熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

フランシス・フクヤマ 著「リベラリズムへの不満」

2024年03月26日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   本書の帶に大書された『歴史の終わり』から30年。自由と民主主義への最終回答。と言うこの本。
   日本語版のタイトルが誤解を招くのだが、原題は「Liberalism and Its Discontents」で、「リベラリズムとそれに対する不満」である。
   著者は、序文冒頭で、「この本は、古典的リベラリズムの擁護を目的としている。」と述べている。
   ここでは、マクロスキーの「人道的自由主義」を指しており、法律や究極的には憲法によって政府の権力を制限し、政府の管轄下にある個人の権利を守る制度を作ることを主張している。と言う。
   近年、リベラリズムが右派のポピュリストや左派の進歩派から激しい攻撃を受け、深刻な脅威にさらされているが、それは、その原理に根本的な弱点があるからではなく、この数十年の間のリベラリズムの発展の仕方に弱点があるからで、たとえ欠点があったとしても、平等な個人の権利、法、自由が基本的に重要であるリベラリズムは、非リベラルな代替案よりも優れていることを示したい。として、
   リベラルな体制を支える基本原則に焦点を絞り、欠点を明らかに、それに基づいて、どう対処すべきか提案する。と論陣を張る。

   興味深いのは、リベラリズムは「民主主義」に包含されているが、
   「民主主義」は、国民による統治を意味し、普通選挙権を付与した上での定期的な自由で公正な複数政党制の選挙として制度化されている。
   リベラルとは、法の支配を意味し、行政府の権力を制限する公式なルールによる制度である。として、世界大戦後普及した制度は、「リベラルな民主主義」と言うのが適切だという。

   この本は、私にとっては、リベラル史を縦軸にした政治経済体制史と言った感じであったのだが、興味があったのは、経済的側面で、
   歴史的に見れば、リベラルな社会は、経済成長の原動力であり、新技術を創りだし、活気に満ちた芸術と文化を生み出した。まさにリベラルであったからこそ起ったことである。と言う指摘。
   その例はアテネに始まって、イタリアルネサンス、そして、リベラリズムのオランダは17世紀に黄金時代を迎え、リベラリズムの英国は産業革命を起し、リベラリズムのウィーンは絢爛豪華な芸術の華を咲かせ、リベラリズムのアメリカは、数十年にわたって閉鎖的な国々から難民を受け入れながら、ジャズやハリウッド映画からヒップホップ、シリコンバレーやインターネットに至るまで、グローバル文化を生み出す地となった。

   面白いのは、経済思想におけるリベラリズムが極端な形で行き過ぎた「ネオリベラリズム(新自由主義)」への変容で、
   ミルトン・フリードマンなどのシカゴ学派・オーストリア学派が、経済における政府の役割を鋭く否定して、成長を促進して資源を効率的に配分するものとして自由市場の重要性を強調した。
   更に進んで、国家による経済規制を敵視し、社会的な問題についても国家の介入にも反対し、福祉国家にも強く反対する「リバタリアニズム(自由市場主義)」の猛威。
   市場経済の効率性については妥当だとしても、それが宗教のようになって国家の介入に原理主義的に反対するようになった結果は、世界的金融危機を引き起こし、経済格差の異常な拡大など資本主義経済を危機的な状態に追い込んだ。

   興味深い指摘は、新自由主義イデオロギーがピークに達した時に崩壊した旧ソ連は、その最悪の影響を受けたこと。中央政府が崩壊すれば、市場経済が自然に形成されると多くの経済学者は考えた。透明性、契約、所有権などに関するルールを強制できる法制度を持った国に厳格に規制されてこそ市場は機能することを理解していなかった。その結果、ずる賢いオリガルヒに食い荒らされ、悪影響は現在も、ロシア、ウクライナなどの旧ソ連圏の国々で続いている。と言う。「歴史の終わり」の裏面史で面白い。

   フクシマの本は始めて読んだのだが、私の専門の経済や経営の分野ではないので、思想家や哲学者たちの学説や専門用語などが出てきて、多少戸惑いを感じた。
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