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1991年末にソ連が崩壊したが、その直前に、中大研修生として来日し、その後経済博士号を取得して日本に帰化したロシア婦人が書いたのがこの本。
殆ど崩壊に直面していたロシア経済の生々しいレポートから書き起こしていて、女性としての心配りとキメ細かさを匂わせたロシア生活を交えたドキュメンタリータッチの現在のロシア論で、経済専門家としてのロシア政治経済報告もビビッドで非常に面白い。
昔、石油危機の時代に、日本でもトイレットペーパーが、スーパーから完全に消えたことがったし、ブラジルでも激しいインフレと品不足で、スーパーの棚が殆ど空っぽになったのを見ているが、毎日長蛇の列でも買い物が出来なかったと言う、ソ連時代の末期のソ連経済の惨状は、筆舌を尽くし難い状態だったと言う。
冷戦時代に、アメリカと覇権を争った超大国ソ連が、戦争や天変地異と言った大異変に遭遇したわけでもないのに、大恐慌より酷い経済状態に陥り、更に、98年ににも、アジア通貨危機のあおりを受けて、通貨危機に突入して国債利回りが100%超、デフォルトを宣言、ロシアの終わりという瀬戸際までに至った。
ところが、デフォルトで国際社会の信用を失墜して前途を危ぶまれたロシアが、この危機状態から、奇跡の回復を遂げた。
焼け跡状態になっていたロシア経済を回復させ、国民の心をいやしたのは、何と、石油価格の高騰だったのである。
2年も経たない間に、ロシア経済は回復し、プーチンが大統領に就任した時点では、財政も黒字転換、危機以前には想像もつかなかったような好景気を享受した。
この本の帯の如く、ロシア経済を救ったのは、ロシア人自身ではなかったのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/88/615eaa72684bc2ecd644985b552327e6.jpg)
新生ロシアは、1992年、IMFの指導下で、資本主義経済化を図ったのだが、旧体制の制度を維持したまま、経済転換を進めたために、マヒ状態であったのが、マクロ経済の好転で、プーチンは構造改革に積極的に取り組むことになった。
しかし、ロシア経済は、4割が統計で把握できない闇経済だと言うことであり、その上に、税制の複雑さはともかくも、企業も国民も税金を払わずにすむ「スキーム(知恵を絞って得をする)」を考えるのに必死だと言うから、石油価格高騰による好景気が、逆に、公務員の汚職をも増進して、行政の品位が高まる筈がないと言う。
ロシア経済で最も重要な問題は、税制改革で、透明性を高め、税の負担を軽くし、税金の比重をエネルギー、資源輸出企業にシフトさせることであった。
この実行によって、所得税と資源使用税の徴収が増加し、法人税のGDP比率は減少し、税負担は、製造業から石油天然ガス鉱石等の一次産業へシフトしたと言う。
収入隠しをなくすために、個人所得税を軽くすることで、徴税額が増えたと言う。
深刻な問題は、行政手続きの非効率と官僚の汚職で、ロシアの官僚の質の悪さは、BRIC'sのみならず、途上国でも、断トツに悪い。
ドラスティックな規制緩和や行政の簡素化等など役所の体質改善プログラムを推進しても、執行者であるお役所の体質が変わらない限り状況は良くならず、ロシアの行政改革は、中々終わりそうにない。
車通勤などでは、理由もないのに頻繁にお巡りさんに止められて、金すなわち一寸した賄賂を払わないとしょっ引かれるとかで、これが副収入となっていて、他の役所も似たり寄ったりだと言うから、無理に、お役所仕事を複雑に非効率にしているとしか思えない。
これは、随分前の話ではあるが、私がブラジルで経験したのと全く同じである。
インフラの未整備、税制の複雑性と高率、労働問題の頻発、行政の非効率等々、過重なブラジルコストとして外資がブラジルを避ける要因だが、これとまったく同様のロシア・コストがロシアに存在しているようで、その上に、透明性やオープン性がもっと希薄なロシア政治経済社会であるから、外資のカントリーリスクは、高くなるのであろう。
ロシアの今後については、政府も意識的に、オランダ病を避けるために、石油や天然ガスなど一次産業依存から脱却すべく、経済発展計画を推進しているようだが、やはり、ロシア経済の活性化のためには、最大の課題は、民間の力を如何に伸ばして活用するかであろう。
ところが、共産主義的な計画経済の名残であろうか、経済的な政策や権力は、益々、中央政府に集中しているようで、肥大化する「クレムリン株式会社」の様相を呈していると言う。
政府の投資ファンドの創設や、インフラ事業や経済特区の事業、ロシア企業の海外事業、ベンチャー企業等への投資を目的として設立されたロシア開発銀行などに、膨大な資金が投入されるのだが、心配なのは、汚職の改善どころか、汚職しやすい職務のリストを作るのではないか、汚職塗れの役人にこれだけ巨額の資金を預けて大丈夫なのか、と著者が按じているのが面白い。
これまで、このブログで、何度かロシア経済に触れて、例えば、
ダレン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソンの「国家はなぜ衰退するのか」の第五章「収奪的制度のもとでの成長」で、収奪的制度のもとでも、経済は成長するが、その成長はいずれすぐに終息して、経済は一気に沈滞してしまうと言うプロセスを、ソ連を例にして語っていた。のを紹介した。
しかし、ハルフォード・マッキンダーの「ハートランド論」を援用すれば、ユーラシアを基点とした国際関係の地政学では、ロシアが、長らく世界を動かしてきた「旧世界」の歴史の回転軸(pivot)の中心である。
