ヒュースタ日誌

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コラム再録(1)『トンネルを歩き通すために』

2012年10月03日 13時50分41秒 | メルマガ再録
 もうひとつのメルマガ『青少年支援ガイド』41号のコラム「当方見聞読」欄に書いたとおり、去年12月23~24日「第3回民間教育学会」が開催され、初日のシンポジウムで、愛知県の「NPO法人アイ・メンタルスクール」代表理事の杉浦昌子氏が実践報告を行いました。

 氏は、去る2月15日に放送された『緊急大激論SP2006!“子どもたちが危ない”こんな日本に誰がした!? 全国民に“喝”!!』というテレビ番組に出演し「心をなくした子どもたち」というコーナーでは、活動の様子がVTRで流れました。ちょうど1ヶ月前ですので、ご覧になった方は覚えていらっしゃると思います。

 氏は、姉の長田百合子氏と同様ひきこもっている青少年を連れ出して入寮させ、生活に始まり学校復帰や就労への支援を行っています。

 実践報告によると、就労支援では、地元のファミリーレストランや静岡の工場との提携をはじめとする職場開拓、アルバイトしている若者がミスしたときのフォロー、など丁寧な支援を行っているようでした。

 家庭訪問や親子への指導では「親子を責めない」「ときには寮を見学してもらって、お互い納得の上で連れ出す」「寮での生活を日報にまとめて家庭に送っている」など、姉との理念・手法の違いを示しながらも「対象としているのは近所で迷惑をかけている(荒れている)子どもたちであり、警察の協力を得て訪問することが珍しくない」と、その苦労
を語っていました。

 フリーディスカッションの時間に私は「警察の協力を得なければ訪問できない原因が<訪問の仕方>にあると判断したケースは1件もないのか」と質問しましたが、氏は「段階を踏んで慎重に進めている」と、訪問実践に落ち度のないことを強調しました。

 この姉妹のように、不登校児やひきこもり青年を積極的に説得して、あるいは強引かつ乱暴に、連れ出して入寮させる実践者は、不登校児やひきこもり青年を「人生の歩みを止めた人たち」「自分で動き出す力を失っている人たち」と見ているのではないかと、私には思えます。

 私は、不登校児やひきこもり青年をそのようには見ていません。むしろ逆に「人生の歩みを続けている人たち」「その歩みが自分で動き出す力へとつながる人たち」と見ています。

 ただし彼らの多くは、自分で歩んでいる道を“見通しのよい明るい道”ではなく、“出口の見えない暗いトンネルの中”だと感じていることでしょう。

 出口の見えない暗いトンネルを歩いている姿を想像してみてください。先の見通しが立たない不安におびえながら、ソロリソロリと少しずつ歩いている場面が、目に浮かぶと思います。

 そんな彼らに対して、親御さんや学校の先生や関係者がするべきことは何でしょうか。マスコミがしばしば取り上げ称賛するように“熱血家庭訪問”によって連れ出し入寮させることは、よい解決方法なのでしょうか。

 私の表現では、家庭訪問して連れ出すというのは、外からトンネルの途中に穴を開けて、外の世界に引っ張り出すようなものです。つまり、彼らが手探りで歩むことをやめさせ、手取り足取り指導して、通常の道を歩くことができる心身をつくる、ということです。

 彼らは、そのような支援を望んでいるのでしょうか。

 私自身の不登校とひきこもりの体験は、まさに「トンネルを踏破した(歩き通した)体験」でした。苦しみ抜いた末にトンネルを抜けたとき、目の前に広がっていた光景は、トンネルの途中で穴から連れ出される地点からは、決して見ることのできないものでした(64号参照)。

 さらに、現在不登校やひきこもりの相談を受け<連れ出す目的ではない家庭訪問>を含む支援活動を行っていて、だんだん「かつての私と同様彼らの多くも、自分の足でトンネルを踏破するつもりで歩いている」と認識せざるを得なくなってきたのです。

 つまり彼らが望んでいるのは、トンネルの途中で引っ張り出してもらうことではなく、トンネルを歩いている自分を応援し、踏破する(出口まで歩き通す)エネルギーを補給してくれる、そんな支援なのではないでしょうか。

 このような支援を私は、45号で“後方支援”と表現し、次のように説明しています。

 「歩いている本人の前に出て誘導するのではなく、本人の斜め後ろを本人と同じペースで歩き、本人が歩き疲れて後ろに倒れそうになったら頭を打たないよう支えたり、本人の靴がボロボロになったら取り替えたりする、というイメージ」

 もちろん、不登校児やひきこもり青年のすべてがそう望んでいる、と盲信しているわけではありません。本人のタイプや状態、また支援に対する本人のニーズは人それぞれです。その鑑別は常に心がけていますが、それでもなお「トンネルの途中で引っ張り出してもらう」支援を望んでいて、かつそれに向いていると思われる青少年は、これまでに受けた相談にかぎって言えば、ほとんどいなかったのです。

 もちろん「家庭訪問→入寮指導」というシステムを実践している団体はいくつもありますから、それらをひとくくりにして否定することはできません。「このシステムに救われた」と認識している青少年も少なくないでしょう。

 ただ、私は個人的にこう思っているだけです。「不登校やひきこもりの時代に、家庭訪問して連れ出そうとする支援者に出会わなくてよかった」と--。

 2006.03.15 [No.118]


文中で引用した45号を読む

文中で引用した64号を読む

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