事件記者のページ

遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

はぐれユリシーズ

2012-03-30 13:35:32 | 本と雑誌

樹液そして果実 樹液そして果実
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2011-07-05

タイトルにさしたる意味はない、まだ読み終わってないのだがここまで読んだところで丸谷才一の解説を読みなおすと改めて面白い、そもこれを先に読んだから元ネタを読もうと思い立ったわけなので(つかこの本の終りの方って確か読んでないよーな)
なるほどね、スティーヴン編(1-3,9挿話)はむつかしくてなじみにくいと思ったら、スティーヴンはハンパでないインテリで読者に(日本人はほとんど知るわけもない)教養を強要してるからだったのか、ブルームの方は本好きではあっても高度の教育を受けてるわけじゃないからわかりやすいんだ
変幻自在な文体を駆使する語り手はいったい何者か?え、作者じゃなかったの?一人称で語る「オレ」が作者じゃないことは確かだろうけど(犬-柳瀬尚紀の説-でもないよな、たぶん)、オレにいちいちツッコミを入れる「変な文体」マニアは作者でよいのじゃないかなあ、そう言えば一応三人称になっててもブルームの妄想じゃないかと思われる箇所もあるよな(13-違うのかもわからんが、ここで語られる女の子や子供たちが後でホンモノの幻覚として登場することをどう説明する?)

ところでたまたま第7挿話の出だしは電車だったが、この後電車が出るのは一回だけ(10)、登場人物の一人が2区か3区乗って1ペニー払う、その停留所がどこなのかよくわからない、巻末の地図を見ても鉄道線路は主要なものだけしか書いてなくて路面電車には省略されてるのもあるようだ(ジョイスが地名を上げてるのにそこに線路がない)、これだけいろんなヒトがいろんなことを研究してるのに電車マニアによる考証がないらしいとは残念なことである(オマエがやれって?そらちょっと・・・)、今ごろ気がついたけどこれを書いた時期、作者はアイルランドに住んでなかったんだね、ここに語られるのは記憶の中のダブリン、もちろん地図は持ってただろが・・・

話は違うが池澤夏樹の解説にいわく「アンナ・カレーニナ」は読みやすく「カラマーゾフ」は入りにくい、トルストイは標準語、ドストエフスキーはなまってる
そっかねえ、同じトルストイでも「戦争と平和」はどう?私はあっさり挫折したし映画版も第二部はあんまし面白くなかったのじゃない?
ドストだって「罪と罰」ならわかりやすいよ、とんでもない作話症の人物はいない、一番饒舌なのはたぶんマルメラードフだけど彼だってソーニャという重要人物のことを話してくれてるんで全くのムダ話はしてない、現れたと思ったら死んじゃうスヴィドリガイロフだけは「何なんだよ、こいつ?」と思ったけど

オマケ(これも池澤解説より)-「モビー・ディック」が出たのは1851年、、評価されたのは20世紀に入ってからとのこと、そら知らんかった(というか知ってたとしても忘れてた)、「鯨について」とかのムダ話も含めて文句なしに面白かったがラストがちょっと疑問だった、なぜ主人公はサメに食われなかったんだ?生き残らなきゃこのお話ができなかったからてのはナシだよ(ホント、つまらんことを気にするヤツだって?まーね)

もう一つ追記-一冊め(第7挿話)の注釈をよく見たら巻末の地図は現在のもの、1904年のものじゃないらしい、当時「ヨーロッパ随一の能率的な組織」だった路面電車の線路がどうだったのか今となっては知るよしもないらしいのである、ああ、こういうのってホントに悲しいよなあ・・・・

3/31さらに追記-Before Nelson's pillar、「ネルソン塔の前」だったら in front of になるハズで before は「時間的に前」の意味なんだから「手前」が正しい、これは後輩の勝ち、だけど shunted はどこへ行ったんだ、「ポイント切り替え」という解釈は妥当と思われるからこっちは先輩の勝ち、トータルで見ればやっぱ先輩有利じゃあるまいか?


さらなるユリシーズ

2012-03-28 16:48:06 | 本と雑誌

テキストファイルをみつけた(こちら)、Azonと違うのはコピペ可能ということ、そんなんコピペしてどうするって、柳瀬尚紀の訳がアップされてる(こちら)のでちょっと比較してみようかと(余計なことすなって、ハイ)、第7挿話「アイオロス」と言いたいとこなんだが、元ネタにその文字列はない、みつけるのに苦労したぜ、たまたま大文字(新聞の見出しをパロってるとのこと)で始まってなかったらまずわからんかった、日本語訳は親切だ

IN THE HEART OF THE HIBERNIAN METROPOLIS

Before Nelson's pillar trams slowed, shunted, changed trolley, started for Blackrock, Kingstown and Dalkey, Clonskea, Rathgar and Terenure, Palmerston Park and upper Rathmines, Sandymount Green, Rathmines, Ringsend and Sandymount Tower, Harold's Cross. The hoarse Dublin United Tramway Company's timekeeper bawled them off:

--Rathgar and Terenure!

