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ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~苦い思い出の、懐かしの味~

2014-07-11 | 散華の如く~天下出世の蝶~
火薬の匂い立ち込める本能寺を出て、
目と鼻の先にある南蛮寺に向かった。
帰蝶「全く対照的じゃな」
私の姿を見て、表に出て来た伴天連。
「待っておりました」と言わんばかりに、
マリアへの挨拶もそこそこ、
「ササ、こちらへどうぞ。オクガタサマ」
礼拝堂脇の間へと通された。
どうやら接待用客間らしい。
燭台中央には、三つ又蝋燭、
西洋菓子がすでに用意され、
帰蝶「(くん?)」
ある匂いに鼻が鳴った。
焼菓子の香りに混じって、
「(ヤスケ…?)」
彼の、独特の匂いがした。
ソルディ「オチャを、お持ちしました」
帰蝶「先客が居られたようで…」
ぽ…と一口、丸ボーロを口に運び、
ソルディ氏の顔色と出方を窺った。
ソルディ「カレ、ナツカシイと、よくカオを出しまする」
懐かしい…か?確かに、元々、
ヤスケは、彼らの奴隷である。
奴隷が殿に買われ、人生一変、
伴天連の通訳に抜擢、さらに、
その恵まれた体格で殿のお傍仕えとなり、
各地の南蛮寺を統括管理する役を与えた。
しかし、
帰蝶「確かに、懐かしい味じゃな」
懐かしいのは丸ボーロの味だけである。

散華の如く~神より仏より、我が鬼かな~

2014-07-10 | 散華の如く~天下出世の蝶~
こってり説教、
たっぷり嫌味を言われて、
日承上人「とにかく、頼みましたぞ」
帰蝶「…」
深く頭を下げて、日承上人を見送ったが、
頭を下げて、大成する天下布武ではない。
ましてや、
私に殿の愚痴を言って、
話が通る…訳でもない。
塩川「まぁ、忙しない御上人様で」
帰蝶「仕方あるまい、寺から線香ならいざ知らず、斯様火薬の香が漂っては…」
塩川「…もし、誤って武庫に火が放たれれば…、」
帰蝶「ボッ、間違いなく本殿仏像諸共吹っ飛ぶであろうな」
塩川「大殿様、それを承知で、ここを本陣(宿場)に?」
帰蝶「盗られては困る。それに、安土の地下に眠る鉄砲も…」
塩川「まさか、それを、私にやれと?」
帰蝶「流石は元侍女。勘が冴えておる」
塩川「…御方様に厚い信頼を寄せられ、恐悦至極に存じます」
ぺっこんと、頭を下げたから、
帰蝶「あの世でまた侍女に戻してやる、それまで待っておれ」
塩川「それだけは、御免被りまする」
くっと肩を竦めて、
やれやれ仕方ない、
と言わんばかりに笑っていた。
帰蝶「そなたも、フコウじゃな」
塩川「不幸…?」
帰蝶「あぁ、伴天連にそう言われて、入信するように勧められた」
塩川「神を信じよ、然すれば、幸せになると?」
帰蝶「バカげた話である。鬼の妻が宗旨替え、ころっと神を信じようか?」
塩川「真、バカげた話にございます。神より仏より、鬼にございましょう」

