熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

新日本フィル定期公演・・・崔文洙のショスタコーヴィッチ「ヴァイオリン協奏曲第2番」

2008年07月20日 | クラシック音楽・オペラ
   今回の演奏会は、アルミンクの標題シリーズ「抵抗」の最終公演で、ショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲第2番を、コンマス崔文洙が熱演した。
   ヴァイオリン協奏曲第1番は、結構聴く機会があるが、この第2番は珍しいようで、私も初めてではあったが、オイストラフに奉げられたとかで、ソ連で学んだ崔にとっては、直伝に近い自信からか、実にダイナミックで朗々と歌わせていて感動的であった。
   尤も、ショスタコーヴィッチもオイストラフも1975年と74年に亡くなっているので崔との直接的な出会いはなかったであろうが、崔の言葉によると、その頃のソ連の音楽教育は、ショスタコーヴィッチの理解と言った次元ではなく、「心の叫び」の代弁であったと言うから凄い。

   ただ、ショスタコーヴィッチの音楽を聴くと何時も思うのは、作曲者の本当の命の叫びや発露ではなくて、イデオロギーなど訳の分からない論理で捻じ曲げられた音楽ではないかと思ってしまって、どこか痛々しさが拭いきれず冷めた気持ちで聴いてしまうことである。
   実際に、ショスタコーヴィッチの場合には、何度も権威筋から書き直しを命じられているし、西に亡命したロストロポーヴィッチ等の本を読んでいると、如何に、音楽に対する政府の介入が酷かったか、暴露されていて痛々しい。
   私の場合、オイストラフの演奏を実際に聴いたのは、兵庫県の宝塚劇場であったが、幻のピアニスト・リヒテルのコンサートを聞いたのもずっと後であったし、モスクワ音楽院で出来の悪かったのが文部省の役人をしていたので、卓越したソ連音楽家に対する嫌がらせが熾烈を極めたと言う。

   あのアドルフ・ヒットラーが、2度までウィーンの美術学校の入学試験に落ちたようで、残っている絵の出来も極めて稚拙だが、このヒットラーが絵画については変質狂で、豊かなユダヤ人達等から絵画を略奪するのは序の口、また、パリなどヨーロッパ各地、それに、スターリン等とは凄まじい絵画略奪戦を行ったが、何故か、芸術は権力と戦争には限りなく弱い。

   ところで、このショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲だが、やはり、金管や打楽器が咆哮する派手な、大向こうを喜ばせるような曲想で、オーケストラのダイナミズムの面白さと音の饗宴には、それなりの楽しさがあるが、アルミンクが「抵抗」の演題に選択した気持ちが分るような気がした。

   崔のヴァイオリンは、やはり、盟友のアルミンクの指揮で、それに、気心を知りすぎた同僚のバックによる演奏で、最初から最後まで、水を得た魚の如く自由奔放に駆け回って、正に、熱演であった。
   崔のソロについては、これまでも、コンサートのヴァイオリン・ソロのパートを何度も聴いているので慣れているが、やはり、新日本フィルをバックにすると冴え渡る。
   この後、万雷の温かい拍手に気を良くして、崔文洙は、アンコールで、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 フーガ」を実に丁寧に演奏した。
   これは、崔の新日本フィルの熱心なファンに対する心からのお礼と感謝の気持ちが籠もっていて感動的でさえあった。

   私は、昔のフィラデルフィアでのオーマンディの定期演奏会風景を思い出した。
   フィラデルフィア管弦楽団の本拠地アカデミー・オブ・ミュージックでの演奏家は、オーマンディにとっては特別な気持ちの演奏会で、何時も、熱烈な支持をしてくれているホームグラウンドのお客さんに対して、日頃の研鑽を披露して楽しんで貰うと言う思いが強かったように思う。
   良く演奏会後に、楽屋に出かけて、オーマンディに話を聞いたりサインを貰ったりしていたが、詰め掛けた熟年のファン達に対する好々爺ぶりとその交流は実に感激的であった。

   ところで、この日は、ウィリ作曲「永劫~ホルンとオーケストラのための協奏曲」が、ベルリン・フィルのシュテファン・ドールのホルン・ソロで、日本初演された。
   最後は、アルミンク指揮によるベートヴェンの「交響曲第2番 ニ長調 作品36」。
   素晴らしい演奏であったが、神妙な面持ちでジッと客席の反応を確かめるように見ていたアルミンクの顔に、無事、シーズンをやり終えたと言う安堵の気持ちが静かに浮かんで丁寧にお辞儀をしたのが印象的であった。
   5年のシーズンを終えたアルミンク。お辞儀の仕方も、日本の女性のように膝に丁寧に手を置いて深く腰を折るようになっている。



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