年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

烏 瓜

2012-11-09 | フォトエッセイ&短歌

 秋田の友人宅に世話になった折り「これぞふる里の味ですよ」と『いぶりがっこ』をドンブリ一杯出された事がある。友人は懐かしそうに実に美味そうにバリバリと平らげる。燻製にした大根の漬け物、味も匂いも食感もお世辞にも美味いとは思わなかった。「これぞおふくろの味です」というフキとサトイモとニシンの煮付けも生臭くて完食に苦労した。
 美味いとか不味いとかの味覚は環境によって影響されるのではないかと思う。酸っぱい物が好きだとか、甘い物は嫌いだとか、生まれつきの体質的な好き嫌いは別にしても。
 色彩の好き嫌いもあると思うのだが、これは何によって決定されるのだろうか。色の好き嫌いを別ける遺伝子の作用によるのなのだろうか。烏瓜 (カラスウリ)の朱色が何ともいいネ~と言ったら、同行の御仁が「嫌いな色だ」と言うので驚いた。色にも好き嫌いがあるのだ。
 カラスウリの朱は秋を彩る代表的な色だ。赤と黄色の中間色、一般的には橙色(だいだいいろ)と呼ばれる。涼から冷に移つる季節の風合いを持ち、暖かみの中にもサラリとした爽やかさを感じさせる。車道のガスが充満しているであろう生垣の樹に絡みついたカラスウリの鮮やかな朱が立冬の陽に輝いている。玉梓(たまずさ)とか、狐の枕(きつねのまくら)の俗名もある。
 小学生の頃、このカラスウリの果肉を脚に塗ると足が軽くなって早く走れるという事が云われていて運動会の必需品であった。ふくらはぎに塗ると皮膚が突っ張って如何にも早く走れるような気がしたが、果たしてどうだったのか。カラスウリの種子は、鎮痛・消炎剤として用いるとあるから満更ウソではなかったのかもしれない。食用にもなると言うので食ってみたが、何とも苦くて美味くはなかった。誰も下痢をした様子もなかったから、毒ではなかったようだ。遠い秋の運動会の日の思い出の一つでもある。
 
秋の日を映して揺れる眩しいような橙色の烏瓜。

  枯れツルに危うし下がるカラスウリ秋の日映す朱き輝き

  立冬の弱き陽差しを満身に日溜まりに受く宝石の如く

  瓜実の赤き実なにやら謎めいて狐の枕と古人は呼びし
  
  秋吹けば化粧(けはい)を始める頬紅で赤く染まりて陽の中にある
  
  カラスウリ含めば苦く痺れ来る泉で口を濯ぎて流す