熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日立製作所大丈夫か?イノベーションからリノベーション?・・・篠本学副社長

2008年07月21日 | イノベーションと経営
   uVALUE CONVENTION 2008 の基調講演「新たな協創がひらく情報社会ルネサンス」で、日立製作所の篠本学副社長が、”新たな協創”のかたちと言う日立の戦略の一つとして、「イノベーションからリノベーションへ」と言うタイトルを打ち出した。
   日立の情報誌Uvalere11号の、篠本氏と、このアイデアをインスパイアした建築家の隈研吾氏との対談で、リノベーションと言う言葉をカッコ書きで、刷新、改修と言う説明がなされているので、googleで検索すれば、分るように、日立の認識も、中古住宅やマンションのリフォーム・改修に近い概念のようである。
   この肝心のリノベーションと言う言葉について、篠本氏の説明も、この小冊子の説明も、何を意味するのか判然としないのだが、建築分野で言うリノベーションは、普通にはリフォーム・リモデリングに近い概念である。
   建築家の隈氏の場合には、20世紀の力で押し切ってきたアメリカ型の近代的な新開発や能動的設計手法に対する反発に近い古い価値観を取り戻そうとする、いわゆる、再生、よく言えばルネサンスと言った感じの考え方で分らない訳ではない。
   しかし、これに近い概念であっても、リノベーションを、イノベーションよりも上位に置いた経営を日立が志向すると言うのであるから、話が全く違ってくる。

   イノベーションよりリノベーションと言う説を本格的に論じた経営学書は、ニュー・コークを打ち出して一敗地に塗れた元コカコーラのCMOセルジオ・ジンマンの「そんな新事業ならやめてしまえ! RENOVATE BEFORE YOU INNOVATE」であると記憶しているが、これについては、本ブログ2006.4.18で論じた。
   この論旨とは、ニュアンスが相当異なっているものの、このジンマンの戦略ならまだしも、
   ハイテク日立が、それも、ユビキタスIT社会を目指して経営戦略を打とうとしているグローバル企業日立が、イノベーションを軽視して、刷新、改修を企図したリノベーションを首座に据えた経営を志向すると言うのは、正気の沙汰とは思えない。

   誤解のないように、前述の対談記事から、篠本氏の説の概説を試みると次のようになろうか。
   IT分野のモノづくりでは、イノベーションによって過去からの流れを一旦断ち切って、全く新しいモノで市場を席巻してゆく戦略が主流で、個々の製品を考えて行く上では、過去の発想を変えて、全く新しいモノをつくるイノベーションが大切である。
   しかし、これからは、一社や一製品だけが市場を制覇するのではなく、社会にある多様な製品・技術と融合しながら、人々の役に立つITが求めれており、IT事業の形も、社会の歴史や周囲の環境との連続性を大切にするリノベーションが重要になる。
   人に意識させずに安全や安心、快適さなどの価値を提供出来て初めてITは本当に人に役立つのであって、ITを意識させるのは、IT本来の有り方ではない。
   イノベーションにより市場を独占しようとして生まれたモノ単体ではなく、周囲との繋がりの中で、社会にある多様な技術や製品と融合した新しい価値を生み出して行くことが大切となり、ビジネスのあり方も、エンクローズ社会を超えて、企業が協調しながら働く協創型、農耕社会型へと転換して行く。

   問題は、笹本氏の問題意識はほぼ同意出来るのだが、肝心のイノベーションとリノベーションの言葉の意味、認識が、全く常識はずれと言うか、分っていないところにある。

   まず、イノベーションを、過去の流れを断ち切った新しい発想の全く新しい製品で、これが市場を占拠・独占する所に問題があると言っているのだが、これは、恐らく、インテルやマイクロソフトなどを考えてのことであろうが、IT産業は、弱肉強食で生き馬の眼を抜くような果てしないイノベーションの連続で発展し、これらのイノベイティブな企業あってこその今日のIT産業と繁栄したグローバル社会である筈。
   それに、イノベーションとは、何を意味するのか、このブログでも随分論じてきたが、シュンペーターやドラッカーを読めば、イノベーションとは、あらゆる新機軸の融合・集積等による創造的破壊であって、人類の繁栄も、国家の繁栄も、企業の繁栄も、須らくこのイノベーションが根幹であることが分る筈だし、
   そして、この変転極まりないグローバル時代において、イノベーションを企業戦略の首座に据えて経営を行えないような大企業があるとするなら、天然記念物だとしか思えない、と言うコメントだけで十分であろう。

   リノベーションについては、篠本氏が論じている手法が、何故、リノベーションと呼べるのか、どんな辞書や事典を引いても該当せず、全く、意味不明である。
   ジンマンは、リノベーション(本業の見直し・改善etc)とは、既存の資産と事業能力を利用して何か別のことをするのではなく、顧客が本当に望む商品やサービスを提供し、企業のコア・エッセンスと顧客との間に確立された関係を活用して、それらの経営資源を利用して優れたことをすること、企業の基本的な部分には手をつけないでグレードアップすることである、と言っている。
   ジンマンは、イノベーションの典型だと言われているiPodをリノベーションの成功例としており、このあたりの経営戦略・戦術等の考え方で、イノベーションとリノベーションの境が不明瞭だが、
   リスクの高いイノベーション戦略を取るより、企業の持てるコア・エッセンスである強みを活用してリノベートすべきだと言う経営論は注目に値する。
   (しかし、あくまで、アグレッシブなブルー・オーシャン型企業戦略ではない。)

   尤も、篠本氏の論旨は、「新たな協創のかたち」の中で、イノベーションからリノベーション、勝つ建築から「負ける建築」へ、情報社会ルネサンス、へと話が展開しているので、あくまで、コラボレーションによる価値の創造と言うところに重点があるのだろうが、これだけ、世界中がイノベーション、イノベーションと熱狂している時代に、イノベーションを企業戦略から外して、意味不明のリノベーション論を掲げてIT社会を論じるなどは、やはり、情報・通信部門だけに天然記念物である。
   

(追記)この後、数回にわたってインテルの経営について、テドローの著書を引いて書くが、日立のリノベーション構想が如何に、敵前逃亡、消極的かと言うことが分って貰えると思う。
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