リニア中央新幹線計画が検証なしで進行している(懸樋 哲夫 リニア・市民ネット)

2013-08-16 16:52:16 | 桜ヶ丘9条の会


8月15日付桜ヶ丘自治連ニュース(桜ヶ丘自治連と称する会が、どのような組織で、誰が選出した役員か、予算の出所、会計など不明だが)に、人口約1万人に達する大型住宅団地のある桜ヶ丘に、超電導磁気浮上式という新幹線計画が存在するので、(既に去年、JR東海によって、幅キロのルートが発表されている。)可児市が作ったリニア中央新幹線対策協議会(桜ヶ丘、久々利、平牧3自治連合会、この組織は、住民の意見も聞かずに、可児市に設けられた、リニア推進を目的としている組織である。)を通じて「市街地を避けたうえで、すべて地下トンネル通過」を骨子として、関係各方面にさまざまな働きかけを行ってまいりました。という。そして、今秋中にJRが一方的に発表するという「環境影響評価準備書に具体的なルートを記載されるから、「桜ヶ丘地区」として独自に対応すべくこの4月に桜ヶ丘自治連として、「リニア中央新幹線専門委員会」を立ち上げて活動を開始したという。しかし、ニュースにも書いてある中津川で行われた説明会では、可児市某市会議員が桜ヶ丘団地を通過することにした理由を聞いても無視された。しかも、この間、岐阜県知事や可児市が疑問点や要望点を意見書としてJRに提出したが、すべて無視され、JR側の一方的な考えが、方法書や環境影響評価書に記載された。要するに通過沿線の住民の意見はすべて無視するということで一貫しているのである。
 リニアの問題点の骨子については、各方面から危惧が表明されているが、「2010年1月 市民科学第28号」に載った、リニア中央新幹線計画が検証なしで進行している(懸樋哲夫 リニア・市民ネット)という論文を転載する。


                                『市民科学』第 28 号(2010 年 1 月)
             リニア中央新幹線計画が検証なしで進行している
                   懸樋 哲夫(リニア・市民ネット)
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R東海が東京-名古屋-大阪を時速500キロ、67分で結ぶというリニア中央新幹線計画を すすめている。2045年開業9兆円という巨大プロジェクトで、当面2025年に東京―名古屋で開 業し、45年に大阪までの延伸を目指している。事業主体のJR東海のみか、沿線都県の議会など ではひたすら推進しようとしていて、誘致活動ばかりが目立っている。
しかし、採算の問題のほかにも、南アルプスにトンネルを掘るという環境破壊、新幹線の 3 倍~ 5倍とも言われるエネルギー消費、電磁波による健康への影響、大深度地下の危険性や技術的 な諸課題があり、どれもクリアできるものとは思われない。

 1.はじめに
2009 年年末押し詰まって、JR東海がリニア中央新幹線の調査報告書を国土交通省 に提出した(12 月 24 日)。この中にはルート別の建設費の合計などはあるものの、推進 する側に都合の悪い情報はまったく書かれていない。諸課題への客観的な評価がされ ないまま進められている事態がある。

 2.採算性について
リニア中央新幹線の建設費(東京―大阪間、中間駅を含む)は約9兆300億円と 公表された。JR 東海はこの計画を単独事業としてすすめている。これまで多くの巨大 公共事業がそうであったようにこの額も最終的には数倍にも膨れ上がるであろうこと は容易に推測できる。単独事業なら公共事業ではないと言いたげだが、そうはいかな い。なぜならJRが国鉄から民間に移行した時、その債務約30兆円は、国家予算に 組み込まれており、今の国の巨額の債務はその相当な割合を旧国鉄の赤字が押し上げ ているからである。
JR東海はまだ 3 兆円余りの借金を抱えている。それは分割民営化の際の新幹線施 設などの買い取りリース代約5兆円を減らしてきたものだということだ。これによっ て在来型新幹線よりも建設費のかかるリニアを、さらにその3倍(最終的には9倍?) の借金をして造るというのである。これが破綻するとJALのように、また国の税金 が投入されるようなことになるだろう。
そもそも採算は採れるのか? リニア中央新幹線は、東海道新幹線のバイパスとして計画されている。だが、建設費だけを取ってみると、リニアはそのガイドウエイがレールではない構造であること やほとんどが地下であるということから在来型新幹線の約3割は高いものになると試 算されている。採算をとろうとすれば、当然乗車料金は相応に高くしなければならな い。東海道新幹線の利用客が横バイなのに、割高な料金を払ってリニアを利用する人 が多くいるとは考えられない。在来線とのアクセスも無い。さらに利用客が減り東京 湾横断道路のようになりかねない。高くても早く走ることを乗客は求めているだろう か。
しかも日本の人口は減っていく。とすれば、東海道新幹線もリニア中央新幹線も、 共倒れになるのではないか。
 
