中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

安全配慮義務(続編)

2012年06月12日 | 情報
以下に、安全配慮義務に関係する裁判例、判例の、ほんの一部を引用します。

電通事件(最高裁第二小法廷判決 H12.3.24)
過労による自殺を初めて労災認定しました。
第1審で、「常軌を逸した長時間労働」による過度の疲労と、うつ病・自殺との因果関係を認め、
企業に対し、損害賠償1億2600万円の支払いを命じました。
第2審は、本人の状態に対する措置を取らなかったとして両親に過失を認め、3割を減額する判決が出ましたが、
最高裁にて過失相殺は違法とする、差し戻し判決が下され、その後、和解が成立しました。
和解内容は、1審判決が命じた賠償額に利息を加え、労災保険給付金の一部を差し引いた額、
約1億6,800万円を両親に支払い、謝罪するというものでした。
賠償額の約1億6,800万円は、現在も我が国における最高額です。

オタフクソース事件(広島地裁判決 H12.5.18)
同じく過労自殺の当事件では、地裁で1億1000万円の損害賠償命令が出されました。
その後、上記電通事件の判決を受けて、高裁にて和解が成立しています。

横浜南労基署長事件(最高裁第一小法廷判決 H12.7.17)
支店長付きの運転手として支店長の業務の都合に併せて不規則な運転業務に従事してきた被災者は、
早朝に支店長を出迎えに行く途中、激しい頭痛に見舞われ、救急車で病院に搬送されましたが、
くも膜下出血と診断されて休業しました。横浜南労基署長に対し休業補償給付の請求をしましたが、
業務との因果関係が認められず、不支給処分とされました。
このため、被災者がこの不支給処分の取消しを求めて裁判を起こしました。
最高裁では、被災者が発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷が、
被災者の基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったとみるべきであって、
業務と発症の間に相当因果関係の存在を肯定することができるとして、事業者の安全配慮義務違反が認められました。
長期間の過重な業務を判断要素として採用すべきであるという最高裁の考え方は、
その後、認定基準を改正する端緒となった重要な判決です。

システム・コンサルタント事件(最高裁第二小法廷判決 平成12.10.13)
ソフト開発会社で、コンピュータソフトウェア開発に従事していた33歳の従業員が、脳幹部出血により死亡した事例です。
相続人らが会社に対し、これは過重な業務に従事したことが原因の過労死であり、
同社には安全配慮義務を尽くさなかった債務不履行がある旨主張し、
逸失利益・慰謝料等の損害賠償を求め、第2審で3,200万円の損害賠償責任が認められました。 
判決では、「労働者が自身の健康を自分で管理し、必要であれば自ら医師の診断治療を受けることは当然であるが、
使用者としては右のように労働者の健康管理をすべて労働者自身に任せ切りにするのではなく、
雇用契約上の信義側に基づいて、労働者の健康管理のため安全配慮義務を負うというべきである」と示しています。

川崎市水道局事件(東京高裁判決 H14.3.25)
上司3名の職場いじめにより職員が自殺した事件で、
判決では、被告川崎市の安全配慮義務違反と自殺との相当因果関係が認められ、
国家賠償法に基づく2,100万円の損害賠償命令が下った事案である。

前田道路事件(松山地裁判決 H20.7.1)
上司から執拗(しつよう)にしっ責されたことが原因で自殺したとして労災認定された
営業所長の妻らが、同社に慰謝料など1億4500万円の損害賠償を求めた訴訟です。
男性は2003年4月に愛媛県内の同社営業所に赴任し、上司から「所長としての能力がない」などと
繰り返ししっ責され、同年9月に自殺しました。
松山地裁は、過剰なノルマの強要や叱責が、会社側の安全配慮義務違反であることを認めましたが、
その一方で、男性に対する叱責は、本人が行った不正経理に端を発するものであること、上司に不正
経理を隠匿していたことがうつ病発症に影響したことが認められるので、
男性に6割の過失(過失相殺)があるとして損害額を計算し、計約3100万円を支払うよう同社に命じました。
なお、パワーハラスメント(職権による人権侵害)による自殺を巡る訴訟で損害賠償を認めた判決は、
当時としては異例でした。

ニコン・アテスト事件(最高裁第二小法廷判決 H23.9.30)
光学機器大手ニコンの工場に派遣された男性(当時23)が99年3月に自宅マンションで自殺した事件です。
男性の母親が、自殺したのは過労が原因だとして、ニコンと派遣元の請負会社「アテスト」(名古屋市)の両社に
約1億4千万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は、両社の上告を退ける決定をしました。
この結果、労働者に対する安全衛生管理の実態からみて、派遣元、派遣先の双方の事業主に、
安全配慮義務違反があるとして、両社に連帯して約7千万円の賠償を命じた、二審・東京高裁判決が確定しました。
派遣元と派遣先双方の会社を相手取って損害賠償請求の訴えを提起したものは、今回が初めてです。
なお本事件は、偽装請負の事案で、派遣先で働いていた労働者がうつ病自殺をしたというものです。










 
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