散華の如く~禁制朱印状 領地安堵~

2014-07-09 | 散華の如く~天下出世の蝶~
「これはこれは、奥方様。久しぶりである」
声の主は、
帰蝶「日承様…御無沙汰しております」
日承上人(にちじょうしょうにん)…本能寺8世。
京進出の最重要人物であり、帝の親戚でもある。
帝と明智様のやりとりは、この方からであった。
種子島で普及活動、多くの信徒を持つ本能寺。
利害が一致したのであろう、殿と手を組んだ。
“禁制朱印状”
つまり、領地知行(安堵)。
この寺は殿が守る。その代り、ここは、
鉄砲火薬、その他交易の拠点となった。
本堂地下に武庫があり、そこに、
鉄砲と火薬が多く積まれていた。
日承上人「信長殿は実に恐ろしい。京を焼き尽くすおつもりか」
立派なお寺に火薬が積まれ、
おちおち寝てもおられまい。
扱いの分からぬ鉄砲に、火薬に、
愚痴を言いたくなるのも分かる。
帰蝶「ただの…、備えにございます」
日承上人「足りぬ、足りぬ、まだ足りぬと。どれほど入用か?」
帰蝶「…全て空。今も昔も何もかも、全て吹き飛ぶほど、欲しいのでございます」
日承上人「この世の全ての鉄砲を、ここに集めようというのか」
帰蝶「それが、天下布武…」
日承上人「武の上に天あり。しかし、気が気ではない」
帰蝶「今しばらくの御辛抱にございます、いずれは…」
日承上人「天下泰平の折には、わが身とこの寺も保証されるのであろうな」
帰蝶「それは、殿の御意向によりけり…」
流れる時と、交わされる口約束に、
安堵という保証などありはしない。

散華の如く~薄々と…~

2014-07-08 | 散華の如く~天下出世の蝶~
秋が深まるのを待ち、
塩川「珍しゅうございますね」
元侍女を呼び付けて、
帰蝶「乳母にも息抜きが要る」
私は京に入っていた。
目の前には、本能寺。
塩川「まぁ、大掛かりな」
寺は今、改修工事に入っていた。
帰蝶「殿のお考えは、よう分からん」
“京に行くなら、寺を見て参れ”
工事中の寺には、褌一丁の男衆。
「何が面白いのか…」
殿は、笑っていた。
塩川「大殿様のことです、“何か”あるのでございましょう」
帰蝶「さぁ…」
寺に石垣や堀を作って、
まるで戦備えの城構え。
「伴天連と戦でもさせるおつもりか?」
塩川「では、どちらが勝ちましょう?」
帰蝶「天罰が下るか、罰(バチ)が当たる」
塩川「共倒れ…という事にございますか」
帰蝶「そもそも…」
塩川「御方様は、神と仏…どちらにお付になりますか?」
帰蝶「そもそも、この世に神や仏など、どこにも居らぬ」
塩川「…もし、大殿様に何か遭ったら…」
帰蝶「その時は、塩川…すまぬが、」
塩川「は…?」
帰蝶「頼むぞ」
塩川「…はい」本能寺の改修、戦支度で、
薄々、何が起こるのか分かってしまった。

散華の如く~京の幻、平安楽土の城~

2014-07-04 | 散華の如く~天下出世の蝶~
結局、御慈悲は無かった。
神の御加護とは何だろう。
仏の救いが無くて、
神に祈ってみたが、
殿の御心は、救われない。
私の思いは、報われない。
“神や仏は、本当に何をしているのか…のう?”
人間の所業に冷たい視線だけを落し、口を噤む。
キュッと結ばれた上下唇は、決して、開かない。
目を大きく、カッと見開いて、
瞳を欲望で、ギラリと光らせ、
大口を叩くはせいぜい人間か。
ソルディ「オカタサマ、ワガ京のマナビヤに、お越し下さいませ」
帰蝶「京の学び舎…」
二条、三条の交わる所に、織田家本陣(宿)がある。
三条坊門泉殿…そこ近くに、殿は聖母被昇天教会、
いわゆる、南蛮寺であるが、その建築を許可した。
寺の前に教会、
教会の前に城。
殿はここを中心に隠居場を作り、
京に移り住む計画を立てていた。
“よろしいのですか?寺の坊主と伴天連が混在して…”
平安京跡に平安城を作り、御隠居様が京を監視する。
平安楽土、城の周りに憎き坊主と、
従順な伴天連、それら信徒がいて、
目と鼻の先には我らの天敵帝かな。
“構わぬ。それから、利休のため茶室を作ろう”
茶坊主と伴天連と帝をお茶に誘い、
共に平安楽土の成り行きを見守る…というのか。
※平安楽土城は秀吉の伏見城という形で実現した。

