奇跡への絆

図師ひろき

可能・・・可能・・・

2010年03月12日 18時53分54秒 | Weblog


 名古屋のおじが帰省したので、一緒に食事をしてきました。

 おじは64歳で無職でしたが、昨年暮れにハローワークで職探しをしていたところ、学費が免除となる介護ヘルパーの養成課程があることを知ります。

 一念発起して、それから3ヶ月間専門学校に通い、現場実習を経て、今年2月に見事免許を取得しました。

 素晴らしい根性です!

 学校での授業内容や実習での出来事を話すおじの瞳は、活き活きギラギラしていました。

 その瞳が潤み、声を詰まらせる話がありました。

 その話とは、訪問介護実習の際、50歳代でありながら脳血管障害により介護度5(寝たきり)の男性の介護補助をさせていただいた時のことでした。

 「主人は気難しく、話をすることができないので、どう接していいか分からないことがあるんですよ・・・」

 と、家族から聞かされていたにもかかわらず、おじは持ち前の明るさで、その方とのコミュニケーションを図ろうとします。

 いくら話しかけても無反応であったようですが、大阪に住んでいた時の話を始めると、その男性が首を振ったり、言葉にならない発語をされたりと反応が返ってくるようになったそうです。

 「道頓堀のネオンが懐かしいなぁ・・・」

 「梅田ではかなり飲み歩きましたわぁ・・・」

 話が色を帯びてくるにつれ、その男性の表情もほころび、言葉は交わせずとも打ち解けることができたのでした。

 その男性は倒れられる前、大阪で営業の仕事をされており、おじの話は家族との会話ではすることのなかった内容がたくさんでてきたようで、意気投合されたようです。

 その光景に家族も喜び、感謝されたのですが、おじは実習生です。

 訪問でお世話できるのは1日だけです。

 おじも後ろ髪を引かれたらしく、引率の先生に

 「実習が終わっても、ボランティアで訪問させてもらうことは可能ですか?」

 と、尋ねると先生は

 「実習中はもしもの時にために民間保険に加入しているけど、実習以外は適応されないから、許可できないね・・・」

 「そこをなんとか・・・許可してもらえませんか!」

 と、食い下がっても先生から許しはでませんでした。

 すると、その会話の後ろから

 「可能・・・可能・・・」

 と、声がしました。

 振り返ると、寝たきりで言語障害もあると思われていた、その方からの発語でした。

 「何年ぶりに、主人の言葉を聞いたでしょう・・・」

 家族は泣き崩れ、男性はおじの方を向いて、うなずきながら

 「可能・・・可能・・・」

 と、繰り返されたそうです。

 それでも残念なことに、ボランティアの許可はでませんでした。

 帰り際、おじは約束をします。

 「資格を取ったら、必ず最初に会いに来るからね!」

 そして2月に資格を取って、おじとその方は再会を果たしたのでした。

 その話を聞きながら、涙はポロポロ、鼻水はズルズル・・・食事どころではありませんでした。
 
 おじは資格取得後も就職をせず、ボランティアと現場実習を続けています。

 「俺にはまだ経験が足りん。

 特別養護老人ホームやら、老人保健施設やら、障がい者施設をまわって、自分に何ができるか、どこが適しているか、動きながら考えてみるわ。」

 カッコいいおじを、誇りに思います。 


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