 3.自然環境を破壊する
リニア中央新幹線は、長野県と山梨県の県境である南アルプスをトンネルで貫く案 が有力になっている。南アルプス一帯は世界自然遺産の指定を目指しているほど、自 然環境や生態系が豊かなところだ。そこに長大なトンネルを掘れば、大きな自然破壊 はまぬがれない。
JR東海のプランでは、南アルプスの幅50kmにたいして最長のトンネルで20 kmであり、これは路線が何度も露出することを意味している。南アルプスには中央 構造線や糸魚川-静岡構造線をはじめとする大断層があり、大規模の破砕帯になって いる。JR東海がトンネル掘削のための試掘を行った大鹿村の釜沢地区やその一帯の 鳶ヶ巣、大西山などには、大規模な崩落が今も起こっており、その地盤の脆さを実際 に目の当りにすることができる。こんな危険な所にトンネルを掘るのは無謀というも のである。また数百万tと推測される廃砂土はどこに捨てられるのだろうか。それが二次的な 自然破壊を招く恐れもある。
地震の発生や集中豪雤といった特別な状況のみならず、平常時においてすら、この ような脆弱な地盤に長大なトンネルを掘ることは、高速鉄道の運行上においてもきわ めて危険であると言わざるを得ない。
09 年 10 月、山梨リニア実験線の延伸のためのトンネル工事によって笛吹市御坂町 で水源が枯渇し、住民は「水を返して!」と訴えている。

 4.エネルギーはどうする
JR東海は、リニア中央新幹線に使う電力量も明らかにしていない。「CO2 排出量で 新幹線『のぞみ』の 3 倍で航空機の 3 分の1以下」というアバウトな言い方をしてい るのみである。現在の実験線での実際、あるいは実用線での計算などはまったく公開 していないのである。
やむをえないので、仮にドイツのトランスラピッドを例に試算してみると、東海道 新幹線とほぼ同じだけ走らせた場合、その電力使用量は 544 万kW/日となり、原発 5 基分が必要という(伊藤洋山梨大学学長による計算)。
電力消費については、もう20年も前に朝日新聞紙上で論争があった。元国鉄技師 でリニアの提唱者であった川端俊夫氏は「新幹線の40倍」とし、その浪費構造を批 判、これに対して鉄道総合技術研究所理事長の尾関雅則氏は「東京―大阪間のシステ ム設計では、新幹線の3倍を計画している」と反論している。

リニアは浮上するために出来るだけ車体を軽くし、空気抵抗も減らしたい、という ことで幅を小さくして設計している。この通りに構造的に、または技術的にエネルギ ー消費量を減らせるとすれば、それは、新幹線の技術でもほとんど同様なはずであり、 電力消費量が数倍であることに変わりはなく、いずれにしても過剰なエネルギー浪費 なのである。

東京電力は柏崎原子力発電所から山梨に超高圧100万ボルト送電線を引き、リニ アの電力需要にも対応する、としている。これは大地震でストップする前のことでは あるが、原発建設が猛反対に会う中で、リニアが電力需要のひとつとして原発増設の 理由とされたのであった。

 5.電磁波の影響は
リニアは磁気の力により走行するため、乗客のいる車内の空間にも強い磁場が生じ る。国立環境研究所が平成17年に出した報告によれば、実験線の場合床上で600 0~40000ミリガウスにもなる。

