「マインドフルネス」は、アメリカ精神医学会が推奨している、ストレス対処法の一つです。
呼吸を意識、「今」に集中 うつ病治療で注目
2016/8/9 日本経済新聞
マインドフルネスの訓練で一般的なのが呼吸に集中しながらの瞑想だ。座禅を組むなどして、呼吸に意識を集中させる。
途中で様々なことが頭に浮かぶが、気にせず再び呼吸に意識を戻す作業を繰り返す。
これを1日10~30分、3~7週間続けると思考や感情をコントロールしやすくなるという。
そのほかに心に浮かんだことを言語化する「ラベリング」、それをひたすら紙に書き続ける「ジャーナリング」、
食べ物の味や舌触りをじっくり観察する「イーティング」がある。
いずれも自分の思考や状況を客観的に捉え「今」に集中する癖をつけるのが目的だ。
生産性を高める研修ではビジネススキルに関するものが多い。
しかし、「それよりコンピューターの基本ソフト(OS)に相当する、
人間のより深い意識からバージョンアップさせる訓練が必要」と
企業向け研修を手がける一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュートの荻野淳也代表理事は話す。
マインドフルネスはうつ病治療などに役立つとして学会が立ち上がっている。
早稲田大学の熊野宏昭教授の研究では、マインドフルネス瞑想が脳の血流量を変化させることがわかっている。
治療にマインドフルネスを活用している赤坂クリニック(東京・港)の貝谷久宣医師は
「人間が考えることの9割が過去に関すること」と指摘。
「無駄な思考をやめれば、そのエネルギーを前向きなことに使える」と話す。
マインドフルネスは脳を効率的に使う方法でもあるのだ。
マインドフルネス 鍛えよ、社員の集中力
企業、瞑想を研修に活用
2016/8/9 日本経済新聞
最近、人材開発分野で注目を集めている言葉が「マインドフルネス」だ。
瞑想(めいそう)などをベースにした心のエクササイズの一種で、集中力の向上やストレス軽減が期待されるという。
米IT(情報技術)企業が相次いで社員研修に採用し、近年は日本でも広がりを見せている。
いったいどのようなものなのか、実際に導入した企業を取材した。
「頭に浮かんだことを心の中で言葉にし、そっと頭の中から捨てる作業を繰り返しましょう」――。
7月下旬、東京・六本木にあるヤフーのオフィスの一角。ガイド役の合図で、車座になった8人が静かに目を閉じた。
ヤフーは自己研さんのための社内組織「Y!アカデミア」で、2015年からマインドフルネスを研修に取り入れている。
この日は全7回のうち5回目の研修で「ラベリング」を行っていた。
ラベリングとは心に次々と浮かぶ気持ちなどを言語化する訓練。
「いま眠いと思ったな」「メールしなきゃと考えたな」など自分の思考や感情を言葉にしていくと、
リラックスしてくるという。
ヤフーがマインドフルネスを導入したのは仕事の効率改善のためだ。
従業員の多くは常に複数の仕事を抱え、ともするとあっちもこっちもと同時進行させがちだが、
こうしたマルチタスクは非効率とされる。
「自分の置かれた状況を客観的に捉え、仕事に優先順位をつける能力が養われれば、
効率よく仕事ができる」とY!アカデミアの伊藤羊一本部長は話す。
研修への参加者は毎年度10人ほど。
参加者の一人、塚穣さんは「以前は怒りやイライラなど感情に任せて行動していたが、
感情が高ぶった際もほかに取るべき行動を考える余裕ができた」と効果を実感する。
クレディセゾンも15年から試験的にマインドフルネスの研修を導入している。
昨年実施した1泊2日の研修には24人が参加し理論と実践を習得。
合宿以外に2~3時間のセミナーを開催しているほか、子供を持つ従業員の集まりなどでも自主的に行っている。
すでに約120人が体験するなど従業員の間でも効果が実感されているようだ。
人手不足もあり、企業が業績を上げるには従業員一人ひとりの生産性向上が不可欠だ。
クレディセゾンの松本憲太郎戦略人事部長は「販売やマーケティングなど事業戦略だけでなく、
社員に能力を発揮させる取り組みが重要になってきている」と導入の理由を語る。
マインドフルネスの効果は脳科学でも解明が進んできたが、
業績への具体的な効果が目に見えにくいため導入には依然慎重な企業が多い。
ただストレスチェックの義務化なども背景に、健康経営の一環として取り組む企業は徐々に増えていくとみられている。