イタグレと暮らす戌年男のブログ

 イタリアングレーハウンド(イタグレ)と過ごす中で、家族、趣味、出来事についての感想などを書きたいです。
 

 しあはせの弁(金子光晴:作)

2008-12-29 18:10:17 | 
 しあはせの弁

 なんのゆきちがひか 僕はまだ かうして 生きてゐる。
 兄弟四人は、みんな死んでしまったのに。
 不摂生もし、ずいぶんからだもむりしたのに、
 神にも、仏にもそつぽをむいて、善根をつんだおぼえがないのに。

 金まうけも下手だし、そのほかになにかのとり柄があるわけでもなく
 人を愛しもせず 人からも愛されず それが長年のなれつこで淋しいともおもはず
 生きてゐねばならぬことのやうに 七十年も生きてきた僕。

 どんな風のふき廻しかそんな僕に、親切にも協会から寝びえをしないやうにといって、
 夏の毛布をおくられたうへ、墓場の世話までやいてくれて
 渋面つくった、いやな爺いも、この期に及んで勝手ちがひもいいところだ。

 まだそのうへにひとり息子に花嫁がきて これはまた 棚から牡丹餅の
 よのしあはせをひとりじめして さづかりものの孫娘がうまれて
 この皺づらをしたつて抱かれがたる。
 いまだに僕は 信じられない。よその誰かのしあはせを、そつと失敬しているやうで、そはそはとおちつかない。



<感想>
 読み始めは、重い詩かなと思ったけれど、後半に入ったらぐんと明るくなって、
 最後は「幸せ」がたっぷり伝わり、自分も温かい気持ちになれました。

 ※「現代名詩選(中)」 伊藤信吉編 新潮文庫より  


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