
ブルー・オーシャンのW・チャン・キム とレネ・モボルニュ の新しい本である。
既存の業界を破壊せず、外側にまったく新しい市場を創造する「非ディスラプティブな創造」の追求、すなわち、「ディスラプションなき市場創造」こそが、これからのイノベーションと成長の目標だと説く新境地の展開で非常に興味深い。
disruptionとは、破壊とか崩壊と言う意味で、経済学では、イノベーションによって新規市場が生まれて既存市場とそこで活動する既存プレーヤーに取って代わる場合を言う。著者は、disruptionを、ローエンドやボトムアップから起こると説いたクリステンセンと違って、新製品や新サービスがハイエンドとローエンドの両方において旧来のものに取って代わる形態の現象を表すとして、一般化して論じている。
今回、新しく論じているのは、このdisruptionを伴わない「非ディスラプティブな創造」、すなわち、企業の破綻、雇用の喪失、市場の荒廃と言ったディスラプションを引き起こさずに、新たな産業を創出する、何もなかったところに新たな市場を創造する市場創造型イノベーションについてである。
非ディスラプティブな創造とは、「既存の産業の外側における、あるいはそれを超越した、全く新しい市場の創造」と普遍的に定義できるとしている。
例証しいているのは、生理用パッド、マイクロファイナンス、セサミストリート、ポスト・イット、バイアグラ
全く、かって存在しなかった無市場、無消費の業態である。
それでは、これまで論じていたブルーオーシャンの創造とはどう違うのか、
ブルー・オーシャン戦略は、新市場開発イノベーションだが、既存業界の境界を越えて新市場を創設して、ディスラプティブな成長と非ディスラプティブな成長を混在させる成長で、非ディスラプティブとディスラプティブの中間に位置する混在形態である。と言う。
例えば、ウーバーvsタクシー、アマゾンvsリアル書店を考えれば分かるが、ウーバーとアマゾンはブルー・オーシャンだが、旧来勢力をディスラプティブしてはいるが、必ずしも完全に、タクシーやリアル書店に取って代わっているわけではない。QBハウスも既存理髪店との競合であるし、スターバックスも既存の喫茶店と共存している。
イノベーションの父と呼ばれるシュンペーターが「創造的破壊」論を展開した。「創造的破壊が起こるのは、新規市場を創造するイノベーションが既存市場を破壊しそれに取って代わる場合だ」と言うものであった。
シュンペーターにとって経済成長の真の原動力とは、新しい種類のテクノロジー、商品サービスを生み出す市場創造型のイノベーションであった。創造的破壊は、創造と破壊は切っても切れない関係にあって、創造的破壊は絶え間なく古いものを破壊して新しいものを創造するするという概念であった。
しかし、著者は、シュンペーターやクリステンセンを超えて、既存産業や既存企業を破壊しない、ダメージを与えない、完全に新規な経済活動を生み出す「非ディスラプティブな創造」を論じているのである。
一頃、バイブルのように脚光を浴びて一生懸命に学んでいたマイケル・ポーターの経営戦略や競争戦略論が、今昔の感であるのが面白い。
極めて貴重な提言の数々、
論点などは後述したい。