goo blog サービス終了のお知らせ 

熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

マイケル・J・シルバースタイン他著「世界を動かす消費者たち」

2014年08月19日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   The $10 Trillion Prize: Captivating the Newly Affluent in China and India
   この本のタイトルだが、「10兆ドルの賞金 中国とインドの新富裕層をとりこにする」すなわち、2020年には、10兆ドル市場を形成する中国とインドの新富裕層の消費を如何に取り込むかと言うことを、消費者の動向に視点を当てて、色々な側面から詳細に調査分析を行って、中国やインドのみならず、世界経済の将来像を展望したレポートである。

   「中国とインドにおける新しい消費者の台頭」では、
   中間層の台頭やスーパーリッチの急増、逆に、取り残されたビリオン、あるいは、財布を握る女性消費者など、經濟階層別の消費動向の推移やトレンド。
   「好きなもの、欲しいもの、憧れ」では、
   先進国商品への消費の高度化および拡大、ラグジュアリー、デジタルライフなど消費構造の変化や新トレンド、そして、教育
   「ビジネスリーダーにとっての学び」では、
   新市場を捉える「パイサ・ヴァスール」、経済と経営のブーメラン効果、猛スピードで前進する新興国企業の経営マインド、最後に、BCGの新市場攻略のための実践戦略
   を、詳細に論じていて、非常に興味深い。

   さて、
   中国とインドで新たに誕生する新中間層が10億人、2020年には、年間消費支出が10兆ドルに上ると言う。
   しかし、この有望な市場を志向して、大きく異なるビジネス環境の理解が不十分なまま両国の市場に挑んだ先進国の企業の多くは、殆ど失敗に終わっている。
   欧米の消費者向けに設計された商品・サービスを微調整するだけでは成功は得られないし、欧米向けに開発された市場アプローチを適用してもダメであり、ニューヨークやロンドン、フランクフルト、東京向けに設計されたビジネスモデルを複製しても上手く行かない。

   それでは成功の秘訣は何か。
   これらの消費者のニーズを適格に理解するためには、現地のビジネスパートナーやあらゆる政府機関との連携が必要であろうし、何よりも、経営幹部が、この心身ともに大きなチャレンジに立ち向かうべく、膨大なエネルギーと時間を割いて、「血と汗と涙」で応戦しなければ、今後10年の有効なポジションや影響力、力を確保できないであろう。
   として、
   流石に、コンサルタント会社のBCGであるから、「中国とインドの新しい消費者を獲得するための実践的戦略」を開陳している。

   このブログで、BRIC'sの経済やビジネスについては随分論じて来たし、中国やインドについても、色々考えて来た。
   そして、この本で報告されている中国やインドの消費者動向については、プラハラードの説く40億人のBOP市場の台頭や、ゴビンダラジャンの新興国発のリバース・イノベーションなど、特に、これまでの先進国主導型ではない新興国で勃興しつつある新ビジネストレンドに注視して、集中的に論じて来た。

   この本でも、欧米の先進国企業が、如何に、躍進に躍進を遂げて破竹の勢いで快進撃する中国やインドの市場に対処し、攻略して行くかについて論じているのだが、先進国企業と新興国企業の対応に明確な棲み分けが発生しているようで、その点に興味を感じた。
   豊かになった中国人が目の色を変えて追いかける高級車・時計・最先端のファッションと言ったラグジュアリー商品については、欧米の企業に完敗だが、その他の工業製品やサービスについては、完全に競合していて、どんどん、キャッチアップして行くか、新興国ベースのオリジナル商品なりサービスが生まれて来ていると言う、いわば、二重構造的な動きである。

   この後者の商品ついては、前述のBOP市場で生まれ出たイノベーション商品やリバースイノベーションで生まれた商品で、先進国企業の商品と競合して市場で激烈な競争を展開し、時には、国際商品として先進国市場に逆上陸して先行する高級商品を駆逐すると言う下克上が生じている。
   尤も、商品やサービスのみならず、中国やインドの巨大な多国籍企業MNCの台頭著しく、意欲的なM&Aや巨大な資本にものを言わせて、一気に、FORTUNE500のランクを駆け上がって来ており、大変な脅威である。

  
   このイノベーションを生むコンセプトをインドの「パイサ・ヴァスール」アプローチに依拠していると言う指摘が、非常に興味深い。
   「パイサ・ヴァスール」とは、完全に満足できる買い物やサービスに使われる言葉で、金額に見合った高い価値を提供する完全なパッケージを意味する。
   インド人や中国人が生来身につけている倹約精神で、彼らは、お得な価格で商品のベネフィットをそっくり手に入れようとして、欧米の技術や機能を、インドの価格で手に入れたいと考えるのだと言うのである。
   インドでは、消費財の大半が、あらゆるものが揃っているので、露店市やバザールで交換され、最初の付け値で取引されれば、売り手も買い手も面目を失うので、絶対、言い値では買ってはならないと言うのが面白い。

   欧米並みに一切質を落とさずに、アラヴィンド・アイ病院が、白内障手術を、米国の30分の1以下の料金で実施し、多くの貧者に無料でサービスをしながらも利益を上げており、また、ジャイプル・フットが、米国で8,000㌦の義足を30㌦(泥濘を駆け回り木登りも出来る)で作り上げていると言う例などは、この最たるケースであろうか。
   ガンジー的工学原則と言う「徹底した倹約と既存の知恵に挑戦する意欲」に基づく全く新しいイノベーション手法や即興力と適応力の源である「ジュガードの精神 」など、この本でも、インド人経営者の経営思想や経営哲学を論じていて興味深い。
   
   また、ウォートンのジテンドラ・シン教授他の著作「インド・ウェイ 飛躍の経営」で説かれているインド経営の四つの原則、
   高遠な使命、従業員へのホリスティック・エンゲージメント、即興性と適応力(ジュガードの精神)、創造的な価値提案、が、
   如何に、インド人経営者の精神的支柱を形成しているかを、併せ考えると非常に参考になって面白い。

   このような高邁な経営哲学を武器に、ぐいぐい、イノベーション戦略を駆使して追い上げてくる中国やインドの企業経営に、半ば、新鮮な脅威を感じて、これまでの繁栄に安閑としている平和ボケの先進国の人間にカツを入れるべく、レポートしているBCGの視点が、中々好ましいと思っている。

   最終章の「次世代への手紙 再生とアメリカン・ドリーム」が、また、面白い。
   私たちは、発明が利害を生み出す世界に生きており、科学、数学、工学、ビジネスが投資と富の蓄積を促す。
   この新しい世界では、誰もが、自分の未来を自らの選択によって書き換えなくてはならない。これからの世界を左右するのは、教育、大志、勤勉、起業家精神、コラボレーション、本物のイノベーションである。
   このチャレンジにしっかり取り組まない者は、生活水準が相対的に低下する危険を冒す。あまりにも多くのものを当然視する者、富や権力を浪費する者、技術への投資を怠る者、ツイッターやフェイスブックで時間を浪費する者も同じだ。と言う。

   碌すっぽ勉強もせずに、ぼけっとしていたら、恵まれない環境に鞭打って、寸暇を惜しんで勉強や修業一途に邁進している中国人やインド人に、一挙に、駆逐されてしまうぞ!と言うことである。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アリス・ロバーツ著「人類2... | トップ | 中国のデジタル・ライフ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

書評(ブックレビュー)・読書」カテゴリの最新記事