原発に頼る限り事故は起きる 元米原子力規制委員長・ヤッコ氏

2019-07-31 09:45:01 | 桜ヶ丘9条の会
原発に頼る限り事故は起きる 元米原子力規制委員長・ヤツコ氏 
2019/7/31 中日新聞

 二〇一一年の東京電力福島第一原発事故当時に米原子力規制委員会(NRC)の委員長だったグレゴリー・ヤツコ氏(48)が、首都ワシントンで本紙のインタビューに応じ、経済性や安全性を理由に「原発は破綻した科学技術だ」と主張した。「原発に頼る限り事故は必ず起きる」と述べ、発電コストが下がり続けている風力や太陽光といった再生可能エネルギーの開発に全力を注ぐべきだと訴えた。
 米国は世界随一の原発大国で、NRCは原発の安全規制や許認可を担う連邦政府の独立機関。ヤツコ氏は〇五~一二年に委員を務め、福島事故では委員長として事態収拾に向けて日本側と対応を協議し、現場にも足を運んだほか、米国で安全対策の強化に尽力した。
 福島の事故後、NRCとして地震や火災、水害といった災害に対する原発の弱点を洗い出したが、原子力業界の妨害などで「ごくわずかな改善」しか実現できなかったと回想。業界という「圧倒的な存在」が規制当局や政官界にまで幅を利かせる構図が必要な安全対策を阻み、経済性が落ち込んだ原発を延命させる一因になっていると指摘する。
 福島事故を経てもなお原発に固執する日本のエネルギー政策に対し「次の事故のリスクを認識、理解する必要がある。起きるかどうかではなく、いつ起きるかだ」と警鐘を鳴らした。

 <グレゴリー・ヤツコ> 1970年、米ペンシルベニア州生まれ。ウィスコンシン大マディソン校で物理学博士号を取得。民主党上院議員の政策補佐官(科学担当)などを経て2005年にNRC委員に就任。09年から委員長を務め、12年に任期途中で退任した。ジョージタウン大やプリンストン大で教えるかたわら洋上風力発電事業に携わっている。


◆むしろ有害

 世界的に気候変動への対策が課題となる中、発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない原発の優位性があらためて叫ばれている。しかしヤツコ氏は「気候変動の面からも原発は有害だ」と真っ向から否定する。引き合いに出すのは、福島の事故後、火力発電の増加でCO2排出量が増えたことだ。
 「原発頼みで再エネ技術に投資しないと、事故やトラブルで原発を動かせない場合に手っ取り早く火力発電で代替するしかなく、温室効果ガスが増える。まさに日本で起きたことだ」
 米国では一九九〇年に百十二基が稼働していたが、現在は九十八基に減少。安価なシェールガスによる火力発電の価格低下や再エネの普及が背景にあり、運転許可期限より前に退役する原発が相次いでいるためだ。米エネルギー情報局の予測では、発電量に占める原発の割合は現在の19%から二〇五〇年には12%まで減る。

◆原子力ムラ

 一方で、一部の州政府が原発に補助金を出して早期退役を防ぐ取り組みも目立つが、ヤツコ氏は「気候変動対策を装った原子力産業界のための延命策」と断言。資金力を背景にした業界の強大な力をNRCで目の当たりにしてきたからだ。
 福島の事故後、ヤツコ氏はNRCで、米国内の原発増設を巡り「フクシマがなかったかのように認可を出すのは支持できない」と一人で反対に回るなど、安全対策の強化を主張。しかし会議の運営手法などを巡り他の四委員との対立が表面化し、任期途中での退任を迫られた。
 「NRCの仕事は、業界への影響に関係なく安全上の決断を下すこと。しかし、業界は連邦議員らを使ったり職員らに近づいたりして、NRCの決断に介入しようとする。少なくとも委員の大半は業界への影響を気にしていた」
 退職後に業界に天下る当局者も多いといい、ヤツコ氏は「原子力ムラは日本だけの問題ではない。規制当局や議会、業界が密接に関わり合うなど米国にも多くの共通点がある」と語る。

◆事故不可避

 もともと「反原発」だったわけではない。安全性を疑い始めたのは、福島の事故がきっかけだ。「技術大国で原発先進国の日本が事故に対処しようともがき、私たちも日本を支えようと悪戦苦闘する。事故が起きたとき、とてつもなく制御が難しい原子力の恐ろしさを思い知った」
 その日本では福島の事故後、一時的に全ての原発が停止したが、政府は「安全性が最優先」としつつ再稼働を推進。経済界も「再稼働はどんどんやるべきだ」(中西宏明経団連会長)と後押しする。これまでに日本の原子力規制委員会(NRA)の審査を通った五原発が再稼働した。
 ヤツコ氏は「原子力事故は周期的に必ず起こる。それがフクシマの最も重要な教訓だ」と強調。日本政府や日本企業に対し、再エネに注力するよう助言した。
 (ニューヨーク支局・赤川肇)