英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

朝日新聞の「慰安婦問題特集」に思う    歴史に虚心坦懐に向き合うこと

2014年08月07日 09時43分45秒 | 時事問題と歴史
 猛暑の毎日。間もなく旧盆。都心はガラガラになり、新幹線や国内のエアターミナルは帰省客で混雑するだろう。朝日新聞は8月5日、6日に慰安婦問題の特集記事を組み、あらためてこれを検証した。日本国民は朝日新聞をリベラルな新聞だと考えている。産経新聞や読売新聞を保守、右だと考えている。筆者の認識も同じだ。この意味で「慰安婦問題」に関してリベラルと保守派新聞はこの20年間、「相手の目」で検証せず、「自分の目」だけから論争に終始した観を否めない。これを中国や韓国が政治、外交に利用してきた。
 まず朝日新聞が自己検証したことを評価したい。「遅ればせながら」と識者や他紙が述べている。わたしもそう思うが、そんなことは大した話ではない。なによりも朝日新聞が歴史と真面目に対話したことを評価したい。
 この問題は、朝日新聞が80年代から90年代に取り上げた「済州島で連行」証言が発端だった。といより、この証言が国際的に認知された決定打だった。朝日新聞は吉田証言を虚偽と判断した。新聞記者が裏を取って記事にしたとしても、時が変化し、裏をとった記事が真実ではないことがある。記者は事実を追い求め、結果としてうその記事を書いた。責められない。
 8月5日付朝日新聞記事に現代史家の秦郁彦氏の寄稿が掲載された。このコメントは多くの点で納得がいく。慰安婦問題は(1)官憲による組織的、暴力的な強制連行だったのか(2)慰安所における慰安婦らの生活が「性奴隷」と呼べるほど悲惨だったのかーという2点に絞れる、と秦氏は述べる。私は慰安婦問題はかなりの史料を読み込んでもなかなか結論が出ないと思う。慰安婦だった女性も年々少なくなり、日本軍の機密資料の多くも終戦直前、戦争責任に絡む証拠を隠滅するため破棄された。
 わたしはこの問題を軽々に論じたくない。ほんとうに事実を解明するには複雑で困難な過程を踏まなければならないからだ。とほうもない歳月が必要だし、一人の力では解明できないと思う。何よりも外交的、政治的な思惑を排して、歴史に基づく客観的な考察、なによりも、何度もこのブログで申し上げてきたが、「ディタッチメント」な心構えで歴史に対峙すべきだ。そしてどこまでも客観的な事実に迫ること。出された結論を皆が共有して未来につなげることだ。未来への教訓とすることだ。これがわれわれの使命である。
  秦氏は「強制連行を根拠づける唯一の証言だった吉田証言を否定しながら、中国やインドネシアで戦犯裁判にかかった命令違反や個人犯罪の数例を引いたり、慰安所での『強制』や『軍の関与』を強調したりして、『朝日新聞の問題意識は、今も変わっていない』と曖昧に逃げてしまったのは惜しまれる」と記す。また韓国軍のベトナム戦争などでの韓国軍慰安婦問題を取り上げ、「自分のことは棚に上げ、他を責めるのは国際情報戦の定石とはいえ、日本も反撃姿勢に転じればよいのではないか」と結んでいる。
 「軍の関与」の定義は難しい。たとえ軍人個人が強制連行にかかわったとしても、それが「軍の関与」なのかどうかは解釈者の考え次第。「組織的」は参謀本部の命令が「組織的」なのか、それとも「部隊」単位の行為が組織的なのか、これもいろいろな定義が出てくるだろう。
 ただ個人的に言えば、参謀本部が命令を出すなど、明らかな形で慰安婦を集めたとは思えない。その証拠史料も戦後70年経っても出てきていない。それほど日本の参謀本部は暇だったのか、と筆者は思う。ただ日本人の国民性から末端の軍組織(例えば中隊や複数の個人)が慰安婦業者とグルになってしたとしても、合点がいく。「横並び意識」「独立心のなさ」からくる「いじめ」と同じ心理だ。特に日本だけでなく韓国もそうだが軍と言う閉鎖的な組織では「いじめ」は起こりやすい。「いじめ」られたくないから直属上官の命令に従って慰安婦を連れてくる。もしそうならこれが「組織的」なのかもまた定義が難しい。
 私は強制連行された「慰安婦」は存在したと思う。虚偽を述べている慰安婦もいるだろうが、真実を語り、自らの意志に反して「強制連行」された慰安婦もいただろう。誰に「強制連行」されたのか?この点を解明するのも難しい。それは強制連行された慰安婦の方々でさえ事実が明確に分かってはいまい。
 この問題は年月が経つほど、ますます事実を解明するのが難しくなる。その上、歴史をもてあそび、政治や外交に利用する政治家が後を絶たない。韓国も中国も、「南京虐殺事件」にしてもそうだが、権謀術数的な外交の道具にしている。米国に慰安婦の銅像を建てるのなら、その金をこの問題の歴史研究にあててほしい。関係諸国の歴史家が、「ディタッチメント」な心で史実を探求してほしい。関係国は自国の歴史家に圧力を加えて、自国の外交のバーゲニングチップにだけはしてほしくないものだ。これをしているうちは、真の解決も、日中韓の真の友好もないだろう。
 中韓国民はこの問題の複雑さを理解すべきだ。中韓の国民の感情的な姿勢に怒り心頭な日本人も頭を冷やして、彼らを粘り強く説得し、研究のテーブルに連れて行くことだ。この問題を解決するキイワードは「ディタッチメント」な態度と姿勢であろう。
 そしてもうひとつ。韓国国民が旧日本軍の「慰安婦」問題を追及するのなら、それと同じエネルギーを自国の軍隊がベトナム戦争でした同様の問題やベトナム人への蛮行を調査・研究し、それを未来に活かしてほしい。