--Come on, Sandymount Green!

Right and left parallel clanging ringing a doubledecker and a singledeck moved from their railheads, swerved to the down line, glided parallel.

--Start, Palmerston Park!

THE WEARER OF THE CROWN

Under the porch of the general post office shoeblacks called and polished. Parked in North Prince's street His Majesty's vermilion mailcars, bearing on their sides the royal initials, E. R., received loudly flung sacks of letters, postcards, lettercards, parcels, insured and paid, for local, provincial, British and overseas delivery.

愛蘭土首都中心部
 
ネルソン塔の手前から車体が減速 、路線変更、列車の行き先はブラックロック、キングストン・アンド・ダルキー、クロンスキア、ラスガ―・アンド・テレニュール、パームストン公園とアッパー・ラスマイン、サンディマウントグリーン、ラスマイン、リングスエンド・サンディマウントタワー、ハロルド十字路。ダブリン鉄道組合のダミ声タイムキーパーの怒声が響く。
―ラスガー・アンド・テレニュール!
―こっちだ! サンディマウントグリーン!
 
左右並行、ぎしりぎしりとニ両編車と一両編車が終着点から向きを変え、下り線へと身を翻す。平行。

―パームストン公園行きィ、発車ァ!   戴冠者  郵便局の軒先で靴磨きが客を呼び込み、磨き上げる。ノースプリンス通りに朱塗り郵便配送車を停め、車体側面を王室の頭文字E,Rに向けて、ブン投げられた麻袋を受け取っていく、手紙、葉書、封書、小包、確認及び支払済、地方発送、イギリス及び海外発送。

一目見てわかるのは「戴冠者」の前後で改行するのを忘れてること、単純ミスで実際活字になる時には直されるんだろうけど

駅のシーンではラトガー、テレニュール行きとサンディマウント行き、どっちかが二両でどっちかが一両な2つの電車がこの駅ではまだ平行な線路をいっしょに滑り出したと言ってるんだよね、この日本語でわからんことはないけどもうちょっとわかりやすく言えるんじゃないか、「平行。」ってglidedはどこへ行ったんだ?それとringingは「チンチン」じゃないの?柳瀬ってちょっと眼高手低なとこがあるのじゃなろうか(ゴメンナサーーイ)

ちなみに丸谷才一その他訳は以下の通り

ヒベルニア(アイルランドのラテン名)首都の中心で

ネルソン塔の前に来ると、電車は速度をゆるめ、ポイントを切り替え、ポールを移し変えて発車する(地名略)ダブリン合同市電会社の発車係はしゃがれ声で電車を追い立てた(略)
二階立て電車と普通の電車が、右と左に並んで、がたがた車体をゆすり、りんりん鈴を鳴らし、発車場を離れ、ぐいっと回って下り線にはいり、並んで走った
-パーマーストン・パーク、発車

王冠をいただく者

(一部略)手紙や、葉書や、郵便書簡や、書留小包の袋が、どさりどさりと車に投げ込まれる。市内向け、地方行き、イギリス本国行き、海外行きなど

いろいろ確かめにゃいかんことはあるけど一つは絶対言える、丸谷先輩が「日本語になってない」なんて柳瀬後輩に言われるスジアイはないってこと、後輩は損だと思うよ、たぶんね

3/29追記-一番の問題はダブルデッキとシングルデッキ、これはどっちも正しくないのじゃあるまいか、電車のデッキとはつまりは乗降口のことなんだから電車にツードアとワンドアの2種類があったというだけのことじゃないかと愚考する次第(残念ながら電車マニアと連絡がつかないので断定はできない)、また市電はやっぱチンチンとベルを鳴らしてもらいたい、年長世代がリアルで知らないハズはないと思うんだが

さらに追記-レターカードが封書はおかしい、封書はただのレターだろう、郵便書簡=折りたたんで封筒の形にできる便箋(ややっこしいな、日本では航空便以外まず使わないし)が正しいと思う、insured and paidはparcelsにかかって書留小包の意味という解釈もまずは妥当なんじゃあるまいか、ここは先輩の勝ちと判断する(私ごときに判断に意味はないが)

枝葉末節だうでもよいじゃないかって?まーね、だけど一事が万事とはこういう場合にも言えるんじゃないかな?


とりあえずのユリシーズ

2012-03-27 23:54:39 | 本と雑誌

ジョイス『ユリシーズ』全4巻セット (集英社文庫) ジョイス『ユリシーズ』全4巻セット (集英社文庫)
価格:¥ 4,801(税込)
発売日:2012-02-01
日付変わる前にアップしとこう、読み進んで3冊目、キルケに入った、たぶんここが全編のヤマになるんだろね、何かもうシッチャカメッチャカな幻想の連続、前の章から文体練習みたいなとこがあって、たいした内容でもないのにもったいぶってるだけなんじゃないか、こんなん翻訳で読む意味あるんだろか、原文読めたらよいな-と思ったらAzonがロハでおいてて・・・ところがこれ目次がI,II,IIIしかないのである、これじゃ読みたいとこへ跳べないよ、ま、いっか、どうやって読むかヒマになったら考えよ


