水道「民営化」は逆流❓ 改正法が成立(2018年12月26日中日新聞)

2018-12-26 10:22:04 | 桜ヶ丘9条の会
水道「民営化」は逆流? 改正法が成立 

2018/12/26 中日新聞

 水道事業の基盤強化に向け、自治体の広域連携と運営権を民間企業に売却する「コンセッション方式」の推進を柱とした改正水道法が国会で成立した。事実上の民営化を認める内容に、「再公営化が進む世界の流れに逆行している」と批判もあるが、宮城県議会が調査研究費を含む補正予算を可決するなど具現化の動きも出始めた。命に直結する水という重要インフラはどうなるのか。

 総人口に占める普及率が97%を超える日本の水道だが、人口減少による経営環境の悪化とともに施設の老朽化も進んでおり、事業のてこ入れ策が求められている。

 水道は市町村が運営しているところがほとんどで、上水道の事業者数は千三百五十五に上る。ただ、給水人口はまちまち。経営状況も異なるため、各地の水道料金も差が大きい。日本水道協会によると、二十立方メートル当たりの家庭用料金の全国平均は昨年四月時点で三千二百二十八円。最も高い北海道夕張市(六千八百四十一円)は、最も安い兵庫県赤穂市(八百五十三円)の八倍だ。

 既に三分の一の事業者が、給水にかかる費用を料金収入でまかなえない「原価割れ」を起こしている。人口減少と節水機器の普及で水道の使用量はさらに減少する見通しだ。民間団体「水の安全保障戦略機構」などが三月に発表した推計によると、それぞれの事業者が経営を維持するためには、二〇四〇年までに九割の事業者で値上げが必要となり、五倍以上に引き上げなければならない所もある。

 施設の老朽化も深刻で、経営が苦しいため更新がなかなか進まない。法定耐用年数(四十年)を超えた水道管の割合は15%近くに上り、今後も増えることが見込まれている。

 厳しい現状を打開するため、政府が打ち出したのがコンセッション方式の推進だ。自治体が水道事業の認可を返上しなくても企業に運営を任せられるようになり、「民営化」のハードルが引き下げられる。

 臨時国会では立憲民主党などが「海外では民営化が失敗し、公営に戻す動きが相次いでいる」と批判。災害復旧などの不安も払拭(ふっしょく)されていないと訴えたが、与党と日本維新の会が五日に衆院厚生労働委員会で採決を強行。翌六日の衆院本会議で可決、成立した。改正法は一部を除き、来年十二月中までに施行される。

◆広域連携、コスト削減期待

 改正水道法では都道府県が旗振り役となり、市町村の広域連携を進めることになる。連携がうまくいけば、施設の統廃合でコスト削減が見込めるものの、経営状況に格差がある場合は、取り残される自治体が出てくる恐れもある。

 岩手中部水道企業団は北上川水系から取水する岩手県の紫波町、花巻市、北上市の水道事業を統合して二〇一四年に発足した。水を融通することで、過剰な施設を統廃合できるようになり、三十四カ所あった浄水場のうち既に五カ所を廃止。二五年までに二十一カ所に絞り込む予定だ。

 企業団設立は十年の月日をかけた。三市町がそれぞれ三十年間の水道料金の推移予測を作成。個々に事業を続ければ最大一・八倍に上げなければならないが、統合すれば現在の水準を維持できることが分かった。

 「長期的な見通しを具体的に数字にすることが重要。それで住民を説得することができた」と企業団の菊池明敏局長。「人口減少が進み、施設更新の必要性も迫る。危機感が統合を後押しした」と振り返る。

 同じ水系、三自治体のうち二市が同じ人口九万人台と条件に恵まれた面もある。連携しようとする自治体で水系が違ったり、人口規模や経営状況、料金に大きな開きがあったりすれば障壁となる可能性もある。

 水道事業に詳しい近畿大の浦上拓也教授は「経営状況が厳しいところが加わると、他自治体の住民にとっては料金値上げにつながりかねず理解を得にくい。自治体関係者も危機感を持って現実に向き合わないと、取り残される恐れがあると認識するべきだ」と語る。

◆「脅迫だ」憤る住民 給水停止通告の岩手・雫石町

 岩手県雫石町の別荘地では、水道を運営する民間会社「イーテックジャパン」(仙台市)が経営悪化を理由に追加料金の支払いを要求し、応じない場合は給水を停止すると通告したため、住民らが戸惑う事態となっている。

 別荘地は一九七〇年代に開発され、公営の水道はない。民間業者が井戸水をポンプでくみ上げる専用水道を整備し、現在はイー社が管理、運営し三十五軒に水を送っている。

 住民によると、イー社が十一月と十二月に説明会を開催。ポンプに使う二カ月分の電気代約五十万円を滞納していることを明らかにした上で、住民らに負担を求めた。住民らは使った分の水道代を支払っていることから、一世帯約一万四千円に上る追加支払いには応じられないとしている。

 イー社は「取材には応じない」としている。風呂に水をためるなど対応に追われるペンション経営の上村聡さん(44)は「年末年始の予約も入っているが、水がないとどうにもならない。具体的な説明もせず、いきなり給水停止を通告するのは脅迫だ」と憤る。

◆海外では料金高騰 抗議デモ、武力弾圧も

 海外で水道事業を民営化した所では料金高騰が相次ぎ、抗議する市民を政府が武力弾圧し、死傷者が出る事態も起きた。オランダの政策研究に関する非政府組織(NGO)「トランスナショナル研究所」によると、二〇〇〇年から一六年にかけて、少なくとも世界三十三カ国の二百六十七都市で、水道事業が再び公営に戻されている。

 東西ドイツ統一後、インフラ設備の民営化が進んだドイツの首都ベルリン。一九九九年に、ベルリン水道ホールディングを設立し、株式の約半分をドイツとフランスの企業に売却、水道事業を部分的に民営化した。

 その後、料金が15%値上げされたことをきっかけに市民の関心が高まると、市が株売却時に企業側に一定の利益を保証する契約を結んでいたことが判明。強い反発を招き、一一年の住民投票で再公営化が決定。企業が所有する株は十二億ユーロ(約千五百億円)で買い戻されることになった。

 南米ボリビア中部コチャバンバでは、民営化をきっかけに「ゲラ・デ・アグア(水戦争)」と呼ばれる事態に陥った。

 九九年に米建設会社などが設立した運営会社に四十年契約で水道事業が譲渡されると、料金が三、四倍に高騰した。井戸や川からの取水にも課金するようになると、市民が抗議行動を展開。〇〇年四月には軍がデモを鎮圧、死傷者が出たため、政府は契約破棄に追い込まれた。水道民営化は政府を金融支援していた世界銀行が構造改革の一環として要求したものだった。

 九七年に民営化したフィリピンの首都マニラ。水道普及率は69%から98%に上がり、水圧も安定するようになったが、料金は約九倍になった。

 (ベルリン、リオデジャネイロ、マニラ・共同)