よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

「大学」×「技術」×「BOP」- 日本発、世界を変えるイノベーション

2010年03月21日 | 技術経営MOT
上記のシンポジウムに参加してきました。

主催者やスピーカーではなく、聴衆の一人として参加するシンポはその楽しみ方として最も贅沢なものです。六本木の政策研究大学院大学の会場を見渡すと、先月国際的社会起業サポートセンターが協賛して行ったEveryone a Changemaker―世界を変える社会イノベーション―シンポで見かけたお顔がチラホラと。

やはりこういうシンポに出てくる面々は特殊な意識の高さを共有しているのでしょうか。MITのD-Labメンバーを呼んでの適正技術が主たるテーマ。Technologyをテコにしたentrepreneurshipは、全米の著名大学院では注目テーマですが、MITのD-Labは、Appropriate Technology(適正技術)コンセプトを全面に持ってきています。進んでますね。

イノベーション・マネジメントの視点から見ても、Appropriate Technology(適正技術)は重要なものです。日本では、どちらからというと営利企業の競争戦略や産学官連携という視点や経済政策面では成長エンジンという視点が中心です。しかし、Base of Pyramidという視点を加えれば、Appropriate Technology(適正技術)がイノベーション・マネジメントの地平に浮上してきます。

新しく設立されたD-Lab Japanにも期待大ですね。

先進国で成熟し陳腐化した技術でも、途上国へもってゆけば格安に普及することができ、持続的な効果を維持し、結果として当地の社会にインパクトをもたらすシステミックなイノベーションの実現になる。

あるいは日本の携帯電話のように、いくらサプライサイドの事業者が、先端的な技術を詰め込んでサービス・イノベーションのプロポジションを提案しても、需要と供給側双方が飽和状態になっていれば、ユーザからはイノベーションであるとなかなか認知されません。

そして、日本的な特殊な均衡点を求めるあまり、世界レベルが要求する均衡点からはハズれてしまい、ソリューションとしては通用しなくなっています。俗に言うガラパゴス現象です。

ここで誰しもがいだく仮説は次のようなものでしょう。つまり、

<仮説:ガラパゴス現象ゲームの中で技術を開発、市場化するエネルギーをBOPに適応すればはるかに大きな社会的インパクトを効果的に実現できる>

このあたりを実際のpractitionerの実例を織り込みながら、シンポは進んでいきました。
さて上記仮説についてはいくつかのポジションがあるのでしょう。(1)そんな仮説いらない、(2)仮説が実証されれば取り組んでみたい、(3)仮説を自らの行動で実証したい。

たぶん(3)のようなスタンスの方々が多かったと思います。

さて、MOT、イノベーション、社会起業に関与している自分としてはドンピシャなテーマ。かいつまんで書いてみると:

・日本には、途上国にとっての適正技術を多数保有している。
・しかしながら、多くのエンジニアは内向き志向で、外に目が向いていない。
・向いたとしても欧米の先進国発の先端技術が中心。(もっとも対欧米留学生は減少しており、最近では欧米にさえ出てゆこうとしない・・・)
・理工系学生は優秀層ほど大企業志向で、アントレプレナー志向は薄弱。
・まして社会イノベーションやBOPに対する関心も高いとは言えない。
・こうして長期雇用と年功序列を基調とする大企業型人的資源になってゆく。(不況のさなか、このようなキャリアが光雲効果を持ち始めてもいる)
・結果として適正技術の途上国向け活用においてもビハインド気味。
・日本の医学、工学、MOT、MBA教育でも、このあたりの視点がスポッと抜けている。

たぶん、このあたりのフラストレーションはこのシンポのプロモーターの黒川清さんも強くお感じになっていることでしょう。

面白いのは、このシンポのオーガナイザー、スタッフの方々は、東海岸のIvy+αあたり(Stanford, MIT..)の大学院に休職して留学中であったり、昼間はマッキンゼーなど外資系コンサルティング・ファームの仕事をやっている方々が多いということです。優秀(IQ+EQ的に)なんだけど、日本社会が暗黙的に提供するキャリアパスを拒絶した方々なんですね。共感します。


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気がついたところだけTwitterからコピペしてメモしておきます。

・同じテクノロジーを届けるなら、すでに満たされた生活を送っている人にではなく、初めてテクノロジーに触れる人に届けよう(陸翔さん

・Appropriate Technology ( I know what you need)→ Participatory Design (Tell us about why you want) →Co-creation (Let's design together) Gomezさん

・Project-based Learningの成果:Reflection(内省)=Deepening (深化)X Expansion(拡張)(本郷さん@ICU)

・灌漑システム。利益⇔公益、先端技術⇔適性技術の対置。MOTは先端技術に取り組むことを金科玉条としがちだが、なにが社会にとって適正なのかという視点はクリティカルだと思う。(金平直人さん)

・http://www.gaiainitiative.org/の藤田周子さんのランタンの話、面白かった。ソーラーランタンと充電ステーション。Appropriate technologyのわかりやすい事例。(藤田周子さん)

・サービス・ラーニングについて(本郷さん@ICU) 無償ボランティアのことを「サービス」といっていたが、この語法は間違い。無償ボランティア・ラーニングと言うべきだろう。ただし、面白い試みだと思う。

・先端的なロボット研究に熱中していたが、親友が病気のため義足をつけるようになり、多くの人々のためになるような仕事に取り組みたくなった(遠藤謙さん)

・先端的ロボットの価値はすごい。でも適正技術を用いれば先端的ロボット以上の社会的インパクトが出せるんだ。(遠藤謙さん)

・Appropriate Technology コンセプトで運営されている世界最大の義足コミュニティー@インドhttp://www.jaipurfoot.org/(遠藤謙さん)



日本ポリグルの小田兼利さんが、汚水浄化を実演。汚水浄化の適正技術をバングラデッシュで展開中です。



締めは黒川節、炸裂ですね。

・学生もサラリーマンも1年間くらい世界を放浪すべきだ。そうすれば日本のことも客観視できるようになる。日本は異常な世界なのですよ。(黒川清さん)

・所属欲求のみで大企業でぬくぬくやってきた人達にはイノベーションは起こせませんよ(黒川清さん)

・DESIGN is an agent of change that enables us to understand and tackle COMPLEX problems and turn into something USEFUL.(黒川清さん)

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・・・ということで大変inspirationを得たシンポでした。最後の方でどなたかが言ってましたが、意識から行動へ!ということですね。