「隊長、この風では無理です」
もの凄い風だった。進もうとしても押し戻される。どんな屈強な脚を持っていても前進を阻まれる。希にみる手強い風が辺り一帯に吹き荒れていた。
「それでも行こう。先が待っている」
賢明なリーダーなら立ち止まるところかもしれない。隊長は足止めを好まなかった。他の隊員も進めるものなら進みたいと思う心は一つだった。
「駄目です。強すぎる!」
想像を絶する風は、今までの敵のレベルとは次元が異なっていた。
歩いても歩いても進まない道がある。未来の風景を開こうとしているのに、時間はまるで止まっているようだ。
「でも楽しいね」
抵抗に逆らって進もうとするのは、楽しいことだった。生の感覚がこの瞬間に研ぎ澄まされている。私たちの冒険とは、そういうものだ。
「下がってる!」
進んでいないどころではなかった。歩くほどに押し戻されていく。この強すぎる風は、足踏みさえも許してくれない。いっそ留まっていた方が未来に近づいていただろう。
隊長の声に従って私たちは望まぬ後退を強いられた。ぐんぐん押し戻されて、過去来た道をたどった。
「強かったな」
無力さを思い知る頃には懐かしい村の中を歩いていた。
前進は失敗した。誰も誰かを責めなかった。
(そういうものだ)
私たちは社会と人の構図を捨てて自然からみる。
自然の中では誰もが小さくなる。大事にみえていたものも、より大きなものの中では霞んでしまう。
悲しいことは悲しくて当然だ。
自然を受け入れることで私たちは軽くなることができる。
「またあんたらかい」
村長があきれたように言った。
「お久しぶりです」
「よほどここが気に入ったようだな」
風がまた一つのお気に入りを作ったようだ。
今夜はここで旅の翼を休めるとしよう。
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