この電磁場の健康影響については、高圧線など電力設備の場合、4ミリガウスの居 住環境で小児白血病が2倍とする報告が同研究所から出されており、海外でも繰り返 し同様の報告がされている。この結果は偶然とは思われない、というWHOの見解も ある。
リニアの磁場はその1万倍にもなる強さだということになる。経済産業省で検討さ れている電力設備による磁場の規制値は、1000ミリガウスあたりを予定していて、 これも非常に甘い数値だが、リニアはこの数値さえも大幅に上回ってしまうことにな る。
「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」が 2009 年7月に出した「実用技術評 価」によると、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインを規制 値として使用し、それを下回っている、と書いている。しかしリニアが実験線でも具 体的にどこにどれだけ磁場を発生させているかの数値はまったく記載されておらず、 「静磁界について規制値案の3%、変動磁界について規制値案の34%」(図表)とい う記載のしかたをしている。「規制値案」にもいくつかの計算式があり、それのどれに 適用して34%なのかも判然とせず、「磁気シールドについては効果の解析とそれを実 現させる設計が可能であることが既に山梨実験線で実証されている」などと空虚な文 言ばかり連ねあいまいな記載でごまかそうとしている。
JR東海はこのように実際の車内などの電磁場強度を具体的に明らかにしないまま 公開の議論を避け、計画を推し進めているのである。リニアはプラス・マイナスを高速で繰り返すことによって推進力をもたせることか ら変動磁界が発生することになり、その周波数もスピードによって異なり、早くなれ ば周波数が高くなっていくしくみのはずだ。本来は電力設備で問題になっている2~ 4ミリガウスのリスクについてクリアできないことを問題にすべきところなのだが、 この数値レベルは議論のあるところなので、仮に百歩譲って、報告書で引用されてい るICNIRPのガイドラインを使うにしてもリスクを受け止めた正当な適用をすれ ばリニアも運用丌可能になる。だから検証もなし、基準作りもせず、基準値のない現 状をいいことにリニアの推進をしているかのように見受けられる。


またリニアが実用されると乗客はホームでもガイドウエイから強い磁場をあびるこ とになる。乗車中や乗降時の電磁波を浴びないようにすることは丌可能であり、この 事実を明らかにした上で安全性の論証をしなければ、公共交通機関の計画として失格 と言わざるを得ない。

 6.技術に不安はないか
1991 年 10 月 3 日に、宮崎実験線で車両が全焼する事故が起こった。そのため車両 を強化プラスチックから金属に変えたが、ガイドウエイの中に車両を納めるという構 造は変わっていない。つまりもし何かトラブルが発生した場合、ガイドウエイが障害 となって敏速な対応が難しいと考えられる。
ほとんどがトンネルの中を走行するリニアは、もし何らかの故障や事故が起こった 場合、指令所では位置確認できない可能性すらあり、脱出口もなく乗客の救出もまま ならないということになる。
また地震の時など、ガイドウエイに破損、故障があった場合、簡単に修理ができず、 復旧に長期間を要する。複数の列車が止まった場合は、車両の牽引さえできないこと になる。大深度地下利用が計画されているが、地質は深いほど岩質が硬くてもろく危 険性が増す、との指摘もある。また修復工事などの場合、かなりの手間や費用がかか ることになるだろう。

 7.地域が振興せず、衰退する
リニアで地域が活性化すると言われている。しかしこれまでにこうした大規模なプ ロジェクトで、例えば、本四架橋や東京湾アクアライン、全国津々浦々の道路や空港、 また新幹線を全国に走らせた結果、地域や地方が活性化したことがあっただろうか。 いまその赤字の解消も出来ず、破綻状態のものが大半ではないか。むしろいわゆるス トロー効果により東京や大阪などの大都市に人口が集中し人をとられた地方はますま す衰退の一途だ。地方や地域は、かえって丌便であるからこそ魅力が生まれるという ことさえある。高速道路、高速鉄道は、地域振興ではなく、むしろ地域衰退を招いて いると言える。8.JR東海の情報公開について
JR東海は以上のようなリニアの問題について、重要な情報をほとんど出していな い。財源、エネルギー、電磁波など詳細がいっさい分らない。

 09年2月に結成された「リニア・市民ネット」も、09年7月15日にJR東海 に対し、11項目に及ぶ質問書を提出した。しかし回答は、それらに何ら答えること なく、「必要な情報はホームページなどで提供している」というものだった。しかしホ ームページに、私たちが期待しているような情報など全く見られない。これは市民と の議論を拒否し、情報をひたすら秘密にしようという態度である、と言わざるをえな い。
 以上、私たちは今、詳細については推論をベースにした批判をせざるを得ない部分 もあるが、本質的にリニア計画が無謀で現実性のない計画であることは明白である。
以上の内容は、橋山禮治郎(明星大学教授)、伊藤洋(山梨県立大学長)、川村晃生(慶 応大学教授)河本和朗(中央構造線卙物館)、らの講演、または資料等の内容をもとにまと めた。