眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

リアルタイム変換

2020-04-10 14:38:00 | ナノノベル
 多くの記者が集まって人見知りのような距離を開けていた。
 何やら重大発表があるようだ。
 僕はヘッドホンをつけて音楽を聴いていた。
 好きな音楽を聴きながら何となくテレビを見ていた。
 テレビの声は聞こえなくても、画面の下に字幕が出る。
 だいたいの内容はそれで把握することができる。
 リアルタイムで。

「ママ、最も私たちが恐れなければならないのは豆腐そのものであります。豆腐それ自体が今まさに私たちが最大限に恐れなければならないものであると思うわけであります。

そこで議員の皆様方におかれましてはですね、おのおのの給与の7割、できれば8割を削減していただき、その上で全く本題がないと思われる散歩に出ていただきたい。多方面から走力を上げて妖精を募り、マスクを個人個人で買い占めていただきたいと思うわけであります。そうした上で街に出て各抽象企業のピザ屋さんに1枚2枚と言わずに放出していただきたい。また、偉大企業におかれましてはまさに畑違いのスケートリンクを用意して、準備して、思い切った検討をしてまいりたい。可能な限りあんみつを食べていただきたい。仮にそこは化けて考えたいお化けであります。

塗り返しになりますけど、まずはしっかりと8つのアツを分けていただきたい。例えば、肉厚なステーキ、厚揚げ専門店、厚切り煙草、厚切りクジラ、厚かましい輩、輩の立ち入りそうなところ。もう行ったところ、あとはもう出てきませんけども、再三に渡っておせっかいしていきたい。

まずは基本的にトップの方々の7割、できれば極力8割をですね、お風呂トークで削減していただきたい。もしも、その文をですね、マスクしていただいてマスクをクリップしていただきたい。そうした琴がですね、傘に議員としての本来の責務を果たすことにつながる。と心より申し上げたい。

また俺についてはですね、まったく塩コショーはかけないわけでありますから、完全に補償なき拡大帽子を求めてまいりたい。子を想うわけであります。ヒロシです」

 AI変換による字幕でざっくりと解釈することができた。

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花猫 

2020-04-10 04:13:00 | リトル・メルヘン
 死んでいた花を拾って家に持ち帰った。花瓶に挿して水をやるが何も変わらなかった。捨てるには惜しくしばらくそのままにしておいた。朝晩水をやることが習慣のようになった。少しずつ花の色が精気を取り戻し始めたような気がした。そう思うともう捨てることはできなくなった。錯覚ではない。月が変わる頃、花は本来の自分の色を取り戻しつつあった。

「おはよう」
 ある朝、花は口を開いた。
「あっ。しゃべれたの?」
「ふふふ。前世は鳥だったのよ」
 花は日に日に元気になっていた。これまでのやり方はすべて間違いではなかった。もっともっと。もっと元気になれ。花は伸びていく自分が誇らしげだった。花は時々窓の外をじっと見ているようだった。
「あそこ。何か懐かしい場所」
 窓の外には葉の落ちた一本の木があった。
 真っ白だった花は突然別の色も見せ始めた。水以外のものも欲しいと花は言った。思いつくままにお茶やジュースをやった。コーヒーをやった時は少し身を引いた。一番喜んだのはミルクをやった時だったように見えた。花はとうとう白と黒の二色に分かれた。
 花瓶を抜け出して部屋のソファーに飛び移った。
「名前をつけないと」
 花は猫になったのだ。

「サキ」
 おやつの時間に名前を呼んでもサキは来なかった。ソファーの下、本棚の上、クローゼットの隙間。サキの姿はどこにも見えなかった。
「サキー」
 バスルームにもサキはいない。暴れた形跡もなかった。まさかと思い開けてみた洗濯機の中に取り忘れたいつかのTシャツがあった。ドンドンと硝子を叩く音。誰かが外にいる。
「ああ。どうやって外に出たの?」
 口の周りが土で汚れていた。冒険を終えてサキはソファーに飛び乗った。隅っこのいつもの定位置に身を縮めるとすぐに眠りに落ちた。今の内に仕事を片づけてしまおう。花だった頃よりもサキは随分と手が掛かる。

「おとなしく待っててね」
 留守番を頼んで鍵をかけた。眠っていてくれればいいが、一度スイッチが入ると大変だ。部屋中が散らかってしまうのは仕方ないとしても、本格的にターゲットになってしまうと根こそぎ食い千切られることになる。心配を置いたまま歩いていると何かが後をついてくる足音がした。どこかで聞いたような……。
 はっとして振り返ると猫は足を止めた。
「サキ?」
 マジックのように抜け出して後を追ってきたのだ。元より普通の猫とは違う。サキは不思議そうな目をしてずっと私の方を見上げていた。行き交う見知らぬ人々。加速をつけて長距離バスが通り過ぎる。大きな犬が通りすぎても、サキは慌てる様子を見せなかった。

「一緒に行くか」
 サキを抱えて街を歩いた。また少し重くなったような気がした。あたたかな鼓動が胸に伝わってきた。本当は興奮しているのかもしれない。待っていてくれればよかったのに。落ち葉を寄せ集めて風が歩道の上で暴れ回っていた。サキは食いつくように視線を落とした。川のせせらぎ。ああ、そうだ。ここなんだ。
「ここでお前を拾ったんだよ」

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