今日は授賞式

2012-03-25 09:42:08 | 本と雑誌

選考委員(?)として一言挨拶すべきかも(余計かも)
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結論を先に言うならばこの選考は予測したより遙かに楽しかったと思います
純文学と言ってもジャンルは様々、ファンタジーありSFありホラーありスパイアクションあり純愛ありミステリ(?)あり、物語としての完成度はまさに玉石混淆でしたが、それは何でもそうでしょう
xxの95%はカスである=スタージョンの法則(元のxxはSF)
石多ければこそ少ない玉をみつけた時はうれしい、それがわかっただけでも半年間雑誌を買い続けた意義はありました
これほど多様な世界が「買って読む読者」に対してもっともっと開かれることを心から望むものです

そしていちいち名前は挙げませんがこの8ヶ月間に出会った作者、編集者、出版社の皆様、楽しい時間を頂き本当にありがとうございました、改めて厚く御礼申し上げます

最後になりましたが関係者の皆様、お疲れ様です、どうかこれが皆様のお目に留まりますように
1912年3月25日        ヘソマガリな一読者


トーマス・マン

2012-03-23 17:05:23 | 本と雑誌
詐欺師フェーリクス・クルルの告白〈上〉 (光文社古典新訳文庫) 詐欺師フェーリクス・クルルの告白〈上〉 (光文社古典新訳文庫)
価格:¥ 1,100(税込)
発売日:2011-08-10
詐欺師フェーリクス・クルルの告白(下) (光文社古典新訳文庫) 詐欺師フェーリクス・クルルの告白(下) (光文社古典新訳文庫)
価格:¥ 1,100(税込)
発売日:2011-10-12

これまたチラシ買い、マンの新訳を出すならまずもって「ブッデンブローク」だろうという一般常識を裏切って第一弾はこれである(第二弾以後があるかどうかはわからない)、1909年作者34歳の年に書き始められ、「第一部・完」として出版されたのが54年、この時作者は79歳で翌年亡くなってしまった、未完の名作、典型的なオープンエンディングストーリー

主人公はワイン醸造業者の息子としてまずは不自由のない少年期を送った、勉強ギライで学校はサボりまくり、お菓子屋からチョコを万引きすることも何とも思ってない、だが天性の美貌に加えて模倣の才があり、名付け親の画家に可愛がられてコスプレモデルになったり、他にもいろいろなことを教えてもらった(と思われる)、だが18歳の時父が破産して自殺、学校も中退せざるを得なくなる
ここまでが「第一章・幼年時代の巻」、発表されたのは22年、作者47歳

母親は下宿屋を始めてそこそこに繁盛、貧乏な青年は街をさまよって娼婦と付き合い、得意の仮病で徴兵検査をゴマかす
この部分が加わったのは37年、作者は62歳

名付け親の世話でパリのホテルへ潜り込んでエレベーターボーイになった、しばらくはチップだけが頼りの暮らしだったが、ある時金持ちの人妻からアクセサリーを巻き上げ手癖の悪い同僚に故売屋を紹介してもらって売り払う、これでかなりの貯金ができた(こういうのご都合主義って言わないんだろか?ともあれここまで第二章)

ウェイターに出世したある日、主人公は若い貴族と知り合った、女優と恋をしてていっしょになりたいと思ってるが、そんなことしたら勘当マチガイなし、両親は息子を世界一周旅行に送り出して熱を冷まそうと思っている、ここで二人の青年は入れ替わることにした、主人公が一年間の旅に出て貴族はその間主人公の金で(恋人といっしょに)暮らす
まずは海路アルゼンチンへ向かうハズだったのだが、パリからリスボンへ向かう夜行列車でドイツ人の学者と知り合って学問の話に深く感動した上その家族にも歓迎され、あれやこれやとやることができてなかなか船に乗れない、だがニセの息子として貴族の両親に言い訳の手紙を書けば「アンタそんなキャラじゃないでしょう」とは言われるものの全く疑われることはなかった、そんなある時自分が学者の美しい奥さんにどうしようもなく惹かれていると気がついて・・・・

第三章はここで唐突に終わる、この後旅に出たり詐欺で捕まってムショ入りしたり名付け親に危ないところを助けられたり波乱の人生を送ったと最初の方でホノめかしてはいるのだが、それがどういう事情によったのかは全くわからない、というかここまで書いた頃にはたぶん作者にもわからなくなってたと思う、何せ45年である、その間に二度の大きな戦争があってドイツは壊滅的な打撃を受けた、もっとも作者はUSAにいたので直接に戦火を体験してはいないらしい、スミソニアン博物館の展示にとてつもなく大きな感銘を受けたことが古生物学者の講義やリスボン自然博物館の描写に現れている、あれ、19世紀末にそんな展示あったのかなあ、50年分タイムスリップしてないか?

とまあそんなわけでこのお話は未完に終わるしかなかったし、それでよかったのかもね