いま読む日本国憲法(特別編)不戦精神、9条以外にも

2016-08-15 11:49:25 | 定年後の暮らし春秋
<いま読む日本国憲法>(特別編) 不戦精神、9条以外も 

2016/8/15 中日新聞

日弁連憲法問題対策本部副本部長・伊藤真弁護士に聞く

 先の大戦での甚大な犠牲を踏まえてつくられた日本国憲法。九条を筆頭に、二度と戦争を起こさないためのさまざまな規定が組み込まれている。終戦から七十一年となる十五日を前に、連載「いま読む日本国憲法」の特別編として、弁護士の伊藤真さんに解説してもらった。

 -戦争につながった旧憲法は何が問題だったか。

 「旧憲法は立憲主義と国家神道を利用して国を統治しようとした。立憲主義が不十分で、国家神道は神権天皇制という形で軍部に利用され『国や天皇のために死ぬことは尊い』という考えが浸透していった」

 -日本国憲法の九条には一項の戦争放棄に加え、二項で戦力の不保持、交戦権の否認という世界的に先駆的な規定が盛り込まれた。

 「その通り。まず九条で軍隊自体を持たないと否定したのは、一番はっきりしている。天皇については一条で国の象徴でしかなく、四条で国政に関する権能を有しないとした。二〇条一項、三項と八九条で政治と宗教の関わりを禁じた。つまり軍隊、宗教、天皇制の三つが戦争へのアクセルとして機能しないようにした」

 -三つのアクセルを封じた以外には。

 「万一戦争に進もうとしたときブレーキをかけるため、戦争を否定する憲法の秩序そのものが守られる仕組みもいくつか用意した。『憲法保障』という」

 -具体的には。

 「九八条一項で憲法に反する法律は無効と明確にし、九九条で公務員に憲法尊重擁護義務を負わせた。八一条で違憲審査権を裁判所に認め、憲法に反する国家の行為に無効の判決を出せるようにした。四一条、六五条、七六条一項を根拠とする国会、内閣、司法の三権分立も憲法保障だ。明文化されていないものでは、政府が憲法に反する行為をする場合、国民が法律上の義務に従わない権利(抵抗権)も」

 -憲法は基本的人権の尊重も徹底している。

 「人々が人権を行使することで、政府の暴走を止めることも可能。(例えば)二一条の表現の自由。戦争反対の声を上げても取り締まられないことは、極めて重要な歯止めになる。戦前は学問も武器開発などで軍部に利用されたため、二三条の学問の自由も、戦争をさせない重要な仕組みと言っていい」

 「二五条の生存権も極めて重要。軍隊ではなく社会保障にお金を使い、貧困・格差をなくすことは戦争の原因をなくすことにつながる。二六条の教育を受ける権利は、戦前の皇民化教育を反省し、子どもたちが歴史から学べるようにした。普通選挙を保障した一五条は、戦争で最も被害を受ける市民の意志で政治を動かすということだ」

 -九条以外にも、不戦のための仕組みは多い。

 「画期的なのは前文の『平和のうちに生存する権利』。人権という、多数決でも奪えない価値として平和を規定した。たった一人が『自分の平和的生存権が侵害される』と司法に訴え、止めることができる」

 (安藤美由紀、北條香子)

 <いとう・まこと> 1958年生まれ、東京都出身。法律資格の受験指導をする「伊藤塾」塾長。法学館法律事務所所長、日弁連憲法問題対策本部副本部長。

いま読む日本国憲法(26条教育機会均等、27条労働の権利)中日新聞(7月27日、8月11日)

2016-08-12 08:24:57 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(20) 第26条 教育機会、念入りに保障 

2016/7/29 中日新聞

 万人が教育を受けられる権利と、保護者が子どもに教育を受けさせる義務を定めた条文です。人の成長や人格形成にとって欠かせない教育の機会を、違う角度から念入りに保障しているわけです。

 二六条は、義務教育を無償とすることも明記しています。義務教育は、現行制度では小中学校の九年間。無償とは授業料を徴収しないこととされています。

 この憲法の精神に基づき、教育の基本方針を定めた法律が、一九四七年に制定され「教育の憲法」などと呼ばれてきた教育基本法です。第一次安倍政権時代の二〇〇六年に初めて改正され、「我が国と郷土を愛する態度を養う」など愛国心の理念が書き込まれましたが、愛国心の押しつけとの批判が出ました。

