工場長が出かけている間に
どんぶら音頭に乗ってやってきた
桃太郎さんが後釜についた
能力においては皆をねじ伏せるほどで
人々は黙って従う他になかった
・
根本から覆すような
どえらい改革が始まって
諸々の慣習は改められていった
「飲み物は水だけです」
「膝を出してはいけません」
・
「こんにちはは禁止です」
「トングは1つだけです」
「持ち込みは禁止です」
「残ったゴミは持ち帰りなさい」
「頻繁に報告しなさい」
・
「恋人はつくれません」
「歳は偽りなさい」
「物をもらうのは禁止です」
「ノルマだけはこなしなさい」
「人でありたいならロボットであれ」
・
工場長が帰ってきた
どこのどいつだセンターにいるのは?
桃太郎だ?
乗っ取りじゃないかこれは!
人聞きのわるい台詞に偽工場長はハッとした
・
「工場長が帰ってきた!」
「どこからともなく帰ってきたぞ!」
「元の工場が再建されるのだろう!」
「ノルマよりも大事なものが僕らにはあった!」
ひざまずいた桃太郎さんが口を開きます
・
虎視眈々と狙っていました
トップの座をこの手に入れて
もっといい暮らしがしたかったの
のし上がることでしか成し得なかった
人は皆が争うものだというのに何故に私が……
・
心の内を明かしたあとは
どこか魂の抜けたような様子で
桃太郎さんは足早に去っていきました
残された者たちが手にしたものは
非日常のあとの前より少し明るくみえる日常でした