散華の如く~何卒、御慈悲を…~

2014-07-03 | 散華の如く~天下出世の蝶~
私の思いに、
ようやく気が付いたか、
ハッとした顔を見せた。
そして、
異国人が日ノ本に習い、
バッと両手を畳に付け、
深く深く、頭を下げた。
ソルディ「モウシワケございません」
なぜ、伴天連が謝るのだろう?
非礼を働いた茶坊主のせいで、神仏に対する信仰心を挫かれた…。
たったそれだけの私の過去…それを振り払えないのは私の落ち度。
一人の男が仏を盾に宗教に溺れ、一人の女が神仏に疑問を持った。
たったそれだけの私の昔話…それに、フコウの元凶である、
憎むべき茶坊主は、殿の手によって、すでに地獄に落ちた。
なのに、いつまでも、いつまでも、この嫌な感情に苛まれ、
帰蝶「御顔を上げて下さいませ、いくら下げられても、私…入信するつもりはございません」
ソルディ「オカタサマのフコウが、コレほどフカイとは…」
帰蝶「何度、賛美を聞いても、洗礼を受けても、私の心に、神の声は響かない」
私をフコウという神は、ここにいるのか?
それなら、早くどこか他のフコウに行け。
今まさに落とされる無辜の女らの首を救いに行ってくれまいか?
“ち、ちちうぇ…ははうえ…”
今まさに晒されようとする幼き首、それらを救ってくれまいか?
未だに、天主は沈黙し、救いの手は差し伸べられない。
“殿、あの中に、私の御身内が居りまする…何卒、何卒…御慈悲を、”
救える力があるのに救おうとせず、
ただ、消えゆく魂を見つめるだけ。
ちらり、ちらり、ふわり、ふわり、
消えゆく雪のような魂をぼんやり眺めて、
降り積もる血生臭い屍を踏みつけて進む。

散華の如く~大馬鹿者~

2014-07-02 | 散華の如く~天下出世の蝶~
殿は、
「ディアモーン(鬼神)か?」
人間と神との狭間で苦しむ鬼か?
人間の欲と神の御意思に苦しみ、
遂には孤独、制裁の神となるか?
そんな孤独な神など見たくない。
ソルディ「いえ。ディオス…オヤカタサマにふさわしいナ」
帰蝶「ディオス…?」
通訳を見ると、
俯いて答えた。
ヤスケ「天主デウス…に、ございます」
帰蝶「その名…」
是が非でも、入信か。
それもその筈である。
今ここで、天下に最も近い男に媚びておかねば、
次の制裁、その標的は伴天連とその信徒である。
殿が、天主。
神となれば、
伴天連安泰。
しかし、
「気に入らぬ」
ソルディ「は?」
帰蝶「ヤスケ、ご理解頂けるよう訳して進ぜよ」
ヤスケ「はッ」
ソルディ氏に帰って頂くよう促し、
ソルディ「オ、オマチクダサイッ、オカタサマ。ナゼ?ナゼ…ですか?」
帰蝶「殿は、殿…」
神や天の御使いを騙り、人が人から離れ、
私からどんどん離れて、良いのだろうか?
「殿は、人間らしい…大うつけ(馬鹿者)で良い」