 自民党の改憲草案は、国が「教育環境の整備に努めなければならない」との義務規定を二六条に書き加えています。草案Q&Aは「施設整備や私学助成などについて、国が積極的な施策を講ずること」を想定していると説明していますが、気になるのは「教育が国の未来を切り拓(ひら)く上で欠くことのできないものであることに鑑み」という部分。個人の成長より、国家の利益になるための教育を追求するようにも読めます。

 ちなみに日本国憲法で「義務」という言葉が出てくるのは、三大義務とされる教育、勤労、納税について定めた二六、二七、三〇条と、公務員らの憲法尊重擁護義務を定めた九九条の四カ条だけ。憲法が、国家権力から国民の権利を守ることを主眼にしているためです。

 自民党内には「義務を忘れて権利だけ主張していては、社会生活は成り立たない」との意見が強く、改憲草案にも多くの義務が追加されています。

<いま読む日本国憲法>(21) 第27条 働けるよう国が支援 

2016/8/11 中日新聞

 全ての国民に、働く権利があることを定めた条文です。この条文に基づいて、職業安定法や雇用保険法、労働基準法など「勤労の権利」を守るための法律がつくられています。言い換えれば、国は、国民が働く機会を得られるような施策を行い、働けない人に対しては生活の保障をするよう求められているわけです。

 二七条一項は、働く権利だけでなく働く義務も定めていますが、労働を強制されたり、働かない人が罰せられたりするわけではありません。働く能力も機会もある人は仕事をして、だれかの役に立とうという精神的な規定などと考えられています。

 二項で、賃金や就業時間など労働条件の基準を「法律で定める」としたのは、雇用する側に比べて立場が弱い労働者を保護するためです。労働者が、著しく低い賃金や長時間労働を押しつけられることがないよう、国の関与を求めているのです。

 三項で児童の酷使を禁じたのも、社会的弱者と言える子どもが、しばしば過酷な労働を強いられてきた歴史を踏まえたものです。

 自民党の改憲草案も、二七条については現行条文とほとんど変わりません。

 むしろ問題はリストラや失業、過労死、サービス残業などが現実に横行し、二七条の目指す理想とかけ離れてしまっていることです。有効求人倍率が全体的に回復傾向にあるとはいえ、雇用者の四割前後を依然、非正規労働者が占めています。「ブラック企業」の問題も深刻です。

 現実を二七条に近づけるための、不断の努力が国に求められています。


長崎平和宣言全文(2016年8月9日)

