けないけれど、、 どんな状況下にあっても 愛する気持ちを奪い取ることは出来ない、、 愛の為ならどんなことでもする、、 そういう意味の台詞が小説内にも書かれていました……
物語は第二次大戦中の数年と、 そこから60年近く飛び越えた2003年の話だけれども、、 その間の60年近い空白のなかに、 書かれていない愛の物語がたしかに存在しているのです。。

優れた小説というのは、 読み終わっても多くの《会話》ができるものだと思います。 登場人物との会話…… そして、 あれこれ思いめぐらし考える、 自分自身との会話。。 
この作品には 犯人という謎以外に、 登場人物の描かれていない空白がたくさん存在していて、、 この人はこのあと何があったのだろう、、 どうしてこう至ったのだろう、、 これとこれの間にどういう事が起きたのだろう、、 といろいろ考えてしまいます。 犯人は解明されても、 (犯人とは関係なく)この物語のなかの深い深い《愛》には 簡単には解明できないところがいっぱい。。

そこが胸を打つのでした……

現代部分の主人公の刑事さん、、 一度は愛に傷ついたために 愛に踏み切れないでいる刑事さん、、。 大戦下の命懸けの愛を知って 本気で誰かを愛したいと思うようになるかしら……?

 ***

個人的には、、 ここ数年興味をもって読んできた ふたつの大戦前後の物語たちともいろいろ繋がりを感じることが出来る読書でしたし。。

『戦場のアリス』(>>)も 英国でスパイの教育を受けた女性たちが ドイツ軍支配下のフランスで諜報活動をするという 史実に基づいた物語でしたし、、

『緋い空の下で』(>>)も実在の人物が主人公の、 第二次大戦のドイツ軍支配下のイタリアを描いた物語でした。 あの小説のラストで ドイツ軍ライヤース少将の戦争終結後の行く末、、 あのときの謎が今回のノルウェーの事情(ノルウェー・スウェーデン・英国・合衆国の関係)、、を読んで、 なんとなく判った気がするし、、

マイケル・オンダーチェの詩的な作品『戦下の淡き光』のなかの大戦中の英国諜報機関の指令を受けた家族、、 それからその仲間たちの活動、、 それから、、 オンダーチェさんの他の作品、、 『イギリス人の患者』や『ライオンの皮をまとって』(>>)に書かれた英国・ドイツ双方の諜報活動、、 それらのことも想い出しました。


今ふたたび、、
TVのBS12で 第二次大戦前夜のドイツを描いた『バビロン・ベルリン シーズン3』が始まってますが、 ナチスの台頭、 ナチスの支配はドイツ国内のことだけでは(当然ながら)無いんだということを 今回、 ノルウェーという今まで考えたことも無かった北欧での第二次大戦時の物語に触れられたことで改めて考えさせられました。。 ミステリ小説というエンターテインメント小説ではあっても、 現代につながっている世界の歴史、、。 
英米とドイツ、、 という関係だけではない その周辺のヨーロッパ、 北欧の国々がどうなっていたのか、、 アジア地域はどうなっていたのか、、 ほんと知らないことがいっぱいで、、 読書を通じてもっともっと知りたい事、、 そういう興味は尽きません。。 

そういえば、、 『イギリス人の患者』のなかで 英国の工兵キップが読んでいたラドヤード・キプリングの小説『キム』。 
つい先日、 光文社の古典新訳文庫に『キム』が加わったことも知りました(光文社>>) キムも英国軍の密偵となる物語だったと思う、、 また読んでみなくては……


 ***


、、 英国では新型コロナのワクチン接種が始まって、、 いいな、 いいな。。
with コロナ、なんて言葉は大キライ。 絶対に受け入れられないし、 一緒にはなれない。 世界はもうコロナ後を見据えてる。 いち早くワクチン接種を進めて コロナ後の経済活動を開始すべきと判断したイギリスの合理主義を羨ましく思います。

今回の小説読んでもつくづく思いました…… 最後の一兵卒まで戦うなどといつまでも現況に踏みとどまることの愚かさよ、、 戦況の先を読んで狡猾に《その後》の利益を確保した者が生き残る……


わたしももう 《コロナ後》を見据えて生きようっと……




日曜日、、 金星と細い三日月の美しいランデヴーが明け方の空にありました。。



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