不自由展再開へ「リフリーダム」トリエンナーレ、作家ら連帯 (2019年10月11日 中日新聞)

2019-10-11 08:39:51 | 桜ヶ丘9条の会

不自由展再開へ「リフリーダム」 トリエンナーレ、作家ら連帯 

2019/10/11 中日新聞

 企画展「表現の不自由展・その後」をめぐって8月から注目を集め続けた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」は、14日で閉幕する。中止されていた不自由展は8日に再開したが、その間、参加作家の有志が連帯し、再開を促す企画や、議論の場づくりで活動してきた。そんな作家たちのプロジェクト「ReFreedom_Aichi」(以下、リフリーダム)の取り組みをあらためて紹介する。

 九月十四日、愛知芸術文化センター(名古屋・栄)で、閉ざされた不自由展の展示室へつながる扉に色とりどりの付箋が貼られた。一枚一枚に来場者の再開を望む声や反対意見、日常で感じた「不自由」の体験がつづられている。

 脅迫や抗議電話で中止に追い込まれた不自由展の再開に向けてリフリーダムが企画した。続々と寄せられた付箋は同月下旬には千五百枚を超え、扉だけではスペースが足りなくなった。再開に与えた影響は不明だが、来場者の関心を集め、問題を提起したといえる。

 中心メンバーの一人、アートユニット「キュンチョメ」のホンマエリさん(31)=神奈川県=は「不自由展中止の根本には、人種や性への差別、歴史修正などさまざまな問題がある。性差別に対抗するため作家を男女同数にしたトリエンナーレで、差別で展示が中止に追い込まれたことは許せなかった」と話す。

 不自由展が中止された当初、韓国や南米などで日常的に検閲を経験してきた海外作家らは、早々に抗議として自作を中止・変更した。その影響を受けつつ、異なる形で再開を目指したリフリーダムには、三十組以上の作家が賛同し、国内の三十~四十代が実動の中心を担った。

 付箋を貼ってもらう参加型企画のほか、事務局の代わりに抗議電話に対応するコールセンターを開設。活動資金などをまかなうため、インターネットで資金を調達するクラウドファンディングも実施した。支援者は五百八十人超、九百四十万円以上が集まっている(十月十日午後五時時点)。

 名古屋市内に活動の拠点を置き、継続的に作家と市民が関わり、考える場を創出した点も特徴的だ。空き店舗を利用した「サナトリウム」(名古屋市西区那古野)は、中心メンバーでもある美術家、加藤翼さん(35)=東京都=と毒山凡太朗さん(34)=同=が八月下旬に開設。作家と市民の対話や、学者を招いた討論を行ってきた。

 多くの作家たちが県内にとどまり、市民とともに「表現の自由」に向き合った成果が、国内外に表現の自由をアピールする「あいち宣言(プロトコル)」。作家が作った原案に市民らの意見を反映させる作業を進めており、十四日に発表される予定だ。

 これらの活動を上智大の林道郎(みちお)教授(美術史)は「今回のように、ボイコットではなく、未来を見据えたさまざまな運動が出現した例は寡聞にして知らない。個としての強みを生かしたゆるやかな連帯だ」と評価。「作家や市民らが共有する理念であり規約でもある宣言が、あいちトリエンナーレにとどまらない指針になれば」と期待を寄せた。

 ホンマさんは「今回愛知で起きた問題は、これから他の芸術祭や五輪などでも起きる可能性がある。今回の経験を引き継がなければ」と話す。「リフリーダムはこれからも必要な時に集まり、広がっていくと思う」

 (谷口大河)

 

◆作品も“復活” 喫茶店「クラウン」

 

 名古屋・長者町の老舗喫茶店として七十年にわたって営業を続け、一昨年閉店した「純喫茶クラウン」が、あいちトリエンナーレの関連イベントで、一日限定で“復活”した。約五十人が、店内にある造形作品とコーヒーを味わった。

 イベントは、トリエンナーレ連携事業として長者町で開かれている展覧会「アートファーミング」の一環。同店は、過去三回のトリエンナーレで、街なか展示の会場となり、展示室を兼ねた憩いの場として来場者に親しまれた。オーナーの谷口律子さんが七十七歳で亡くなり、閉店したが、展示作品の一部が、そのまま店内に残っていた。

 この日は、展覧会を企画した地元有志の団体「長者町アートアニュアル」などがコーヒーを用意。愛知県長久手市のアーティスト今村文さん(37)が手がけた、植物をモチーフにした造形作品などが再び公開された。今村さんは「もう見られなくなってもしょうがないと思っていた」と感慨深そうに眺めていた。

 アートファーミングは、ほかにも農業をテーマに、約四十組の作品を展示している。同町の綿覚ビルなどで、十四日まで。

 (中村陽子)