熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ビジャイ・ゴビンダラジャン~HBR:リバース・イノベーション

2012年10月10日 | イノベーションと経営
   ダートマス大のビジャイ・ゴビンダラジャン教授の「リーバス・イノベーション論」について、本格的に知ったのは、やはり、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR 2009年10月号)に載った「How GE Is Disrupting Itself」の記事であった。
   これは、GEのイメルト会長ほかとの共著であったが、イメルト会長が、これからの国際競争に勝ち抜いて行くためには、在来型の先進国発ではなくて、新興国発のイノベーションによって生まれ出でた国際化製品を如何に開発して行くかにかかっていると言うことを、熱っぽく強調していた。
   
   この記事では、ハイエンドの超音波診断装置を中国市場に売り込んだが駄目だったので、中国の開発チームがノートPCと先端ソフトウエアを搭載した低価格の携帯型超音波診断装置を開発し、価格が20万ドルから3~4万ドルに一挙に下がり更に1.5万ドルになったので、中国では農村部の診療所などに使われるなど大成功を収めたのだが、質の向上に連れて、その携帯性と小型簡便性が受けて、アメリカの救急隊や緊急救命センターで使われるなど大ブレイクして、ポータブル型超音波診断装置として、逆に先進国でもヒット商品となったと言うケースを紹介している。

   リバース・イノベーションとは、新興国でアイデアを生み出して製品開発し、国際商品として欧米日先進国市場に持ち込むと言うイノベーション手法で、
   先進国で開発された商品を、安くしたり質を落としたりしてローカル仕様に改変して新興国に持ち込むと言う「グローカリゼーション」とは、対極にある考え方である。
   グローカリゼーションで開発された商品は、新興国市場の最上位セグメント、すなわち、先進国と同様のニーズと資力を持つ購入者には効果的であっても、新興国市場における成長の機会の殆どは、中位以下の市場であり、これ等の顧客ニーズは、先進国の中位以下の顧客ニーズとは大きく食い違っていて、殆ど売り物にはならない。
   したがって、「新興国市場で成功したければ、新興国の中位以下のボリュームゾーンやBOPのニーズを満足させるような新興国市場のためのイノベーションが必要だ」と言うことで、リバース・イノベーションが必須だと言うのである。

   ゴビンダラジャン教授は、HBR2012年4月号の「A Reverse-Innovation Playbook」で、ハーマン・インターナショナルが実施したインフォテインメント・システムのリバース・イノベーションの成功例を紹介している。
   パワフルCEOが、GPSナビゲーション、音楽、動画、携帯電話、インターネットを統合したメーカー標準装置のシステムは、今後頭打ちとなると考えて、新興国向けのシステムを開発するために、設計から製造まで低コストのプラットフォーム構築を決意して、全く新しいアプローチを取るプロジェクトを命じて、中国とインドにイノベーションチームを作って、社内の強い抵抗を押し切って、リバース・イノベーションを成功させたのである。

   ハーマンの成功のポイントは、下からの根本的な改革と、上からの巧妙なリーダーシップとを組み合わせた二方向からなるアプローチで、まず、新興国の自動車メーカー向けにイノベーションを行い、その後、中価格帯の自動車を製造する先進国メーカーに売り込み、このモジュール化と拡張性によって成功した新しい設計手法と生産方法を、従来からの高級品市場に移行させるべく、リバース・イノベーションの第三段階に入ったと言う。

   前の論文では、イメルトは、GEがリバース・イノベーションに取り組むのは、自己防衛だ。シーメンスやフィリップスやロールスロイスなどの従来のライバルたちは、GEをノックアウト出来ないが、GEが、新興国でイノベーションを起せなければ、中国やインドの巨大企業に負けてしまう。と危機感をつのらせていた。
   しかし、今回、ゴビンダラジャンは、リーバース・イノベーションは、単に、新興国開発の製品を先進国に逆上陸させると言うことだけではなく、企業がイノベーションにアプローチする際の方向性を逆転させることを意味しているのみならず、正に、企業そのものを大変革する経営革新だと強調している。

   このゴビンダラジャンのリーバース・イノベーション論は、あくまで、先進国のMNCからの新興国でのイノベーションを論じているが、あのタタ・モーターズの2000ドルの超ミニカー・ナノに代表されるように、先進国企業の発想では到底生まれないような革命的な新商品は、いくらでも生まれており、BOP市場攻略経営戦略の先駆者である故プラハラード教授の「ネクスト・マーケット」など、多くのBOPビジネス関連書籍には、その例が沢山例証されている。
   このタタ・ナノは、ヨーロッパでもアメリカでも近く売り出されると言うことだが、ローエンド・イノベーションから、アメリカを席巻したトヨタの再来ということだろうが、瀕死状態の地球船宇宙号がグリーン革命を希求している今日、省エネ・省資源、最小限に切り詰めたイノベーションは貴重である。
   また、新興国市場であればこそ、逆説的だが、ICT技術など最先端技術をを最高度に駆使したイノベーションが生まれているなど、世界のビジネス潮流は、日本企業が知らない内に、大きく激動しているのである。

   日本企業の新興国市場へのアプローチは、自国市場向けに開発された製品を基本にして、大概は多くの機能を削ぎ落したり材料の質を落としたりして製品を改変して、安く価格設定して売っていると言ったグローカリゼーションの段階にとどまっているのではなかろうか。何時も論じているように、今や、日本製造業のお家芸である技術の深掘り持続的イノベーションの時代ではないのである。更に、破壊的イノベーションも、先進国から新興国・途上国に移りつつある。
   某日本企業のように、どうしても高くなる商品を、ユニリーバを真似て小分けして抵抗のない価格設定で売るなどと言った小手先だけの姑息なビジネス戦術では、新興国市場は攻略など出来る筈がない。
   50億のボリューム・ゾーンとBOP市場を如何に攻略して行くか、敗戦の塗炭の苦しみから立ち上がって、工業立国で今日を成した日本には、その戦略への知恵が充満していると思うのだが、後は、経営者のマインド・セット、意識革命と果敢なる挑戦であろうと思っているが、早ければ早い方が良い。

   このリバース・イノベーションや、プラハラードのBOPビジネスには、小刻みながら、何度も、このブログで書いているが、新しく出版されたゴビンダラジャンの「リーバース・イノベーション」については、まだ、読んでいないので、ブックレビューに譲りたいと思っている。
   
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