迷路職人は、一瞬のうちに腕のひらめきを発揮するわけではなく、何通り、何十通り、ときには何百通りもの図案をこしらえて、その中からたった一つの迷路を採り上げる。採り上げた迷路の図面を、更に繰り返し繰り返し朱を入れ、路を削り、壁を破り、それこそ一つの迷路に一年をかけるのである。
迷路の種類も数々あり、一度考案した種類の方式は二度と使わない。同一方式のものを二例残しておくということは、容易く迷路を解く鍵を与えておくことに等しいからで、結局迷路職人の職人たる所以は、どんな迷路にも応用できる万能解読法を誰にも手渡さないことによる。そこには、全てに融通するが如き法則があってはならず、ほとんど生死を賭した戦いと同じで、解かれたらこちらには死しかないし、解かれねばさかしまであるとする思いが常に秘められている。
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