秋田中心部に地上イージス配備計画 周辺に民家、学校、病院・・・住民ら怒り(2018年8月24日中日新聞)

2018-08-24 09:03:25 | 桜ヶ丘9条の会
秋田中心部に地上イージス配備計画 周辺に民家、学校、病院…住民ら怒り 

2018/8/24 中日新聞

 北朝鮮のミサイルを想定し、政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入を検討する秋田県で、官民挙げて怒りの声が高まっている。候補地は秋田市の市街地に隣接し、数百メートル先には学校もあるが、防衛省は「効率良く防護できる位置」と繰り返すばかり。北朝鮮と韓国、米国の対話が始まっても、止まらないミサイル迎撃計画。初めて一般住民向け説明会が開かれた現地を訪ねた。

 「あんだがだ、三十万人の秋田市民をバガにしてるのが。候補地が砂漠の中にあるどでも思ってだんですか」

 男性が握り締めたマイクが小刻みに震える。防衛省幹部らに向けた声に憤りが満ちていた。

 十八、十九日、候補地の陸上自衛隊新屋演習場から約一キロの秋田市勝平地区のコミュニティセンターで開かれた住民説明会。計四回で延べ五百人近くが詰めかけた。甲子園で秋田県代表の金足農業高校が準決勝進出をかけた大一番に挑んだ十八日も多くの人が帰ろうとしなかった。

 日本海に臨む新屋演習場は約一平方キロメートル。金網のフェンスが周りをぐるりと囲む。周辺には民家が密集。約三百メートル先に秋田商業高校があり、そばには小中学校も。さらに三キロ先には県庁や市役所など官公庁区域が広がる。精密機器を使う総合病院もある。

 近隣十六町内会でつくる新屋勝平地区振興会は七月二十五日、配備に反対する決議をした。副会長の五十嵐正弘さん(70)は「『なして、こんた秋田のど真ん中さ造るのや』って、みんな思ってらんだす」。

 地上イージスは、強い電磁波を発するレーダーで上空のミサイルを探知。水平方向に飛ぶ電磁波もある。「子どもが多いでしょ。妊婦さんどが、ペースメーカー使っている人さも、どんな影響が出るのが分がらねすべ」

 説明会では、演習場が見える距離に自宅がある女性がレーダーの最大出力値を尋ねたが、防衛省は「性能を明らかにすることはできない」と回答を拒否。電磁波の影響が及ぶ距離を聞いても、「調査をしながら確かめたい」と繰り返した。五十嵐さんは「モリカケ問題もあったし、まして日報問題でウソついだ防衛省。調査しても都合のいい数字持ってくるに決まってる」と不信感をあらわにする。

 防衛省は当初、レーダーはミサイルの飛来を想定する日本海上空に集中的に向けるとしていた。ところが、参加した男性が「(住宅地のある)東側に向けることもあるのか」とただすと、迎撃や効果の確認までレーダーで追い続ける、と修正。「ミサイルが後方に飛んだ場合、東側に照射することはあり得る。ただ、照射角度はかなり高く、問題ない」と述べた。

 演習場から約五キロの秋田市土崎地区に住む風間幸蔵さん(85)は、敵の攻撃対象になることも恐れる。終戦間際の一九四五年八月十四日夜から十五日未明にかけ、土崎地区にあった製油所が米軍機の空襲で甚大な被害が出た。「イージス・アショアも必ず狙われる」

 防衛省は「そもそも相手にミサイル攻撃を断念させるのがミサイル防衛(MD)システム。皆さんに被害は及ばないようにする」と言うが、説明会では「何十発も同時に撃ち込まれだ時に、全部迎撃でぎるって言い切れるのが」と鋭い声が響いた。

◆防衛省「ミサイル防護に効果的」

 納得しないのは住民だけではない。小野寺五典防衛相が佐竹敬久知事と面会する六月二十二日の前日、防衛省が配備のために必要な測量、地質調査の入札を公告していたことが発覚した。佐竹知事は「不信感がどんどん増す。調査を『可』とはできない」と苦言を呈した。

 地上イージス配備の候補地として新屋演習場の名前が浮上したのは昨年十一月。報道によってだった。

 寝耳に水の秋田県や秋田市は職員を東北防衛局へ派遣したが、「導入自体がまだ決まっていない」と回答を得たのみ。二基導入が閣議決定されたのは、その一カ月後だった。小野寺防衛相が「秋田、山口両県が配備候補地となると考えられる」と初めて言及したのは今年五月だ。

 市議会の自民系最大会派「秋水会」の会長を務める鎌田修悦市議は「報道から約半年間、地元が求めても情報提供は一切なかった。候補地の公表後、選定に関して防衛省から示された資料を見る限り、内容は軍事機密でもなんでもない。住民の反発や不信を招くに決まっている」と批判。

 もう一つの候補地とされた山口県萩市、阿武町の「むつみ演習場」も同様で、突然候補地に挙げられたことに住民らから反対の声が上がっている。

 防衛省の説明はこうだ。まず、日本全土の防衛には迎撃ミサイル「SM3」を搭載したイージス設備が日本海側の陸上に二基必要だとする。北部では北海道南西部と秋田、新潟付近から、西部では九州北部と山口、島根東部付近から絞り込んだ。その結果、配備場所は秋田と山口の組み合わせが「最も広く効果的に防護できる」との結論に至ったという。

 その上で、ミサイルの探知に支障となる山などの遮るものがないことや、レーダーや発射台を置くために一平方キロメートルの土地を確保できることを条件に自衛隊の各施設を検討。秋田県内で唯一当てはまるのが新屋演習場だったというのだ。

 六月の米朝首脳会談を受けて北朝鮮の脅威は和らいだはず。それでも地上イージスに固執する理由を、軍事評論家の前田哲男氏は「北朝鮮だけではなく、中国とロシアのミサイル発射も念頭にある。米国防護の意味合いもある」とみる。「北朝鮮から米本土が狙われた場合はミサイルは北極上空を通過するが、ハワイを狙った場合は日本の東を、グアムを狙った場合は日本の西を通る。秋田がハワイに、山口がグアムに対応している」

 さらに安倍晋三首相が「米国からの武器購入を拡大する」と表明した昨年十一月の日米首脳会談の影響を指摘。「政治的な意向が強く働き、既成事実化した計画が上から地元に押しつけられている」とみる。

 新屋演習場から約一キロに住む佐藤厚子さん(68)は「防衛省は選定する時に何一つ住民のことは考えないでここを選んだ。あとから、住民の生活に配慮すると言われても信用できない」と語気を強め、こう続ける。

 「子どもの未来は、いま住んでいる大人の責任。夕日のきれいなこの町を、軍事基地の町にすることは絶対反対。一歩も譲ることはできません」

 (石井紀代美、皆川剛)