いずれにしろ、ロシアは、未来の大国、日本にとっては、極めて重要な隣国である。
殆ど崩壊に直面していたロシア経済の生々しいレポートから書き起こしていて、女性としての心配りとキメ細かさを匂わせたロシア生活を交えたドキュメンタリータッチの現在のロシア論で、経済専門家としてのロシア政治経済報告もビビッドで非常に面白い。
昔、石油危機の時代に、日本でもトイレットペーパーが、スーパーから完全に消えたことがったし、ブラジルでも激しいインフレと品不足で、スーパーの棚が殆ど空っぽになったのを見ているが、毎日長蛇の列でも買い物が出来なかったと言う、ソ連時代の末期のソ連経済の惨状は、筆舌を尽くし難い状態だったと言う。
冷戦時代に、アメリカと覇権を争った超大国ソ連が、戦争や天変地異と言った大異変に遭遇したわけでもないのに、大恐慌より酷い経済状態に陥り、更に、98年ににも、アジア通貨危機のあおりを受けて、通貨危機に突入して国債利回りが100%超、デフォルトを宣言、ロシアの終わりという瀬戸際までに至った。
ところが、デフォルトで国際社会の信用を失墜して前途を危ぶまれたロシアが、この危機状態から、奇跡の回復を遂げた。
焼け跡状態になっていたロシア経済を回復させ、国民の心をいやしたのは、何と、石油価格の高騰だったのである。
2年も経たない間に、ロシア経済は回復し、プーチンが大統領に就任した時点では、財政も黒字転換、危機以前には想像もつかなかったような好景気を享受した。
この本の帯の如く、ロシア経済を救ったのは、ロシア人自身ではなかったのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/88/615eaa72684bc2ecd644985b552327e6.jpg)
新生ロシアは、1992年、IMFの指導下で、資本主義経済化を図ったのだが、旧体制の制度を維持したまま、経済転換を進めたために、マヒ状態であったのが、マクロ経済の好転で、プーチンは構造改革に積極的に取り組むことになった。
しかし、ロシア経済は、4割が統計で把握できない闇経済だと言うことであり、その上に、税制の複雑さはともかくも、企業も国民も税金を払わずにすむ「スキーム(知恵を絞って得をする)」を考えるのに必死だと言うから、石油価格高騰による好景気が、逆に、公務員の汚職をも増進して、行政の品位が高まる筈がないと言う。
ロシア経済で最も重要な問題は、税制改革で、透明性を高め、税の負担を軽くし、税金の比重をエネルギー、資源輸出企業にシフトさせることであった。
この実行によって、所得税と資源使用税の徴収が増加し、法人税のGDP比率は減少し、税負担は、製造業から石油天然ガス鉱石等の一次産業へシフトしたと言う。
収入隠しをなくすために、個人所得税を軽くすることで、徴税額が増えたと言う。
深刻な問題は、行政手続きの非効率と官僚の汚職で、ロシアの官僚の質の悪さは、BRIC'sのみならず、途上国でも、断トツに悪い。
ドラスティックな規制緩和や行政の簡素化等など役所の体質改善プログラムを推進しても、執行者であるお役所の体質が変わらない限り状況は良くならず、ロシアの行政改革は、中々終わりそうにない。
車通勤などでは、理由もないのに頻繁にお巡りさんに止められて、金すなわち一寸した賄賂を払わないとしょっ引かれるとかで、これが副収入となっていて、他の役所も似たり寄ったりだと言うから、無理に、お役所仕事を複雑に非効率にしているとしか思えない。
これは、随分前の話ではあるが、私がブラジルで経験したのと全く同じである。
インフラの未整備、税制の複雑性と高率、労働問題の頻発、行政の非効率等々、過重なブラジルコストとして外資がブラジルを避ける要因だが、これとまったく同様のロシア・コストがロシアに存在しているようで、その上に、透明性やオープン性がもっと希薄なロシア政治経済社会であるから、外資のカントリーリスクは、高くなるのであろう。
ロシアの今後については、政府も意識的に、オランダ病を避けるために、石油や天然ガスなど一次産業依存から脱却すべく、経済発展計画を推進しているようだが、やはり、ロシア経済の活性化のためには、最大の課題は、民間の力を如何に伸ばして活用するかであろう。
ところが、共産主義的な計画経済の名残であろうか、経済的な政策や権力は、益々、中央政府に集中しているようで、肥大化する「クレムリン株式会社」の様相を呈していると言う。
政府の投資ファンドの創設や、インフラ事業や経済特区の事業、ロシア企業の海外事業、ベンチャー企業等への投資を目的として設立されたロシア開発銀行などに、膨大な資金が投入されるのだが、心配なのは、汚職の改善どころか、汚職しやすい職務のリストを作るのではないか、汚職塗れの役人にこれだけ巨額の資金を預けて大丈夫なのか、と著者が按じているのが面白い。
これまで、このブログで、何度かロシア経済に触れて、例えば、
ダレン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソンの「国家はなぜ衰退するのか」の第五章「収奪的制度のもとでの成長」で、収奪的制度のもとでも、経済は成長するが、その成長はいずれすぐに終息して、経済は一気に沈滞してしまうと言うプロセスを、ソ連を例にして語っていた。のを紹介した。
しかし、ハルフォード・マッキンダーの「ハートランド論」を援用すれば、ユーラシアを基点とした国際関係の地政学では、ロシアが、長らく世界を動かしてきた「旧世界」の歴史の回転軸(pivot)の中心である。
いずれにしろ、ロシアは、未来の大国、日本にとっては、極めて重要な隣国である。