事件記者のページ

遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

倉橋由美子

2014-05-08 16:01:56 | 本と雑誌
聖少女 (新潮文庫) 聖少女 (新潮文庫)
価格:¥ 473(税込)
発売日:1981-09-25

5/5にジュンク堂でゲト、2008年に改版されて桜庭一樹の解説がついたらしい(それまでの解説は誰?ちょっと気になる)、近所の本屋においてなかったのもちょっと不思議なのであるが・・・

ものすごくおおぜいの方がレビューしておられるから今さら私ごときが付け足すことは特にないと言いたいところなのだが、どうも(解説者を含めた)みんなが作者の技巧に騙されてるんじゃないかという気がしないではない、どうしてみんなヒロインのことばかり論じて語り手については何も言わないのか、作者は女性に違いないけど(それ知らなかったらわかるかな?)これは少女より少年の小説なんじゃないのか、もっともだとするとあんまし(コレットの作品と違って)成功してないかもしれないが

ヒロインの物語としてはほぼ完結してる、アタマがよくて家が金持ちなのでわがまま放題、大学で数学をやりたいけど高校へは行かないことも可能(凡人の読者としては学問をなめるなと言いたくなるけどね、大学ってそんな甘いとこじゃ・・・あるかな、死ぬほどできるヤツにとってなら)、容貌にも自信あり、そんな女の子がいささか異常な両親の現実を知ったならこんなこと(実父と男女の関係になること)を考えつくかもしれない、両親の両方を罰するために・・・そう言えばこの母親いまいち存在感ないんだが亭主と娘の所業を知らずじまいだったのかな?

だが語り手の少年はどうか、これまた抜群の秀才なので学校なんか何とも思っていない、強姦がバレて退学になったが大検で大学へ入って電子工学(たぶん)を勉強しつつ一度民青に入った後、反代々木系全学連の闘士として60年安保で逮捕され(でも退学にはならず)4年後の今(東京五輪の年、後に世間を騒がせる団塊の世代はまだ高校生)は優秀な大学院生になってカリフォルニアへ留学すべくヴィザが下りるのを待っている・・・だがこいつは貰い子で養家は貧乏らしいのである、しかも何年も家へ帰ってない、いったいどこに住んでどうやって食ってんだ、これまた学問をナメてない?
どうやらヒロインとは別の意味でウソつき、信用ならぬ語り手(桜庭いわく「平凡な青年」どこがやねん?!)、しかも何がホントで何がウソなのか最後まで不明のまま、たとえば高校の時、同級生と語らって強盗を働いたがバレなかったと言う、これがもう杜撰としか言いようのない(とても秀才が考えたとは思えない)メチャメチャな犯行でアシがつかなかったとは信じられない、それがホントだとしたら作者は(捕まれば刑務所-いや未成年だから少年院か-送りになるレベルの)犯罪というものをナメてると思う、さらにその時使った盗難車を(仲間の一人を乗せたまま)ヒロインに乗り逃げされた、その後バスに乗って居合わせた工員の尻をナイフで刺した上、乗車賃を払わずに逃げた・・・おいおい正気か、そんなことやって逃げおおせると本気で思っとるのかよ?!
で、これが後になると「強盗した金でいかれた女の子たちとパーティーをやってそこにヒロインも加わってた」なんて平然と言ってる、いったいホントは何があったんだ、隣のクルマを拝借してドライブしてた時にたまたまヒロインを拾って横浜でパーティーをやった、そん時「この金は強盗で稼いだんだ」と悪ぶってみせただけ-と何で正直に言えないんだよ?(そら言えるわけないわな、どこまでホントなのかわかってないんだから、たぶん作者が)
ただヒロイン(金持ちの相続人)との結婚は自分にとって有利になるハズと計算してる、それだけはホントっぽい、犯罪者を気取ってながら(いやそれゆえ?)何という俗物!!

とまあそんなわけでこれは「聖少女と俗少年」のお話なのである、タイトルが「少女」だから少年の言動にはあんまし誰も文句をつけない、若い解説者はアタマのいい少女が結局平凡な青年(そいつがどれほどウソツキかということは深く追求しない)の妻になって子供の母になるというつまんない人生を送ったんだろうと納得・・・・・

ま、たぶんそれで正解なんだろね(と上から目線)