2016-08-10 09:30:04 | 桜ヶ丘9条の会
長崎平和宣言

核兵器は人間を壊す残酷な兵器です。
1945 年8月9日午前 11 時2分、米軍機が投下した一発の原子爆弾が、上空でさく裂し た瞬間、長崎の街に猛烈な爆風と熱線が襲いかかりました。あとには、黒焦げの亡骸、全 身が焼けただれた人、内臓が飛び出した人、無数のガラス片が体に刺さり苦しむ人があふ れ、長崎は地獄と化しました。
原爆から放たれた放射線は人々の体を貫き、そのために引き起こされる病気や障害は、 辛うじて生き残った人たちを今も苦しめています。
核兵器は人間を壊し続ける残酷な兵器なのです。
今年5月、アメリカの現職大統領として初めて、オバマ大統領が被爆地・広島を訪問し ました。大統領は、その行動によって、自分の目と、耳と、心で感じることの大切さを世 界に示しました。
核兵器保有国をはじめとする各国のリーダーの皆さん、そして世界中の皆さん。長崎や 広島に来てください。原子雲の下で人間に何が起きたのかを知ってください。事実を知る こと、それこそが核兵器のない未来を考えるスタートラインです。
今年、ジュネーブの国連欧州本部で、核軍縮交渉を前進させる法的な枠組みについて話 し合う会議が開かれています。法的な議論を行う場ができたことは、大きな前進です。し かし、まもなく結果がまとめられるこの会議に、核兵器保有国は出席していません。そし て、会議の中では、核兵器の抑止力に依存する国々と、核兵器禁止の交渉開始を主張する 国々との対立が続いています。このままでは、核兵器廃絶への道筋を示すことができない まま、会議が閉会してしまいます。
核兵器保有国のリーダーの皆さん、今からでも遅くはありません。この会議に出席し、 議論に参加してください。
国連、各国政府及び国会、NGOを含む市民社会に訴えます。核兵器廃絶に向けて、法 的な議論を行う場を決して絶やしてはなりません。今年秋の国連総会で、核兵器のない世 界の実現に向けた法的な枠組みに関する協議と交渉の場を設けてください。そして、人類 社会の一員として、解決策を見出す努力を続けてください。
核兵器保有国では、より高性能の核兵器に置き換える計画が進行中です。このままでは 核兵器のない世界の実現がさらに遠のいてしまいます。
今こそ、人類の未来を壊さないために、持てる限りの「英知」を結集してください。
日本政府は、核兵器廃絶を訴えながらも、一方では核抑止力に依存する立場をとってい ます。この矛盾を超える方法として、非核三原則の法制化とともに、核抑止力に頼らない 安全保障の枠組みである「北東アジア非核兵器地帯」の創設を検討してください。核兵器 の非人道性をよく知る唯一の戦争被爆国として、非核兵器地帯という人類のひとつの「英 知」を行動に移すリーダーシップを発揮してください。
核兵器の歴史は、不信感の歴史です。
国同士の不信の中で、より威力のある、より遠くに飛ぶ核兵器が開発されてきました。 世界には未だに1万5千発以上もの核兵器が存在し、戦争、事故、テロなどにより、使わ れる危険が続いています。
この流れを断ち切り、不信のサイクルを信頼のサイクルに転換するためにできることの ひとつは、粘り強く信頼を生み続けることです。
我が国は日本国憲法の平和の理念に基づき、人道支援など、世界に貢献することで信頼 を広げようと努力してきました。ふたたび戦争をしないために、平和国家としての道をこ れからも歩み続けなければなりません。
市民社会の一員である私たち一人ひとりにも、できることがあります。国を越えて人と 交わることで、言葉や文化、考え方の違いを理解し合い、身近に信頼を生み出すことです。 オバマ大統領を温かく迎えた広島市民の姿もそれを表しています。市民社会の行動は、一 つひとつは小さく見えても、国同士の信頼関係を築くための、強くかけがえのない礎とな ります。
被爆から 71 年がたち、被爆者の平均年齢は 80 歳を越えました。世界が「被爆者のいな い時代」を迎える日が少しずつ近づいています。戦争、そして戦争が生んだ被爆の体験を どう受け継いでいくかが、今、問われています。
若い世代の皆さん、あなたたちが当たり前と感じる日常、例えば、お母さんの優しい手、 お父さんの温かいまなざし、友だちとの会話、好きな人の笑顔...。そのすべてを奪い去っ てしまうのが戦争です。
戦争体験、被爆者の体験に、ぜひ一度耳を傾けてみてください。つらい経験を語ること は苦しいことです。それでも語ってくれるのは、未来の人たちを守りたいからだというこ とを知ってください。
長崎では、被爆者に代わって子どもや孫の世代が体験を語り伝える活動が始まっていま す。焼け残った城山小学校の校舎などを国の史跡として後世に残す活動も進んでいます。
若い世代の皆さん、未来のために、過去に向き合う一歩を踏み出してみませんか。
福島での原発事故から5年が経過しました。長崎は、放射能による苦しみを体験したま ちとして、福島を応援し続けます。
日本政府には、今なお原爆の後遺症に苦しむ被爆者のさらなる援護の充実とともに、被 爆地域の拡大をはじめとする被爆体験者の一日も早い救済を強く求めます。
原子爆弾で亡くなられた方々に心から追悼の意を捧げ、私たち長崎市民は、世界の人々 とともに、核兵器廃絶と恒久平和の実現に力を尽くすことをここに宣言します。
2016 年(平成 28 年)8月9日
長崎市長 田上 富久

広島平和宣言全文(2016年8月6日毎日新聞)

2016-08-09 18:17:19 | 桜ヶ丘9条の会
広島平和宣言全文 2016年


1945年8月6日午前8時15分。澄みきった青空を切り裂き、かつて人類が経験したことのない「絶対悪」が広島に放たれ、一瞬のうちに街を焼き尽くしました。朝鮮半島や、中国、東南アジアの人々、米軍の捕虜などを含め、子どもからお年寄りまで罪もない人々を殺りくし、その年の暮れまでに14万もの尊い命を奪いました。

辛うじて生き延びた人々も、放射線の障害に苦しみ、就職や結婚の差別に遭い、心身に負った深い傷は今なお消えることがありません。破壊し尽くされた広島は美しく平和な街として生まれ変わりましたが、あの日、「絶対悪」に奪い去られた川辺の景色や暮らし、歴史と共に育まれた伝統文化は、二度と戻ることはないのです。

