しあはせの弁
なんのゆきちがひか 僕はまだ かうして 生きてゐる。
兄弟四人は、みんな死んでしまったのに。
不摂生もし、ずいぶんからだもむりしたのに、
神にも、仏にもそつぽをむいて、善根をつんだおぼえがないのに。
金まうけも下手だし、そのほかになにかのとり柄があるわけでもなく
人を愛しもせず 人からも愛されず それが長年のなれつこで淋しいともおもはず
生きてゐねばならぬことのやうに 七十年も生きてきた僕。
どんな風のふき廻しかそんな僕に、親切にも協会から寝びえをしないやうにといって、
夏の毛布をおくられたうへ、墓場の世話までやいてくれて
渋面つくった、いやな爺いも、この期に及んで勝手ちがひもいいところだ。
まだそのうへにひとり息子に花嫁がきて これはまた 棚から牡丹餅の
よのしあはせをひとりじめして さづかりものの孫娘がうまれて
この皺づらをしたつて抱かれがたる。
いまだに僕は 信じられない。よその誰かのしあはせを、そつと失敬しているやうで、そはそはとおちつかない。
<感想>
読み始めは、重い詩かなと思ったけれど、後半に入ったらぐんと明るくなって、
最後は「幸せ」がたっぷり伝わり、自分も温かい気持ちになれました。
※「現代名詩選(中)」 伊藤信吉編 新潮文庫より
なんのゆきちがひか 僕はまだ かうして 生きてゐる。
兄弟四人は、みんな死んでしまったのに。
不摂生もし、ずいぶんからだもむりしたのに、
神にも、仏にもそつぽをむいて、善根をつんだおぼえがないのに。
金まうけも下手だし、そのほかになにかのとり柄があるわけでもなく
人を愛しもせず 人からも愛されず それが長年のなれつこで淋しいともおもはず
生きてゐねばならぬことのやうに 七十年も生きてきた僕。
どんな風のふき廻しかそんな僕に、親切にも協会から寝びえをしないやうにといって、
夏の毛布をおくられたうへ、墓場の世話までやいてくれて
渋面つくった、いやな爺いも、この期に及んで勝手ちがひもいいところだ。
まだそのうへにひとり息子に花嫁がきて これはまた 棚から牡丹餅の
よのしあはせをひとりじめして さづかりものの孫娘がうまれて
この皺づらをしたつて抱かれがたる。
いまだに僕は 信じられない。よその誰かのしあはせを、そつと失敬しているやうで、そはそはとおちつかない。
<感想>
読み始めは、重い詩かなと思ったけれど、後半に入ったらぐんと明るくなって、
最後は「幸せ」がたっぷり伝わり、自分も温かい気持ちになれました。
※「現代名詩選(中)」 伊藤信吉編 新潮文庫より
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