オウム死刑、異例ずくめ 麻原元代表ら7人執行(2018年7月14日中日新聞)

2018-07-14 09:10:02 | 桜ヶ丘9条の会
オウム死刑、異例ずくめ 麻原元代表ら7人執行 

2018/7/14 中日新聞

 オウム真理教の麻原彰晃(しょうこう)(本名・松本智津夫)教団元代表と元幹部の計七人に対する六日の死刑執行は、規模や順番などを巡っても「異例ずくめ」だった。天皇の代替わりや東京五輪などを意識したタイミングとみられ、政治的なメッセージ性をうかがわせる。今回の大量執行は国際的な批判を招いた面もあり、死刑存廃を巡る議論の活性化が急がれる。

◆暗黙のルール 次々と逸脱

 六日朝、テレビ各局の情報番組は、麻原元死刑囚の死刑執行を伝える特番に一斉に切り替わった。

 全員の執行前に「七人の執行が予定されている」と予告され、次々と執行される死刑囚の名前をほぼリアルタイムで伝えた。ひっそりと執行し、事後的に当局が発表する従来の報道とは明らかに異なっていた。

 一部メディアは、死刑に立ち会う職員が東京拘置所に入る姿を撮影。ある局の記者は「遅くとも前日夜には知っていないと撮れない。当局側から何らかの形でリークがあったのは確実だろう」と漏らした。

 死刑執行は、刑事訴訟法で「判決の確定日から六カ月以内」と定められているが、実際には「暗黙のルール」がある。今回はそのルールからも逸脱していた。

 例えば、これまでは死刑囚が再審請求中の場合、執行は控えられてきた。再審を開始するか否かを裁判所が判断するまでは慎むべきだという慣例があった。

 死刑廃止を求める市民団体「フォーラム90」の深田卓氏によると、執行された七人のうち、麻原元死刑囚ら六人が再審請求をしており、そのうち一人は恩赦も出願していた。ただ昨年、再審請求中だった別の事件の死刑囚三人に死刑が執行された。深田氏は「いま思えば、今回の執行のための地ならしだったのではないか」とみる。

 さらに今回の執行は、かつて避けられてきた国会会期中でもあった。二〇〇六年ごろから、この慣例は崩れ始めてはいるものの、現在でもこの期間に執行するケースは少ないという。

 判決が確定した順に執行するという通例にも反していた。今回の執行前の時点で、確定死刑囚は百二十人余り。病気だったり、共犯者が逃亡中だったりといった例外的なケースでは執行が飛ばされるが、麻原元死刑囚らは確定順では四十番目以降。数十人を飛び越えて執行された形だ。

◆「大逆事件」

 一斉に七人という規模も異例だ。連合軍による一九四八年のA級戦犯処刑(七人)や、軍法会議で死刑判決を受けた「二・二六事件」関係者十五人の三六年の処刑を除けば、一一(明治四十四)年に社会主義者の幸徳秋水ら十一人が処刑された「大逆(幸徳)事件」以来の規模だ。この事件は「明治天皇暗殺計画を企てた」とする治安当局のでっち上げ事件だった。

 今回、執行されたのは、いずれも教団内で重要な役職に就いていたメンバーばかり。深田氏は「重要幹部を選んで、まとめて処刑するという現政権の意思がうかがえる」と語った。

◆政治的な意図 指摘の声も

 なぜこの時期に執行されたのか。「平成の事件は平成のうちに終えるという考え方はある」と法務省幹部。二〇一九年には天皇の退位で元号が変わり、新天皇の即位に伴う行事が予定される。二〇年には東京五輪・パラリンピックの開催を控える。上川陽子法相は記者会見で、執行時期や執行する死刑囚をどう決めたかなど具体的な判断の理由については答えなかった。

 ジャーナリストの斎藤貴男氏は「死刑をリアルタイムで見せ物にすることで、国家権力の強大さと毅然(きぜん)とした態度を国民に見せつけた。意図的な公開処刑であり、死刑が政治に利用された」と指摘する。

 思えば、大逆事件の処刑も大正への代替わり直前だった。社会主義者らを弾圧し、体制批判を封じ込める象徴的な歴史となった。

 斎藤氏は一三年、当時自民党幹事長だった石破茂氏が、特定秘密保護法案などに反対する国会前でのデモについて「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログに記したことを振り返る。

 「あれは『体制に歯向かう者はみなテロリストと見なす』という権力側の素直な言葉だった。オウムは政治犯ではない。しかし、事件から二十年以上がたち、反体制運動をまとめて『テロ』と錯誤させても、若い世代には分からない」

 その意味で、今回の執行は現政権が「テロ」の名のもとに、「平成後」の反体制運動に対する姿勢を示威したものとも受け取れる。

 今回の死刑執行を受け、欧州連合(EU)と加盟国などの駐日大使は「極刑の使用に強く反対する」との声明を発表した。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、一七年十二月時点で、法律上もしくは十年以上死刑を執行していない国は、世界の三分の二に当たる百四十二カ国に上る。しかし、日本では内閣府の一四年の調査で死刑を容認した人が八割を超えている。

◆存廃の議論

 日本弁護士連合会の「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」事務局長でもある小川原優之(ゆうじ)弁護士は「死刑廃止は世界の流れで、日本でも存廃の議論を深めるべきだ。だが、政府は今回の死刑執行の理由を説明しておらず、国民が判断できるだけの情報が示されていない」と批判する。

 死刑の存廃議論以前に、一枚の写真が物議を醸している。執行を翌朝に控えた五日夜、自民党議員らの宴会で、笑顔の上川法相が安倍首相の隣で親指を立てている光景が写っている。前出の斎藤氏は「この法相らの姿は人間の命を選別し、利用することを躊躇(ちゅうちょ)しない権力者たちの意識の表れといえないか」と批判した。

 (安藤恭子、石井紀代美)