熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立名人会・・・神田松鯉の講談「赤穂義士外伝 天野屋利兵衛」  

2019年12月23日 | 落語・講談等演芸
   国立能楽堂の第436回 国立名人会 のプログラムは、
   落語「猫退治」 雷門小助六
   講談「外相の右足」 神田阿久鯉
   コント  コント山口君と竹田君
   落語「自殺狂」 古今亭寿輔
  講談「赤穂義士外伝 天野屋利兵衛」  神田松鯉

   私は、 人間国宝神田松鯉の講談「赤穂義士外伝 天野屋利兵衛」を聴きたくて、出かけた。
   天野屋利兵衛は、赤穂義士の吉良邸討ち入りのための武器調達を一手に引き受けた堺の廻船問屋の松永利兵衛で、厳しい奉行の取り調べにあっても、大石内蔵助との密儀を明かさず、可愛い子供を殺そうとされても、「天野屋利兵衛は男でござる。」と言って口を割らなかったと言う大坂商人の鑑。
   浄瑠璃・歌舞伎は勿論、浪曲、落語などにも、これを主題としたバリエーションの作品があり、非常に興味深い。
   私は、歌舞伎の仮名手本忠臣蔵の十段目・発足の櫛笄の「人形まわしの段」「天河屋の段」を一度観ただけだが、義侠心に秀でた大坂商人の話で、歌六の粋な利兵衛に、痛く感激したのを覚えている。

   神田松鯉の講談は、次のような話だったと思う。
   浅野家当主が、天野屋利兵衛を、城の道具の虫干しを、直々に案内し、重宝の雪江茶入れをよく見ておけと見せたのだが、その日、その茶入れが紛失し、利兵衛が疑われ、詮議した内蔵助に、「自分が盗んだ」と白状した。ところが、この報告に、お殿様にお目通りしたら、自分が持ってきたと示される。なぜ、嘘をついたかと聞いた内蔵助に、係の貝賀や磯貝が切腹になるからと答えた。
   この一件以来、浅野内匠頭と利兵衛との深い親交が続いたと言う。
   浅野内匠頭の刃傷事件と切腹を聞いた利兵衛は、妻を離縁して、槍を背負って赤穂城に馳せ参じて、内蔵助に、御恩をお返ししたい何でもすると懇願したので、利兵衛の忠義と男気を信じた内蔵助は、口外するなと釘を刺して、大事を語って13種の討ち入り武具の調達を頼み込んだ。
   武具調達に勤しむ利兵衛を、たれこむ者がいて、家宅捜索をすると、忍び道具・改造ろうそく立てが出てきたので、 町奉行松野河内守助義により捕縛され拷問にかけられるが、利兵衛は、義理ある人から頼まれたのだが時が来るまで待って欲しいと懇願するばかりで、口を割らない。
   町奉行は、一人息子を人質に取り、子供の喉元に刃を突きつけて白状を迫るが、「天川屋の儀兵衛は男でござる」。
   そこへ離縁した女房・ソデが現れ、夫や息子の難儀を見かねて、内蔵助に頼まれたのだと一切を暴露するのだが、町奉行は、槍を背負って赤穂城に馳せ参じた一件を、「あり得ない。狂女じゃ。」と言って取り合わず、それから一切取り調べをしようとしなくなった。
   討ち入りの成功を、牢番の立ち話で知った利兵衛は、安堵。取り調べれば忠義の邪魔。と奉行は利兵衛を釈放したと言う。

   勿論、名奉行松野河内守助義は、利兵衛の義挙は、お見通しで、忠義の邪魔になってはならないと、お目こぼしを行ったようだが、武士の情け、勧進帳の、切腹覚悟で義経一行を見逃してやった富樫同様の情けあるサムライであった。
   
   さて、歌舞伎の10段目だが、天河屋義平の店へ踏み込んで取り調べをして、義平を吊し上げて子供を殺そうとするのは、義平の忠義を試そうとした大星由良助たちだったと言う、何とも締まらない話になっていて、この所為かどうかは知らないが、上演回数が殆どなく、文楽でも、11月は上演されたようだが、私が観た2012年の国立文楽劇場の通し狂言でも、上演されなかった。

   浪曲の「天野屋利兵衛」を聴いてみたと思っているのだが、傑作は、落語の「天河屋義平」、
   天河屋が、自宅へ大星由良助を招いて酒宴を開いた時、由良助は、天河屋の女房が美人なのに目をつけて、「拙者の妾になれと」口説く。女房は、由良助の色好みは承知なので、「今夜、私の部屋に忍んで来てください」と誘うと、喜んで飲み潰れてしまう。一方、女房は、天河屋にも飲ませてべろべろに酔わせて、自分の部屋に寝かせて、自分は義平の部屋で寝てしまう。むっくりと起き上がった由良助は、約束通り女房の部屋に忍び込んで、布団をまくってコトに及ぼうとした時、天河屋はびっくりして飛び起きて長持ちの上に座って、「天河屋の義平は男でござる」。
   
   さて、楽しませてもらったのは、女流講談師の神田阿久鯉 の講談「外相の右足」。
   不平等条約改正を目論む明治の元勲大隈重信が、暴漢に、馬車に爆弾を投げ込まれて右足を失う大手術に纏わる話で、明治時代の激動を垣間見て興味深かった。
   丁度、ジャレド・ダイアモンドの「危機と人類」の幕末の日本の辺りを読んでいたところなので、面白かった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジャレド・ダイアモンド 著「... | トップ | 国立能楽堂・・・狂言「鐘の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

落語・講談等演芸」カテゴリの最新記事