よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

東大病院でのフィールドサーベイ

2009年09月18日 | 技術経営MOT


フランス出身の医療イノベーション研究者でトライアスリートでもあるJeromeと連れだって東大病院の検査部門へフィールドサーベイにでかけた。以下メモ。

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豚フルのパンデミック化で騒がしい昨今だが、今回のテーマは、医療サービスのイノベーションと技術経営の場としての高機能大学病院。

まずは、放射線部の井野副放射線技師長とともに。雨アラレの質問によどみなくお答え頂き、ときには熱い議論。刺激に充ち溢れた3時間。

医療サービスのイノベーションは日進月歩。大学病院にはプロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、そしてサービス・イノベーションが凝縮されている。

たとえばプロダクト・イノベーション。東芝メディカルのAquilion ONEは160mmのcoverageを持つ320列面検出器Area Detectorを実装し、一臓器を1回転で瞬時に撮影することができる。体軸方向に160mmの幅を持つAquilion ONE™では、寝台移動を伴わずに心臓や脳のスキャンが可能となった。

プロダクト・イノベーションの導入は、臨床現場にサービス・イノベーションをもたらす。たとえば、医師の診断に役立てるために、得られた膨大な画像データを集約して医師にデリバーするソフトウェアは東大病院が自前で開発した。これは、医師の診断をサポートする画像データに付加価値をつけるサービス。

スピーディーな画像処理にともない、ワークフローのボトルネックは患者さんの待ち時間と医師が診断を下すまでの時間となった。増員ができない状況でいかにこれらのボトルネックに対応するかが課題となっている。

新技術の導入で20名のスタッフはMRI、法射線CTスキャナ、アンギオなどマルチタスク対応になった。イノベーションに対応するためには、強烈なストレスに対応することが検査部門に求められる。ネガティブな面もあり、実行レイヤーとしての人的資源はストレスに曝されることにもなる。



臨床検査部門の鹿糠さんとともに。

産学連携が盛んで、検査機器や試薬メーカーが機材を提供しコラボレーションしている。Point of Careなど、臨床検査サービスにも多様なイノベーションが創発している。免疫検査などテクニカルな領域での進展も凄まじいものがある。



高機能病院は臨床に加え、研究、教育の重い役割を背負っている。と同時に、イノベーションを医療機器や薬剤メーカーなどとともにco-createしたり共進化させたり、創発させる場であり、イノベーションを伝搬させてゆく場でもある。

Jim Spohrerの言を借りれば:

★Science is a way to produce knowledge. 
科学とは知を創る方法。

→病院では医学、看護学、臨床検査学、リハビリテーション学、栄養学など諸学の知が創造される。

★★Technology is a way to apply knowledge and create new value.
技術とは、科学知を応用して新しい価値を生み出す方法。

→医療の現場は技術の集積によって立つ。病院経営とはつまるところ技術経営なのだ。

★★★Business model is a way to apply knowledge and capture value.
病院のビジネスモデルは科学知を応用して価値を獲得する場。

→価格が政府によって決定されるので医療マーケットは規制市場。また原則、病院トップは医師。株式会社ではないので、エクイティ・ファイナンスができない。その特殊な市場のなかで病院はビジネスモデルを作らねばならない。

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イノベーション生態の視点で病院を眺めてみると、いろいろ見えてくる。日本は先進各国と比べてCTスキャナやMRIの普及率が非常(異常)に高い。地域コミュニティでの病病連携、病診連携をかませたうえでのデータ共有化、共同利用の余地は高い。

来る医療改革では、高機能病院の新たなポジショニングとして、イノベーション創発プラス伝搬の場としての役割を位置付けてゆくべきだろう。