散華の如く~神か、悪か?~

2014-06-28 | 散華の如く~天下出世の蝶~
不幸な私のため、十字を切ってくれたが、
帰蝶「なぜ、私を不幸だと…?」
ソルディ「では、オカタサマ…幸せですか?」
帰蝶「…」はい、と即答は出来なかった。
人間の皮を被ったデウスの神が、
“幸せか、不幸か?”
私に、そんな質問を突きつけた。
マムシの娘として生まれ、あのうつけの妻となって、
“そなた、幸せか?”
殿が悪魔に成り代わり、尋ねているような気がした。
もっと、普通の幸せがあるのでは…と思ったこともある。
しかし、果たして、その普通とは、幸せとは何であろう?
ソルディ「ナゼ、オヤカタサマ、入信されないのですか?」
来た。
伴天連たちの本心は、その一点。
殿の、入信。私の幸不幸は口実。
帰蝶「殿は信仰に、自由である…」
もし、殿がこの者たちの洗礼を受けたら、
切支丹たちへの処遇、処罰が難しくなる。
「ただもし、そなたらの洗礼を受けたとして、洗礼名(クリスチャンネーム)は何とする?」
キリスト十二使徒の、誰か?
一番使徒シモン(ペトロ)か?
※黒田官兵衛の洗礼名シモン、三法師(後の織田秀信)はペトロです。
殿が、どこの馬の骨かも知らぬ、
異国の守護聖人の名を騙ろうか?
この目に確かに見たモノのみが、真実。
そんな殿に授ける名とは、
神に近い男の名を授けるか?
それとも、
悪に最も近い名を冠するか?

散華の如く~生まれ持った、フコウ~

2014-06-25 | 散華の如く~天下出世の蝶~
安土に戻ってみると、
彼が私を待っていた。
帰蝶「ソルディ様…」
安土のセミナリオ(小神学校)の建設を終えて、
京に戻っていたソルディ・オルガンティーノ。
ソルディ「このタビは、オメデトウございます。つきましては、オカタサマ…」
三法師誕生を“どこかからか”
聞きつけて京から飛んできた。
今度は何をねだりに来たのか?
「オマゴサマに、ペドバプティスマを捧げトウございます」
帰蝶「その、ペド…とかというのは、どういう意味か?」
通訳のヤスケが私に助け舟を出した。
ヤスケ「浸礼の儀…罪を洗い清める、いわゆる、洗礼にございます」
つまり、入信の儀。
額に聖水を垂らし、
罪穢れを洗い流し、
正式に入信となる。
帰蝶「生まれたてのややに、何の罪があろうか?」
ソルディ「No…、カミの子ミナ、ツミ持ってウマレ…」
子は罪を背負って生まれる。
その罪は大きな宿命になり、
子に厄災となって降り注ぐ。
つまりは、殿の所業が全て、
子や孫の枷、十字架となる。
その前に入信…という事か。
帰蝶「日ノ本にも初宮の儀がある、その必要は無い」
子の厄災を払う、御宮参りを説明したが、伝わらなかった。
ソルディ「ヒツヨウ…しなかったから、オカタサマ、とてもフコウ」
帰蝶「私が、不幸…?」
ソルディ「ハイ」

散華の如く~抱けぬ理由~

2014-06-22 | 散華の如く~天下出世の蝶~
我らの孫三法師の誕生から二年後、本能寺の変が起きた。
サルに似たこの子は、わずか三歳でサルに担ぎ上げられ、
家督相続争いに巻き込まれ、数奇な運命を辿る事になる。
乳母「お抱きになりまするか?」
当然抱くだろうと、ややに手が伸びた。
それを制した。
帰蝶「いや、いい…」
すやすや…と、
眠る孫の顔を拝めただけで十分満足。
無理に抱いて、起こしてしまっては、
それこそ可哀そう、と抱けなかった。
いや、ややを抱けない本当の理由は…、
あの時の、私の手の中で、ぐにゃりと、
動かなかくなった娘が思い出されるからで、
「殿には無事産まれたと伝えておく。鈴に、ようやったと労ってやれ」
私はややを抱かず、その場を去ろうとした。
信忠「母上、もう戻られるのですか?」
帰蝶「私に乳母でもやれと言うのか?」
信忠「しばらくゆっくりなさっては…」
帰蝶「目を放すと、何を仕出かすか分からぬややがおるで、早々に帰る」
信忠「今度は、何を企んでおいでか?」
帰蝶「天下の、総仕上げと言ったところか」
信忠「近々、召集がかかるいうわけですね」
帰蝶「さぁ…」
ちらりと、
孫を見て、
鈴を見た。
起きる時機を失った鈴の頬に、
一筋の滴が伝った跡が見えた。
涙か汗か、ただの気のせいか。