 当時17歳の男性は「真っ黒の焼死体が道路を塞ぎ、異臭が鼻を衝(つ)き、見渡す限り火の海の広島は生き地獄でした」と語ります。当時18歳の女性は「私は血だらけになり、周りには背中の皮膚が足まで垂れ下がった人や、水を求めて泣き叫ぶ人がいました」と振り返ります。

 あれから71年、依然として世界には、あの惨禍をもたらした原子爆弾の威力をはるかに上回り、地球そのものを破壊しかねない1万5000発を超える核兵器が存在します。核戦争や核爆発に至りかねない数多くの事件や事故が明らかになり、テロリストによる使用も懸念されています。

 私たちは、この現実を前にしたとき、生き地獄だと語った男性の「これからの世界人類は、命を尊び平和で幸福な人生を送るため、皆で助け合っていきましょう」という呼び掛け、そして、血だらけになった女性の「与えられた命を全うするため、次の世代の人々は、皆で核兵器はいらないと叫んでください」との訴えを受け止め、更なる行動を起こさなければなりません。そして、多様な価値観を認め合いながら、「共に生きる」世界を目指し努力を重ねなければなりません。

 今年5月、原爆投下国の現職大統領として初めて広島を訪問したオバマ大統領は、「私自身の国と同様、核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」と訴えました。それは、被爆者の「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という心からの叫びを受け止め、今なお存在し続ける核兵器の廃絶に立ち向かう「情熱」を、米国をはじめ世界の人々に示すものでした。そして、あの「絶対悪」を許さないというヒロシマの思いがオバマ大統領に届いたことの証しでした。

 今こそ、私たちは、非人道性の極みである「絶対悪」をこの世から消し去る道筋をつけるためにヒロシマの思いを基に、「情熱」を持って「連帯」し、行動を起こすべきではないでしょうか。今年、G7の外相が初めて広島に集い、核兵器を持つ国、持たない国という立場を超えて世界の為政者に広島・長崎訪問を呼び掛け、包括的核実験禁止条約の早期発効や核不拡散条約に基づく核軍縮交渉義務を果たすことを求める宣言を発表しました。これは、正に「連帯」に向けた一歩です。

 為政者には、こうした「連帯」をより強固なものとし、信頼と対話による安全保障の仕組みづくりに、「情熱」を持って臨んでもらわなければなりません。そのため、各国の為政者に、改めて被爆地を訪問するよう要請します。その訪問は、オバマ大統領が広島で示したように、必ずや、被爆の実相を心に刻み、被爆者の痛みや悲しみを共有した上での決意表明につながるものと確信しています。

 被爆者の平均年齢は80歳を超え、自らの体験を生の声で語る時間は少なくなっています。未来に向けて被爆者の思いや言葉を伝え、広めていくには、若い世代の皆さんの力も必要です。世界の7000を超える都市で構成する平和首長会議は、世界の各地域では20を超えるリーダー都市が、また、世界規模では広島・長崎が中心となって、若者の交流を促進します。そして、若い世代が核兵器廃絶に立ち向かうための思いを共有し、具体的な行動を開始できるようにしていきます。

 この広島の地で「核兵器のない世界を必ず実現する」との決意を表明した安倍首相には、オバマ大統領と共にリーダーシップを発揮することを期待します。核兵器のない世界は、日本国憲法が掲げる崇高な平和主義を体現する世界でもあり、その実現を確実なものとするためには核兵器禁止の法的枠組みが不可欠となります。また、日本政府には、平均年齢が80歳を超えた被爆者をはじめ、放射線の影響により心身に苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、その支援策を充実するとともに、「黒い雨降雨地域」を拡大するよう強く求めます。

 私たちは、本日、思いを新たに、原爆犠牲者の御霊(みたま)に心からの哀悼の誠を捧(ささ)げ、被爆地長崎と手を携え、世界の人々と共に、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを誓います。

平成28年(2016年)8月6日

広島市長 松井一実(かずみ)

安倍内閣再改造内閣発足 憲法擁護こそ自覚せよ(2016年8月4日東京新聞)

