
この本のタイトルは、
How the World Became Rich: The Historical Origins of Economic Growth
どのようにして世界は豊かになったのか 経済成長の歴史的起源
まず、第1部で、成長要因を、地理、制度、文化、人口統計、植民地主義に分けて、経済成長発展の歴史を詳細に分析して、経済成長がなぜ、いつ、どこで起こったのかを論じた主要な経済成長理論を紹介。
これに基づき、近代の豊かさへの端緒を開いた北西ヨーロッパを皮切りにして、なぜ産業革命が18世紀のイギリスで始まったのか、そして、その後の工業化を分析して、ヨーロッパ諸国やアメリカなどが成功して成長発展を遂げて近代経済に至った道への軌跡を追う。
最後に、後発国の章を設けて、中国やインドなどの国家経済を取り上げて、キャッチアップ型成長の前提条件が整っていたかどうかによって、19世紀以降20世紀後半から21世紀にかけて、成長発展の命運を分けた浮沈の歴史を詳述しており、また、日本やアジアのリトルドラゴンの成功物語を展開するなど、非常に興味深い。
サハラ以南のアフリカ、中南米やアジアの貧国国などは、何故、キャッチアップできずに貧しいのか、暗黒の裏面史にもメスを入れるなど成長発展論を深堀して、人類の未来を問う。
非常に幅の広い視点からの世界経済発展論なので、総復習のための教材としても示唆に富んでいて面白い。
さて、それでは、「なぜ産業革命が18世紀のイギリスで始まったのか」
これに対する著者の見解は、ほぼ、次の通りである。
まず、産業革命前夜、イギリスに備わっていた前提条件について記し、それは、権力がある程度限られた代議制による統治、大規模な国内経済、大西洋経済圏へのアクセツ、そして高度な技術を持つ大勢の機械労働者が存在していたことであった。こうした条件のすべてを備えていたのはイギリスだけであり、こうした前提条件の多くは、ほかの条件と互いに作用しあって、一つの条件はほかの条件が揃って初めて意味を持つ。と言う。
そして、更なる工業化への前提条件として、イギリスの高い賃金と比較的安価なエネルギー価格をあげ、続いて、イギリスに伝播していた「産業的啓蒙主義」精神の効用を説く。特に、啓蒙主義の精神には、ヨーロッパ各地の最新の科学原理が取り込まれており、イギリスだけが、科学上の成果を技術的な熟練で補うことができた。この結びつきによって、産業革命において数々の技術革新が生まれて、イギリスの工業化は単なる一時的なものに留まることなく、それどころか、以来、技術革新のペースが一貫して上昇を続けた。と説く。
特定の単独の要因ではなく、幾多の産業革命を始動する前提条件が揃っていて、これらの前提条件がお互いに作用しあって好循環を生みだしてイギリスで産業革命が起こったという総合説である。
先日論述した、成り上がり者社会に群生したイノベーション論を展開したアセモグルの見解と比べると面白い。