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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

紙の辞書も必要ですか?(2013年版)

2014年03月27日 | 渋川の本屋「正林堂」
(これは、昨年書いた記事です。
入学シーズンになり、年々状況が変わるのでまた新しい視点で書かなければなりません)
 
 
今年のお店の学習参考書コーナーは、紙の辞書だけではなく電子辞書の出足も悪く、束ノートも勢いがまったくありません。
入学式以降に出遅れた分が動き出すことを願うばかりです。

そんな日が続くなか、久しぶりに辞典コーナーの前でじっくり商品を選んでいる母子に出会いました。
電子辞書を買っていただいたお客さんなのですが、何か紙の辞書の前で迷っているらく、しきりに店の人に聞いてみたらと
お母さんが娘を促しているような感じが伝わってくる。
(そんな時、すぐには声をかけず、娘さん自身が自分で聞きだすかどうか一呼吸置いてからこちらから声をかける。試験の答えを書けることよりも、問題にぶつかった時に自分で回りに聞けるかどうかこそが社会に出て大事なことだから)
その流れはどうだったかは、わからないけれど、何かを聞きたい様子ははっきり見えたので、レジから声をかけてみました。

するとどうやら電子辞書の他に、紙の辞書も買うべきかどうか迷っていたらしい。
そのお客さんとのやり取り、自分で話しながら昨年までの自分の説明の仕方とはだいぶ違ってきていることに気づいたので、ここにあらためて振り返ってみます。

まず、電子辞書の他に紙の辞書も買ったほうがよいのですか?という問いに対して、
昨年までなら、まだ「迷うくらいならば」紙の辞書も持っていたほうが良いと答えていました。

ところが、どうも昨年あたりから学校で紙の推薦辞書のリストも出さないところも出だしてきました。
進学校であれば電子辞書とともに、紙の辞書を買うのならお勧めはこれだとリストを出していたものですが、
次第にそれもなくなってきています。

先生方の間で、電子辞書に対しては未だに賛否両論ありますが、大勢は進学校ほど電子辞書の利便性を誰もが否定できない実態にあります。でも紙のページをめくってこそ、とか一部の試験には電子辞書持込は禁止でも紙の辞書なら持込可などといった例がまだあるので、紙の辞書も使い慣れておくべくだとかの理由もいくつかありました。

そのような説明で、電子辞書を使うけど、保険のように紙の辞書も買っておこうという流れが、昨年まではまだありました。

その時、電子辞書にはジーニアス英和が入っているので、どうせ紙の辞書を使うのなら別の辞書を持っていたほうが良いと、
ウィズダム英和やアドバンストフェイバリット英和などを薦めたりしていました。
でも、あまりにもジーニアス英和辞典の市場シェアが高いので、現実に他の英和辞典を使うのはかなり勇気のいることです。
以前、いろいろ迷ってある辞書を購入したのに、みんなが持っているものと違うというだけで不安になって交換に来たお客さんもいました。ちょっと残念でしたが、商品を選ぶ理由は様々なのでそれも仕方がないことです。
 ただ、日本中の商品市場がそんな流れに支配されてしまっているのは、とても寂しいものです。

 それは、必ずしも多数派に流れてしまう心理が悪いのではなく、多数の選ぶもの以上に自分の選択したものに魅力を感じられないこと、マイナーな市場側の売り手が、メジャー商品に対抗できる独自の魅力を伝えられないことにあるのでしょう。
 
 基礎の勉強をしっかりやるのならばベネッセの『Eゲイト英和辞典』や『全訳古語辞典』などは、とても良い辞典です。

総じて商品を選択する具体的な理由が、売る側、買う側双方に不足していることが多いのです。

そこで当店ではいつも、もし迷っているのならばこれがお勧めですと、たくさんあるリストの中から
その学校で進学を考えるのならばコレ。進学を予定していないのならばコレと
学校の推薦リストのなかからあえてお薦めを1点絞って表示していました。

昨年までであれば、それでそこそこの紙の辞書が電子辞書とともに売れていたのです。

ところが!
今年は紙の辞書コーナーは、ほとんど見向きもされないというのが実態なのです。
念のための保険代わりに紙の辞書も買っておこうといった昨年までの1割くらいのお客さんが、今年はほとんど現れないのです。

紙の辞書のお客さんがほとんど来ないので、もう迷うこともないのですが、それだけに
もしお客さんから「紙の辞書も必要ですか?」と聞かれたならば、どう答えるか、
かえって今まで以上に大事な問題になっています。

現実には、どんなに紙の辞書に独自の優れた面があっても、担当の先生がその魅力や活用法を伝える機会がなければ、
せっかく紙の辞書を買っても宝の持ち腐れになることは明らかであるからです。

そこで私は、今年からこう答えることにしました。

「紙の辞書もあったほうが良いけれど、それは教科の先生が決まってから買っても遅くはありません」と。

ある高校には、『新明解国語辞典』(三省堂)の大ファンの先生がいて、その先生が一言いうと生徒たちがどっとお店に『新明解国語辞典』を買いに来ることがあります。
たしかに読んでも面白い個性派の『新明解国語辞典』は、すばらしい辞典ですが、おそらく、その先生との出会いがなければ、買っただけでその魅力に気づくことはなかなかないものと思います。

他方、別の高校のある素晴らしい先生は、生徒たちが出来るだけ違う辞典を持っていたほうが授業は面白くなる、と言っていました。

つまり、先生方の魅力的な授業プランがあってこそ、それぞれの辞典は活きてくるのです。
そうした個々の授業プラン抜きに、電子辞書の他に紙の辞書も持っていた方が良いですよとは無条件には言えない時代になりました。

電子辞書と紙の辞書、どちらが良いかの問いに、現実はもう圧倒的に受験勉強を考えるならば電子辞書の方が便利と結論を出していますが、世間はそうでも、紙の辞書の方がこんなに優れていると頑固に魅力を伝える先生もあってしかるべきです。

みんなが使っているから、だけではなく、ほんとのところはどれが良いのか、おおいに悩んで選択して欲しいものです。
そのためのお手伝いが出来るように私たちももっと勉強しなければなりません。

ひと昔前と違って市場に出回っているもので、この辞典ではダメだなどというレベルのものはほとんどありません。
それだけに買うからには、より納得して満足できるものを自信を持って買ってもらいたいものです。

絵がきれいだから、文字が見やすいから、信頼できる先輩が薦めていたから、などなど。
どれも選ぶための立派な理由です。

「どれがいいかわからない」
まさに、その「わからない」こそが、学ぶことの肝心な第一歩であることを忘れないでいただきたいものです。

そのためのお手伝いが出来るかどうかこそが、景気の良し悪しに文句を言うよりも大事な本屋の仕事だということを肝に銘じなければなりません。

 
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