hiyamizu's blog

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日吉信貴『カズオ・イシグロ入門』を読む

2018年03月02日 | 読書2

 

 

日吉信貴著『カズオ・イシグロ入門』(2017年12月20日、立東舎発行)を読んだ。

 

2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの生い立ちから作品世界まで、入門的解説書。

 

第1章 イシグロとは誰か

海洋学者だった父親がイギリス政府から招聘されて1960年5歳でイギリスへ渡り、1989年まで日本には戻らず、結局その後日本で暮らすことはなかった。ロック・ミュージシャンとして挫折し、ソーシャル・ワーカーとして働く。習作3編を統合させた『遠い山なみの光』で1982年デビュー。

 

第2章日本語で読める全作品あらすじ
『遠い山なみの光』=『女たちの遠い夏』/『浮世の画家』/『日の名残り』/『充たされざる者』/『わたしたちが孤児だったころ』/『わたしを離さないで』/『夜想曲集−−音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』/『忘れられた巨人』/その他の短編

 

第3章 テーマで読み解くイシグロの謎

記憶はしばしば人間の欲望により歪められる。

一人称の語り多いが、しばしば信頼できない語り手で、真実を直視できない人間の弱さにより、読者を欺く。

 

第4章 イシグロと日本

イシグロの日本知識は十分でなく、日本文化の中で育ってもいない。作品の描写には、日本人には違和感を抱かせる点も多い。ここで著者は、他人への呼びかけの不正確さ、お辞儀の過剰、家屋描写の不自然さ、ゴジラ出現時期など細かい点を挙げている。なお、これらは日本語訳の際に要請により訂正されている。

 

イシグロがデビューを果たした1980年代のイギリスでは、国際的な背景を持った作家による小説への需要が高まっていたため、日系人であるイシグロに順風満帆の作家人生を可能にしたという背景がある。

 

第5章 イシグロと音楽

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

カズオ・イシグロと日本との関係にこだわり過ぎている。確かに最初の2作は日本が舞台、背景にあり、しかもその内容に日本人には違和感のある点が散見される。でも、それらが作品としての大きな欠点になっているわけではない。とくに外国人にとっては。

 

また、デビューにおいて、日系であることが結果的に売り物になったこともあるだろう。しかし、今頃、世界の「カズオ・イシグロ」について、そんなことを問題にするのがおかしい。

 

新しい本を書くたびに、まったく変化してしまうイシグロ本についての解説は、著者には無理だと思う。彼の、そしてその作品の根っこに迫らなければ、本質はわからない。

著者は、まえがきで、

もしもイシグロの各小説の内容を一文でまとめるとしたら、そのほとんどを「頑張って○○してみたけど、結局××だった」といった形で要約することが可能と思われる。

と書いている。いくら多彩な内容だかたって、こんなまとめ方、ありうる??

 

一方、ウィキペディアの「カズオ・イシグロ」には、こうあった。

 

作品の特徴として、「違和感」「むなしさ」などの感情を抱く登場人物が過去を曖昧な記憶や思い込みを基に会話・回想する形で描き出されることで、人間の弱さや、互いの認知の齟齬が読み進めるたびに浮かび上がるものが多い。

 

 

日吉信貴(ひよし・のぶたか)
1984年愛知県生まれ。神田外語大学、千葉商科大学非常勤講師。

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻修士課程修了。

著書に『カズオ・イシグロ入門』(立東舎)、共著に『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』(青月社、イシグロを担当)がある。

 

 

カズオ・イシグロの履歴&既読本リスト 

 

コメント (1)
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