英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

北朝鮮はトロイの木馬を韓国に送ったのか   文在寅氏の現実無視の理想は思ってもみない災難をもたらす

2018年02月11日 21時43分10秒 | 日本の安全保障
  平昌五輪の開会式に合わせて訪韓した北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長と金正恩・朝鮮労働党委員長の妹、金与正・党中央委員会第1副部長ら北朝鮮の高級代表団は11日夜、文在寅(ムン・ジェイン)大統領ら韓国政府の3日間にわたる大歓待の後、北朝鮮に帰国した。北朝鮮の最高権力者の妹で実質的にナンバー2の金与正氏が、金正恩氏からの親書を文氏に渡し、北朝鮮に招待した。これに対して、文氏は即答は避けたが、前向きに検討すると述べた。
  マイク・ペンス米副大統領はレセプションや開会式で、北朝鮮代表団と言葉を交わすのを避け、韓国と北朝鮮の選手たちが統一旗を掲げて「コリア」として合同入場した際、ペンス氏は座ったままだった。冬季五輪を機に北朝鮮が融和姿勢を重ねて示していることについて、米トランプ政権は強い警戒感を示している。
  金与正氏が韓国大統領に渡した兄の親書は”トロイの木馬”なのか。”トロイの木馬”はトロイ戦争で、ギリシアのオデュッセウスがトロイ攻略に用いた計略。オデュッセウスは巨大な木馬を作らせてその中にギリシア兵を隠し、トロイ市内に運び込ませた。この際、トロイ王女カサンドラは予言によりこれが罠であると忠告したが、市民は誰も聞き入れなかった。深夜になりトロイ市民が寝静まった頃合いを見計らって木馬からギリシア兵が抜け出してトロイを占領。これによりギリシアは勝利し、トロイは滅亡した。
  韓国の文大統領は南北融和が米朝融和につながり、それが朝鮮半島の平和へと進んでいくと信じ切っているようだ。米国は金正恩氏の計略を疑い、文大統領に日米韓の結束と北朝鮮への圧力を訴えている。
  私は思う。国連による経済制裁が北朝鮮に相当効いている。金正恩委員長は韓国の文大統領の平壌訪問を実現することで韓国を取り込み、経済制裁を骨抜きにしようとしている。北朝鮮の美女応援団や三池淵管弦楽団を海陸からそれぞれ韓国に向かわせ、制裁の封鎖網に風穴を開けようとしている。
  文大統領の本音は北朝鮮訪問だ。日本の安倍晋三首相が米韓軍事演習を中止すべきではないと進言したとき、「内政干渉」だと反発したという。このことから推察すれば、この実現のために米韓合同軍事演習を中止する努力をするだろう。もし文大統領が米国の反対を押し切って軍事演習を延期か中止すれば、米韓同盟は危機的な状況に陥る。
  金正恩氏が米韓軍事同盟を葬り去れば、いよいよ彼自身の戦略を実施に移すだろう。つまり、米軍の朝鮮半島からの撤退を、韓国大統領に要求する。文大統領と韓国民がどう出るのか。ここが韓国の運命の岐路になるに違いない。文大統領が朝鮮半島の統一を夢見て、米軍の撤退を促せば、米軍は必ず撤退するだろう。このとき、韓国は完全に北朝鮮に取り込まれる。北朝鮮に手を焼いている中国も内心はほくそ笑むだろう。北朝鮮は全軍で韓国を攻撃。韓国の軍備は北朝鮮より勝っているとは言え、北朝鮮は中短核ミサイルで韓国国民を威嚇するにちがいない。それでも自由のために韓国国民は戦争するだろうか?
北朝鮮の核攻撃のさられたとき、米国は韓国を支援するだろうか。米国民はいったん「裏切った」と思う国民には頑ななまでに支援しない。
欧州から移民してきた白人米国人の国民性は、土地争奪をめぐる先住民のインディアンとの戦いの中で形作られてきた。私は、1944年に書かれたD.W.ブローガンの著書「The American Character(アメリカの国民性)」を読んで、そう思う。
旧日本海軍の山本五十六元帥は米国の国力を知り尽くしてはいたが、米国人の国民性までは理解していなかった。 真珠湾で米国に強烈な一撃を加えれば、米国人が交渉のテーブルにつくと読んだ。米国に大打撃を与えて、なんとか和平に持ち込もうとしようと考えた。しかし、米国人は「真珠湾を忘れるな」と叫び、日本の無条件降伏まで戦いの手を緩めなかった。
  米国の歴史学者ブローガンこう述べる。「いったんことを起こしたら、いったん決裂したら米国人は妥協しない。目標達成までとことんそれを追求する」。それはインディアンとの戦いで会得した。「欧州での戦術はアメリカ大陸では通用しなかった(和平や妥協)。インディアンが勝つか、植民地者が勝つかのどちらかしかなかった。勝利か滅亡か。、和平はなかった」
  金正恩氏は現在、”金王朝”体制を護ることに必死だ。これが最大の国家目標だ。核もミサイルも、このためにつくっている。米国本土に届く核搭載ミサイル発射の成功は間近に迫っている。この完全成功の直前に、米国は北朝鮮に限定攻撃を仕掛けてくるのか。日韓両政府を無視して米国が単独で実施するか。
米国はジレンマに陥りだろう。しかし、米国の建国以来培ってきた国民性から判断するれば、トランプ大統領と米国人は北朝鮮に限定攻撃をするだろう。核攻撃をしないまでも、核施設を破壊するだろう。
  平昌五輪に合わせて訪韓した北朝鮮訪問団に対する韓国国民のうち訪問賛成派は「訪問は統一を促進する」と歓迎するが、「統一」とは「赤化統一」なのか。それを望んでいるのだろうか。「赤化統一」という言葉が嫌いなら「自由と民主主義のない世襲独裁北朝鮮への統一を望んでいるのか。北朝鮮との融和を望んでいる韓国人の誰一人として北朝鮮による独裁統一を欲してはいないと思う。ただ民族統一という閃光により未来が見通せないだけである。
  大衆は、チャーチルが生前述べていたように、目の前の出来事に敏感で、遠い未来を見つめない。目の前の美辞麗句や感性上よいと思うことに賛成し、その背後にある相手の真意を見抜かない。目の前のことに酔う傾向が強い。そして、今日、チャーチルのような政治家がいない。大衆に未来を指し示し、彼らの誤りを指摘し、説得できない。大衆に迎合するポピュリスト政治家が大半を占める。
  歴史は皮肉である。歴史を振り返れば、理想の旗を高く掲げ、現実を顧みない理想主義者が、自ら抱く理想を実現した事実はない。フランス革命の理想は、ロベスピエールの独裁を生み、ナポレオンの軍事独裁を生んだ。ソ連社会主義革命はスターリンの独裁を生んだ。時の流れを無視した理想や、急激な改革は激しい反動を生む。
 金正恩氏が自由と民主主義を受け入れ、金王朝を閉じさせてまでして、韓国主導の統一を認めるなどと思うなら、幻想以外の何物でもない。自由と民主主義に基づく南北統一は現在、夢以外の何ものでもない。もし民族を優先し、それに基づく統一を韓国民が認めるのなら、彼らの未来は暗い。北朝鮮の金王朝に奉仕する社会の中で、後悔の念にさいなまれ、圧政の中で呻吟するだろう。
 厳しい現状を認識し、平和をいかに護るかを考えることが、破滅的な戦争を回避する唯一の方法だと思う。経済圧力を強めながら金正恩委員長に、自らの体制を維持する唯一の方法は非核化だと説得し続けることが必要だ。