2016-08-04 09:27:52 | 桜ヶ丘9条の会
安倍再改造内閣発足 憲法擁護こそ自覚せよ

2016年8月4日東京新聞


 第三次安倍再改造内閣が発足した。安倍首相は在任中の憲法改正に意欲的だが、大臣らには憲法尊重擁護義務がある。新体制始動を機に自覚を促したい。
 安倍晋三首相にとっては第一次内閣以来七回目の組閣である。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、岸田文雄外相ら政権の骨格を担う閣僚を続投させ、五輪相に横滑りした丸川珠代氏を含めて九閣僚が閣内にとどまった。
 野党側からは「新味はない人事だ」(小川敏夫民進党参院議員会長)との批判も出ているが、首相にとっては、政策の継続を念頭に置いた手堅い布陣なのだろう。
◆「改憲」の鎧がのぞく
 新内閣は、二階俊博幹事長ら自民党新執行部とともに政策課題に取り組むことになるが、従来とは政治状況が全く異なることに、私たちは留意せねばなるまい。
 それは七月の参院選を経て、憲法改正に前向きな、いわゆる「改憲派」が、改正の発議に必要な三分の二以上の議席を衆参両院で占めている、ということである。
 憲法改正を政治目標に掲げてきた安倍首相は党総裁としての任期である二〇一八年九月までの「在任中に成し遂げたい」と公言してきた。参院選公示直前には「与党の総裁として、次の国会から憲法審査会をぜひ動かしていきたい」とも語った。
 参院選後も記者会見で「どの条文をどう変えるべきか、憲法審査会で議論が進んでいく、成熟していく、収れんしていくことが期待される」と述べている。
 参院選で政権与党である自民、公明両党は、憲法改正が争点となることを意図的に避けてきた。
 しかし、与党の党首を兼ねる首相が改憲意欲を示し続ける以上、新内閣がどんなに経済最優先、アベノミクスの加速を掲げても「改憲内閣」の鎧(よろい)は隠しきれないのが現実だろう。
◆政治的資産の使い道
 改正手続きが明記されている以上、現行憲法は改正が許されない「不磨の大典」ではない。
 しかし、改正しなければ国民の平穏な暮らしが著しく脅かされる恐れがあり、改正を求める声が国民から澎湃(ほうはい)と湧き上がっているような政治状況だろうか。
 改憲派の中ですら、改正を必要とする項目は一致しない。
 自民党は九条改正による国防軍創設など、現行憲法を全面的に改正する改憲草案をまとめているのに対し、同じ与党の公明党と、改憲派のおおさか維新の会は九条改正は当面必要ないと主張する。
 公明党は、環境権などを加える「加憲」の立場で、おおさか維新の会は教育無償化や道州制、憲法裁判所の創設に重きを置く。
 野党第一党である民進党はそもそも、安倍内閣の下での憲法改正に反対だ。
 こんな政治状況下で安倍政権が憲法改正に突き進むのなら「改憲ありき」との批判は免れまい。
 二階氏はきのうの記者会見で、憲法改正は「慎重の上にも慎重に対応するのは当然のことだ」と述べた。その姿勢を貫いてほしい。
 主要野党が反対するような改正はすべきでないというのが、衆参両院で三分の二という高いハードルを課した憲法の趣旨だろう。
 与党多数という「政治的資産」は緊急を要しない憲法改正よりも国民の暮らしをより豊かにする政策にこそ振り向けるべきである。
 子育て支援や教育の充実、格差是正や個人消費拡大などの経済政策、持続可能な社会保障、子孫に膨大な借金を負わせない財政規律の確立など困難な課題が山積する。新内閣一丸でこれらの課題に立ち向かってこそ国民の負託に応えることになる。
 新体制発足を機に、あらためて強調しておきたい憲法の条文がある。第九九条である。
 <天皇又(また)は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。>
 憲法は国民が政治権力を律するためにある。憲法改正の発議権がある国会議員が、改正を議論することは許されてしかるべきだが、発議権を有しない首相や閣僚が現行憲法を蔑(ないがし)ろにするような言動を繰り返し、改正を既定路線のように印象づけるのは言語道断だ。
◆総裁任期延長の誤り
 安倍首相の党総裁としての任期を、一八年九月を越えて延長する案も自民党内からは聞こえるが、賢明な判断とはとても言えない。
 ましてやそれが、安倍首相在任中の改憲を実現する目的なら、憲法を私するような行為と厳しく指弾されてもやむを得まい。
 自民党史をひもとけば、中曽根康弘首相が一九八六年、衆参同日選勝利を受けて一年間延長された例はあるが、総裁に任期がある背景に、権力の集中、腐敗を防ぐ民主主義の経験や知恵があることを忘れるべきではないだろう。