
伊集院静の第一作の短編集
タイトル作の 三年坂 母親の七回忌の法事の時に叔母から母親の話を
聞かされたすし職人の宮本が亡くなった母を回想し・・過去と現在を自在に
行き来してすし職人の人生をあぶりだしていくのだが、その話の中心となるの
が幼いときの母と出かけた山奥の温泉旅行で、そこで宮本は母親が片腕を
なくしてる男と親しくしてるのを見る・・そのなぞは解けるのだが
母親の存在の大きさを感じる作品。
印象的な作品は、最後の春のうららの
夫とともに料理屋で働いていた女性が、結婚式をまじかに控えた娘を見て
亡くなった夫と初めての旅行を回想する・・新婚旅行もどき?
一泊で熱海方面に行くつもりがいい宿がなく、下田までいって、最終の伊東
行のバスにのり、日帰りで最終の電車で東京に帰ってきたという・・
なんとも時代を感じる物語だった・・
なんとどの作品も哀しみも喜びも必ず風景があり、吹く風が、降る雨が
ひっそりと咲く花とか物語の背景としてある・・
伊集院さんのやさしさを感じる小説集、夏目雅子さんが亡くなって4年後に
出された短編集です。