熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

二月大歌舞伎・・・幸四郎の「祗園一力茶屋の場」

2008年02月24日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   白鸚二十七回忌追善で高麗屋となると、やはり、祗園一力茶屋の場と言うことになるのであろうか。
   これまで、大星由良之助については、この歌舞伎座では、幸四郎と吉右衛門をかわりばんこに観ているという感じであるが、今回、平右衛門を、若い高麗屋染五郎が演じたことが、特筆すべき話題であろうか。
   私の場合には、勘三郎、團十郎、仁左衛門の平右衛門を観ているので、キャラクターに対する印象が大分変わった。
   それに、おかるを演じたのが玉三郎であったので、やはり、ベテランの醸しだす舞台とは、どうしても違ってくるのが当然だが、前の3人の役者とも、夫々、キャリアを積んだ天下の名優であるから、舞台そのものの雰囲気も個性的で全く違った独特の味があった。

   この仮名手本忠臣蔵は、史実を大幅に脚色した歌舞伎で、おかる勘平など創作臭の強いキャラクターが登場するなどやはり歌舞伎の舞台だが、この一力茶屋の場面の大星の雰囲気は、我々の持つ大石蔵之助のイメージに一番近い感じがする。
   そのためにも、大星役者の力量が問われるのだが、幸四郎にしても吉右衛門にしても、頭の中に刷り込まれた今様決定版を観ている感じで、共演する役者などトータルの変化が醸しだす舞台を、丁度、何度も聴き込んでイメージの定着したベートヴェンの「運命」や「田園」を、指揮者やオーケストラの変化を楽しんで聴いているような雰囲気で鑑賞させて貰っている。

   この舞台の冒頭の大星は、遊興三昧で遊び呆けた浮様を演じているが、最後の大詰では、吉良邸への討入りを覚悟した臨戦態勢に入っており、心の起伏と変化は極めて激しいのだが、その場その場の心の揺れを、さすがに幸四郎で、心憎いほど実に上手く演じていて爽やかである。
   力弥(高麗蔵)から顔世御前からの密書を受け取る場と斧九太夫(錦吾)との掛け合いの場でちらりと鋭い本心を覗かせるが、寺岡平右衛門とおかる(芝雀)の死を賭した諍いと覚悟を見て一挙に本心を現す。
   勘平の代わりに、軒下に潜んでいた斧九太夫をおかるに殺させて怒りが頂点に達する。
   中間の京都一力茶屋を舞台にしたこの七段目は、華やかで内容の深い舞台だが、前半の事件の舞台と後半の仇討ちをドッキングする重要な舞台でもある。

   この舞台で重要な役割を果たすのが遊女おかる、勘平の妻である。
   腰元から、田舎へ帰って勘平の妻、そして、売られて遊女と3変化するのだが、夫々に特色が出ていて面白いが、この舞台では、五段目六段目のようなくらい悲劇性はないので、遊女としての色気と女の香を漂わせたおかるを見ることになる。
   ことに、密書を読まれた大星がおかるを懐柔するつもりで、二階から自ら梯子をかけて下りるのを助けるくだりで、おかるが「船に乗ったようで怖い」と言いながら下りて来るのを下から見上げて、「船玉様が見える」と洒落込むあたりは中々面白い。しかし、大星の本心は油断による悔恨で心は苛まれて煮えくり返っている。
   死ぬか生きるか、決死の覚悟の仇討ちが主題の物語で、アホかと言うこの落差が江戸歌舞伎の真骨頂と言うか、何の異質感もなかったのが正に時代なのである。
   おかるが、兄の平右衛門に家族の消息を聞きだすところで、中々、最愛の夫勘平の名前を出せずにしどろもどろしながら聞くところが面白いのだが、芝雀の恥じらいの表情が実に初々しくて、突出した華やかさはないが芸の確かさには何時も注目している。

   染五郎の平右衛門は、先輩達の舞台が目にちらついているので、多少オーバーアクションが気になるものの、30代での初めての舞台にしては素晴らしい出来栄えだと思う。父幸四郎からではなく、叔父吉右衛門から教えを請うなどと言うのは面白い。
   弁慶を演じたいと言っていたが、前にも書いたように、染五郎は、女形は勿論、西洋ものの戯曲でも、近松の和事でも、或いは、豪快な立役の舞台でも、ある意味では何でもこなせる器用な万能役者の素質があると思っているので、この平右衛門も、大スターへの一里塚であって、一つの通過点で、次の舞台では一段上に飛躍している筈である。
   芝雀との相性も良く、一寸芝居気には欠けるが、溌剌とした清々しい舞台であったと思っている。
   
   斧九太夫は、これまでは芦燕だったが、今回は錦吾が演じていた。重厚さは増したが、あの芦燕の憎らしさと言うか食えない悪辣さはなくなっていて、丸い感じの九太夫の雰囲気であったが、これも一つの型かもしれない。
   
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